“記憶”と生きる 元「慰安婦」姜徳景の生涯
土井敏邦 著
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- “記憶”と生きる 元「慰安婦」姜徳景の生涯
- 土井敏邦 著
- 大月書店1800円
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元「慰安婦」の日常を記録した映画『ナヌムの家Ⅰ、Ⅱ』(ビョン・ヨンジュ監督)の中で、ひときわ強い眼差しのハルモニ、姜徳景さんを覚えているだろうか。本書は、パレスチナ取材やドキュメンタリー制作で知られる著者が姜徳景さん(1929~97年)の半生を記録した書。著者は、「慰安婦」問題がますます政治問題化する中で、見えなくなっている等身大の彼女たちの姿を伝えたいと考えた。
韓国南部の裕福な家庭に生まれ、15歳の時「女子挺身隊」として富山県の軍需工場へ送られる。重労働と空腹に耐えかね脱走直後、軍人に捕まり強かんされ、長野・松代の「慰安所」へ。敗戦後妊娠を知り、出産。孤児院に預けた息子は幼くして死去した。食堂経営、米軍基地の運転手などとして働き、1992年、韓国で「ナヌムの家」が設立されたときに入居。体験を表現した絵も印象的だ。
20年前に記録した映像を基に同名の映画も製作。彼女たちの記憶を風化させてはならない。(晶)
朝日新聞「吉田調書報道」は誤報ではない
海渡雄一、河合弘之ほか 著
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- 朝日新聞「吉田調書報道」は誤報ではない
- 海渡雄一、河合弘之ほか 著
- 彩流社1600円
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本書では、弁護士、ジャーナリストらが、「福島第一原発・吉田所長の調書に関する朝日新聞報道」の真実に迫る。
ジャーナリストの山田厚史さんは、従軍「慰安婦」を巡る「誤報」と池上彰コラムの不掲載の二つの判断ミスこそが朝日新聞経営者が責任を取るべき事柄だったにもかかわらず、吉田調書報道を前面に立て、問題をすり替えたと指摘。
海渡弁護士はTV会議記録や柏崎メモといわれる資料から3月15日の朝に何が起きていたのかを明らかにし、さらに、記事取り消しを追認した「報道と人権委員会」(PRC)見解を、具体的な事実をもって徹底的に批判する。さらに、津波高を確実に予見しながら対策を先延ばしにしてきた東電や保安院の「罪」も詳説する。
朝日の二人の記者により、隠されていた吉田調書と東電テレビ会議記録が白日の下にさらされ、重要な問題提起が行われたのだ。
全事実が明らかにされない限り、再稼動はありえない。(い)
資本主義の克服 「共有論」で社会を変える金子勝 著
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- 資本主義の克服 「共有論」で社会を変える
- 金子勝 著
- 集英社720円
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アベノミクスで実質的成長率はマイナス0.5%、格差と貧困は悪化…。しかし「アベノミクス反対」「グローバリズム反対」とは言えても、批判する側も未来志向の戦略がないのでは? 本書は日本経済の根本的原因を把握し、きたるべき未来の経済社会を提示したもの。
重要なのは現在の状況を「資本主義」の長い歴史の中で俯瞰すること。今は「第3次産業革命」の時。スーパー・コンピューターやクラウドなどの通信技術により、世界は重厚長大産業のような「集中メーンフレーム型」から、「地域分散ネットワーク型」へ転換。そこでは制度やルールの「共有」が鍵に。金融、福祉、再生エネルギーや社会保障などあらゆる分野でそれができれば、新規産業や個人の多様性が生まれるが、日本は、米国の制度の強要に過ぎない「市場原理」を信奉し、産業転換に乗り遅れ…。
どん詰まりの日本経済にさまざまな角度から新たな光を当てる、目からうろこの書。(登)