遊郭のストライキ 女性たちの二十世紀・序章
山家悠平 著
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- 遊郭のストライキ 女性たちの二十世紀・序章
- 山家悠平 著
- 共和国2400円
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表紙折り返しの写真で歓喜するのは、近代日本の公娼制度の中で「籠の鳥」と言われていた娼妓たち。著者は、廃娼運動家の側からしか語られることのなかった遊郭の中の女たちが、自らの性と生を取り戻すために立ち上がる様子を、新聞記事、娼妓の手記、聞き書きなどから明らかにした。
娼妓たちはもともと底辺労働者で、親の借金などで売られ、居住地や外出を制限され、楼主の搾取や暴力に晒された。だからこそ、労働運動の興隆と義務教育の普及を背景に、情報を得、娼妓仲間と話し合い、要求をつきつけて集団逃走やストライキを行ったり、「廃業」を申し出た。行動は全国で連鎖し、1926年、31年がピークに。31年は大不況を背景に、廃業でなく労働条件改善要求が多かった。
廃業以外よしとしない廃娼運動家の娼妓への「賤業視」の問題は、今のセックスワークと買売春の問題にもつながる。悲劇だけに染まらない娼妓たちの生き抜く力と団結する力に、励まされる。(登)
私はこうしてストーカーに殺されずにすんだ
遙洋子 著
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- 私はこうしてストーカーに殺されずにすんだ
- 遙洋子 著
- 筑摩書房1500円
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さすが、“東大で上野千鶴子にケンカを学”んだ著者だ。肝の据わった口上のキマリさ加減と、犯罪研究のジェンダー分析が鋭い。
2014年に続いたストーカー殺人から、今こそ書かねばならぬと決心し、芸能人である自身のストーカー体験で得た「逃れ方」を伝授する。最重要課題は殺されないためにどうするか、だ。警察も弁護士も頼りにならず、しかも、家族とも闘わざるを得なかった。そこから身をもって学んだのは…。
相手に対する第六感的違和感も大事だが、それ以上に大切なことは、人間を見抜く“眼識”と“ジェンダー教育”だと説く。ストーカー規制法の施行前はもちろん施行後でも、自分を守ってくれない社会なら自分で予防するしかないと、助言が的外れな警察や弁護士に見切りをつけ、女性団体に救いを求めた著者。男の見立てや、男女の力関係が暴力へ結びつくという認識も、ジェンダー教育の有る無しが大いに関わる。著者の経験と助言を共有したい。(三)
民族でも国家でもなく 北朝鮮・ヘイトスピーチ・映画李鳳宇、四方田犬彦 著
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- 民族でも国家でもなく 北朝鮮・ヘイトスピーチ・映画
- 李鳳宇、四方田犬彦 著
- 平凡社2000円
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2人の対談集としては3冊目だそう。つきあいの長い2人は、李さんの国籍をめぐるプライベートな悩みから、昨今のヘイトスピーチや北朝鮮問題まで、率直に語り合う。『フラガール』などで知られる映画プロデューサー(李)と、映画評論家(四方田)だから映画の話も。本音が炸裂し、息が合ったやりとりは最後まで飽きない。
2000年代の初めには、韓流ブームなども起き、日韓の関係は良い方向に進んでいると思われた。が現在、街には嫌韓本とヘイトスピーチデモがあふれている。「世界が不吉で不幸な方向へと滑りだしていったとき、われわれは何をすればよいのか」という問いのもと、2人が導き出す答えは魅力的だ。
「日本は憎まれない小さなかわいい国に枯れるのがいい」「五族協和でなく百族協和の多民族国家がいい」等々…。北朝鮮との一刻も早い国交回復など、日本は独自外交をすべきという考えにも納得。軽く読めるのに国家や民族を深く考えさせられる本だった。(く)