- 反東京オリンピック宣言
- 小笠原博毅、山本敦久 著
- 航思社2200円
|
|
2020年東京五輪までちょうど4年。世はリオ五輪で沸き返っている中で、本書は刊行(=敢行)された。東京にいるとすでに大声で「東京オリンピック反対」と言えない五輪ファシズムの中にいるような錯覚にとらわれることがあるが、本書を読み進めるうちに決して自分の感性が極少派ではないと気づかせてくれる元気の出る本だ。
16人の著者の「宣言」の視角は実に多様だ。批判は現代の諸課題とどこかで緊密に結びついている。どこからでもよいから全体を通読してその視角の多様性を「体感」してほしい。中でもアスリートとしてのオリンピック批判は貴重な論考だ。ローマ五輪の金メダルを川に投げ捨てたモハメド・アリ、オリンピックがスノーボードをダメにしていると断言するハーコーセンなど、スポーツ競技とオリンピックをトップアスリートの側から考える論考には、多くのヒントを得ることができた。
東京オリンピックを批判的に捉える人には本書は必読書だ。(宮)
誕生を待つ生命 母と娘の愛と相克
高良美世子 著 高良留美子 編著
|
- 誕生を待つ生命 母と娘の愛と相克
- 高良美世子 著 高良留美子 編著
- 自然食通信社2500円
|
|
戦後初の参院選で議員になった平和運動家、高良とみさんの三女で、拒食症のため18歳で自死した高良美世子さんの中学1年~高校3年(1955年)までの日記、手紙、創作を、遺稿集として二女の詩人、高良留美子さんが出版した。
遺稿には存在の不安や孤独、自然、芸術、神、書くことなどについての痛ましい真摯な懊悩、若い鋭敏な魂の軌跡が記されている。留美子さんの渾身の解説からは、近代家族の矛盾を一身に引き受けて生き難かった妹の記憶が、現在形で鮮明に伝わる。高良とみさんの戦中・戦後の活躍の影で、美世子さんへの「溺愛」による家族からの孤立と母娘関係の葛藤など、現代にも通じるテーマである。
留美子さんのこの受難のような仕事の願いは、遺稿からとられた「誕生を待つ生命」という題にも込められている。その後60年間、いのちの思想、平和、循環する文明…を評論、詩などで追い続ける留美子さんの原点でもあろう。(辺)
- スマートメーターの何が問題か
- 網代太郎 著
- 緑風出版1600円
|
|
スマートメーターとは、通信機能付きの電子式計量メーター。電波による健康障害、プライバシー侵害、停電・ハッキングに弱いなどの問題が世界規模で起きているが、日本では2020年代前半までに、全戸の家庭用電気メーターをそれに取り替える計画が粛々と進んでいる。本書は、「電磁波問題市民研究会」事務局の著者が膨大な資料と海外事情、東電や経産省などとの交渉を基に書いた、読みやすい基本書。
再生エネ導入や新電力への変更にスマートメーターが必要と思わされているが、スマートメーターでなく従来型のメーターでも技術的障害がなく、「全戸強制設置」に法的根拠も技術的正当性もないことを著者は証明する。国が提唱する節電メリットも効果は疑問、とも。海外では、市民運動が起き、強制設置でなく選択制になった国も。
設置の可否や通信態様など、私たちの「選ぶ権利」を確立するためには地道な交渉が必要。本書は大きな武器になる。(登)