中東と日本の針路 安保法制がもたらすもの
長沢栄治、栗田禎子 編
|
- 中東と日本の針路 安保法制がもたらすもの
- 長沢栄治、栗田禎子 編
- 大月書店1800円
|
|
昨年、中東研究者やジャーナリストが「『安保法案』に反対する中東研究者のアピール」を発表、そこからこの本は編まれた。
審議の過程で、「ホルムズ海峡の封鎖による石油供給の危機」が日本の「存立危機事態」の例として挙げられた。だが、資源確保のために海外での武力行使も辞さないとは、エゴイスティックな「帝国主義」的論理であり、さらに中東で起きた戦争や紛争を口実に、日本が海外で軍事力を行使する道に進んできたと本書は指摘する。
安保関連法案の過程で何度も首相は「ホルムズ海峡」を口にした。私たちが中東を遠い存在のままで置いてきたがゆえに、首相のこの連呼を許してしまったのではないか。
本書には中東と日本にかかわる多面的な分析と論考が満載だ。終章の短いメッセージからでも、シリア、イラクなど現地の報告からでも、関心を持つところから読み進めることができる。
遅ればせながらでも知ることからはじめたい。(い)
ここ数年、私たちは「政治が目的達成のために、法の論理を力ずくで乗り越える」のを目撃した。改憲機運が高まる今、私たちはどのように憲法を取り戻したらいいのか。新進気鋭の憲法学者である著者が、「国家の実力の統制」に切り込んだのが本書。
著者は憲法の現在を、歴史をひもといて丁寧に検証。特に平和主義は社会の中で「規範」として作用してきた。武器輸出3原則も人々が共有する規範から生まれた。一方24条の謳う「両性の平等」「個人の尊厳」は「日本独特の任務」を帯びるも、道半ば。沖縄は憲法の枠外だ。
その上で政治が憲法を覆した過程を丁寧に検証し、「実力の統制」には国会運営の統制のあり方を見直すとともに、内閣法制局だけに頼らず、裁判所が積極的に憲法判断する必要性と可能性を説く。そして裁判所の後押しをするのは、市民、と。
私たちが今後どれだけ憲法理念を希求するかにかかっているのだ。(登)
在日朝鮮人という民族経験 個人に立脚した共同性の再考へ
李洪章 著
|
- 在日朝鮮人という民族経験 個人に立脚した共同性の再考へ
- 李洪章 著
- 生活書院3200円
|
|
本書は現代に生きる在日朝鮮人研究である。在日朝鮮人は日本人から抑圧・差別され、またそれに対する抵抗運動の歴史から、「国籍」や名前に関し、いずれの選択にしても、異化・同化、抵抗・迎合といった捉え方をされてしまうことがある。著者は現代の在日の人々の「生」を、二項対立的なポリティクスに埋没させることなく描き出すことを目指したという。特に、在日朝鮮人と日本人の国際結婚のカップルや、その子どもである「ダブル」など、「純血」な民族運動から排除・周縁化されてきた人々との対話を中心に考察する。
彼女・彼らはていねいに出自などを語る。そこからは一つのカテゴリーに収斂しない、生き方の広がりを感じる。著者はこうした「内的説得力のある言葉」に「応答する営為の連鎖のもと」で、「開かれた共同性は広がる」と言う。在日の存在のポジティブ性、カテゴリーの代弁者にならず個人の多様性を抑圧しない運動のあり方など、深く考えさせられた。(よ)