私たちに知らされてこなかった死刑囚の心の軌跡、息づかい、執行の瞬間の凄惨さに愕然とする。人が人を裁く意味を問い続ける著者が、戦後半世紀の間死刑囚の教誨師だった僧侶、故・渡邉普相の人生を追った。命を賭して語る言葉は「死刑制度が持つ苦しみと矛盾」を浮き彫りにする。
死刑囚たちは人一倍差別や暴力、不運にさらされ、自己防衛のため自己中心の価値観で生きてきたため、被害者へ思いが至らないことが多い。渡邉は死刑囚に一時の「空間」を与えるべく、何年も対話を重ね、心を通わせてきた。すると死刑囚たちは自分の犯した罪と向き合えるようになる。でも社会も司法も「死で償え」と言う。更正や生き直しなどどうでもいいと。
生き直した死刑囚の執行の間際「浄土へ」と説かねばならない渡邉。「人殺し」をする刑務官。後年渡邉はアルコール依存症に苦しむが、彼らの苦渋こそ、死刑のある国日本に住む私たち全員が背負わなければならないはずだ。(登)
家族をこえる子育て 棄児・離婚・DV・非行を救うセーフティネット
渥美雅子 編著
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- 家族をこえる子育て 棄児・離婚・DV・非行を救うセーフティネット
- 渥美雅子 編著
- 工作舎1400円
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「里親と養子」「未成年後見」「離婚による面会交流」「非行少年の気づき」…テーマはどれも、今の時代が抱えるタイムリーな問題を「家族問題研究会」に集うメンバーが論説していく。この研究会は、学者や法律実務家、教師、医師、調停委員など20人ほどが、月に1回集まって話し合う会である。
どの執筆者も真摯に子どもたちと向き合い、「家族の問題」が抱えるセンシティブな側面を丁寧に論じている。中でも、非行少年と被害者の実際のやり取りを再現しながら、関係修復を解説した第5章は胸を打つ。被害者を罰するだけではなく、どうすれば罪の意味をしっかりと心に刻むことができるのか、言葉だけではない反省と向き合えるのか、具体的な提案であり、もっと知られていい問題である。
ただ、崩壊した家族に代わる「家族」を提供するという提起ではなく、「家族」そのものを問題視する視点があれば、もっと違った景色も見えてくるのではないだろうか。(順)
「密室」「守秘義務」によって外からは分かりづらいカウンセリング。著者はそこに不審を抱き、大学院などで臨床心理学を学び、精神科医やカウンセラーに5年かけて取材・執筆した。カウンセリング現場に取材者として同席することを避け、クライアントとして受けた場面を詳細に記し、自身の精神疾患も最後に明かしている。その誠実な姿勢、綿密な取材と筆力によって、セラピストの世界にぐいぐい引き込まれていく力作だ。
箱庭療法を日本に取り入れた故・河合隼雄や、絵画療法を取り入れている精神科医の中井久夫が中心の内容。言語化が苦手な日本人には向いているかもしれない箱庭
療法や絵画療法の可能性を期待して読んだ。社会の変化に伴い、自分の内面を表現する力が落ちている人が増えているという昨今。生きづらさを抱える人たちに命がけで寄り添うセラピストたちの厳しい現場や、時間も人も足りない現状を問う。自己を見つめる大切さもかみしめられる良書だ。(り)