- レズビアン・アイデンティティーズ
- 堀江有里 著
- 洛北出版2400円
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レズビアンとは誰か。「男/女」「異性愛/同性愛」という二項対立の後者に位置付けられることで不可視化され、抹消されてきた「レズビアン」について、著者は<アイデンティティー>にこだわり、取りこぼされてきたものを丁寧に見つめる。そして「女」「同性愛者」という2つのアイデンティティーが重なり合うポジションから、異性愛主義と男性中心主義に対する抵抗、攪乱の可能性をみる。
歴史、理論、抵抗運動、制度、レズビアンたちの言葉、著者自身が関わってきた運動など多岐にわたる論点から、レズビアンがなぜ生き難くさせられているのかを問う。また、天皇制や戸籍制度を問題化しないまま同性婚を求める動き、「多様性の称揚」を歓迎する向きに対しては、マイノリティーを排除する装置自体を問わないままの「可視化戦略」に警鐘を鳴らす。
「レズビアン」という名づけを引き受け、牧師、研究者、アクティビストである著者による、体温を感じる渾身の書。(塩)
時代に生かされている人間を書きたいと言う作家が、戦後70年の今年、占領軍の「慰安所」RAAをめぐる女性を取り上げた小説。主人公は鈴子、14歳。そして母のつたえ。RAAで通訳として働くつたえが、鈴子の視点で描かれる。戦争中に夫を亡くしたつたえは、かつて夫に自立心を押さえ込まれていたが、敗戦を機に自ら考え、新しい生活を求めていく。時に、後ろ盾の男性を求めながら。
女性たちの姿が際立つごとに、物語に引き込まれていく。敗戦の混乱、米兵が「女を襲う」うわさ、〈パンパン〉女性たちなど、社会情勢も捉える。つたえが最初のRAA施設である大森「小町園」や熱海の施設と関わることで、歴史も丁寧になぞる。
1946年3月半ば、鈴子は銀座で「婦人民主クラブ」と出合った。著者は鈴子に、その街頭演説をもっと聞いていたいと語らせる。鈴子母子にも、周囲の女性たちにも、日本社会にも、新時代の予感を思わせる場面だ。(三)
2050年 超高齢社会のコミュニティ構想若林靖永、樋口恵子 編
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- 2050年 超高齢社会のコミュニティ構想
- 若林靖永、樋口恵子 編
- 岩波書店1700円
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家族(ファミリー)は薄れ(レス)、地縁と“結縁”によるコミュニティの発生により、新たな介護の姿が見えてくるようだ。都市への人口移動から、高齢化、限界集落、自治体消滅は本当か。人口流出による自治体消滅のキーとなるのは女性の流出。女性を地域に留まらせるためには、女性議員の数を増やすことだという。人口減だからといって、産めよ増やせよの声がかかっても、今の女性は乗ってはこない。
「集いの館」構想も興味深い。どんな時代でも、人が人として認められなければならない。平和によって勝ち得た長寿社会を、人口を増やすのではなく、いかに人間的な社会に作っていくか。果たして、今から35年の間にどれだけ実現できるだろうか。多くの示唆に富む書である。(き)