戦争と看護婦
川嶋みどり、川原由佳里、山崎裕二、吉川龍子 著
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- 戦争と看護婦
- 川嶋みどり、川原由佳里、山崎裕二、吉川龍子 著
- 図書刊行会2200円
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日本看護歴史学会会員、赤十字看護大学の教員たちが、太平洋戦争時の赤十字看護婦たちの救護活動について研究し、まとめた。日本赤十字社に保管されている救護活動記録や、元救護看護婦へのインタビューなど豊富な資料を基に構成。あまり注目されてこなかった空襲下や原爆投下時の日本の救護活動についても記している。
危険を顧みずの救護は本当に尊敬に値する。犠牲者も多く、あまりの過酷な状況を知り胸が痛くなる。医療材料が届かず患者を死なせてしまうことはどれだけ無念だったろう。乳飲み子がいても召集され、満洲派遣後、シベリアや中国に抑留された人たちもいる。性暴力の被害を受けた人や精神を病んで自殺した人も。手榴弾や青酸カリを持たされていたことにも驚く。
日本も連合軍も戦地軍隊の傷病者の状態改善などに関するジュネーブ条約を守らなかったという事実は、戦争では簡単にルールが破られ、人の命が軽んじられることを我々に突きつける。(ん)
差別を主題とした、今年2月に死去した著者の遺作小説。
時代は戦中から戦後、現代まで広がる。絵美子は障害を持つ兄・耕一郎と、若くして夫を亡くした母カズミと暮らしていた。戦後の高度成長期前、しがらみから離れたい親族たちの生き方が絵美子たち家族と絡み合う。渡米して核物理学者になる母の兄・永一郎。母の兄弟たちが戦争中に興奮して見た「美しい」ヒトラー・ユーゲントの姿。絵美子が後に知るナチスの障害者虐殺。そして、従兄弟たちが絵美子にささやいた「フテキカクシャ」という言葉の真意…。穏やかでいられない絵美子の気持ちが内省的に語られる。
日頃親しい人々から何気なく発せられる差別感。障害者に対する世の中の無視など。著者自身の体験と深い思索が迫り、自分の中の無意識の差別感情がえぐられるようだ。
終盤、病に冒された永一郎が、核開発や原発への反省を語り出す。著者の最後の関心はここにあったのだと納得した。(三)
- つながり、変える 私たちの立憲政治
- 中野晃一 著
- 大月書店1300円
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2016年7月の参議院選挙で、これまでにない市民運動が起こった。「野党がんばれ」「野党は共闘」と市民から送られたエールに応える形で野党共闘が実現し、1人区で11の議席を獲得した。本書は大学生を中心としたSEALDsらとともに「市民連合」を立ち上げた呼びかけ人・中野晃一さんに、市民+「立憲野党」の新しい政治の可能性をとことん尋ねている。
これまでなしえなかったリベラルと左派の協力が可能になったのも、人と人をつなぐことができたのも、しがらみのない市民の力が大きかった。そういった実績とともに、選挙で改憲勢力が2/3を超えてしまった危機や都知事選での反省などについても率直な意見を述べている。正しさを貫き通そうとするのではなく、お互いをリスペクトしながら育てる関係性の大切さに気づかされる。一歩一歩進むしかない。
野党と市民の共闘の次なるステップは? そして自分にできることは? ぜひ参考にしたい。(室)