- イスラム戦争 中東崩壊と欧米の敗北
- 内藤正典 著
- 集英社760円
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著者は、どのような背景からイスラム国が出現したのか、イスラム的価値観とは何かを書く。
日本では中東、イスラムについてのリテラシーがなく、報道も間違いだらけだと著者は言う。
現在、世界にいる16億人のムスリムとの共存のために、まずは相手を知ることが第一歩だ。
若者がヨーロッパからイスラム国に向かうのは、西欧諸国での西欧的価値観によるムスリムへの差別と排斥の結果だったという。
イスラム国の暴虐は決して認めないとしながら、「過激なテロ組織」として攻撃するだけでは何も解決せず、イスラム法の枠の中で武力行使以外の選択肢を探さなければ、彼らを一層過激に頑迷にしてしまうと指摘する。
トルコが、親米国家でありながらイラク戦争への参戦を拒否するなど、自立した外交路線をとってきた事例を紹介しながら、日本も同様に、対米追従ではない平和主義を堅持できるとする意見に同感だ。(い)
男しか行けない場所に女が行ってきました
田房永子 著
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- 男しか行けない場所に女が行ってきました
- 田房永子 著
- イースト・プレス1200円
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床から吹き上がる風でスカートがめくれ上がる「パンチラ喫茶」、密着型理髪店、ドール専門風俗店…町中にあふれる男向け風俗。『母がしんどい』『ママだって、人間』の著者(本紙2014年12月5日号1面)が、「男が行くのはやむなし」とされる風俗の現場を「女目線」で赤裸々に綴った。
「性の商品化」という言葉をはるかに超える、風俗の種類の多さ。仕事の取引先と行くような店(おっぱいパブ)や、DVD鑑賞をしながら自慰行為ができる「DVD個室鑑賞」まである。しかも、家事・育児は妻に任せっきり。一方、風俗で働く女たちにも著者は迫る。彼女たちとの間にある感情の溝に気づきながらも、女たちの本音(「借金で仕方なく」、割り切りなど)を一顧だにせず、理想と欲望を押しつける男社会を見据える。
とことん男の「欲望」をかなえるこの社会の有りようは、女への性暴力、女性差別に「寛容」で鈍感な男社会なのだと、本書は見事にあぶり出した。(登)
- 毎アルツイート・マミー
- 関口祐加 著
- パド・ウィメンズ・オフィス1900円
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映画『毎日がアルツハイマー』『毎日がアルツハイマー2』の監督である著者が、映画の被写体になった認知症の母親の介護の日々を記録したツイッターやエッセイ、精神神経科医師との対談を収める。映画同様、認知症のイメージを一新させる良書だ。
認知症が進行するにつれ、規範から解放され、自由にチャーミングになっていく母親の姿に、「認知症は神様からのプレゼント」と著者は痛感するという。問題は、家族がそう思えるかだけ、つまり介護の問題は、認知症本人にあるのではなく、すべて介護する側の問題であることを(コミカルな文体にのせながら)鋭く突きつける。
そのためにも、イギリスの「パーソン・センタード・ケア」のように、一人一人に合わせた、高度なスキルを伴った認知症ケアが日本にも必要という意見に納得。認知症を悲観するような風潮を払拭し、認知症ケアのプロ育成に本腰を入れることが、高齢化社会の日本には必須だと感じた。(よ)