福島第一原発収束作業日記 3・11からの700日
ハッピー 著
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- 福島第一原発収束作業日記 3・11からの700日
- ハッピー 著
- 河出書房新社1600円
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3・11の事故後、Twitterのつぶやきで原発内部の状況を伝えた貴重な記録が書籍化された。
著者は、事故前から原発労働に従事する20年以上のベテラン作業員であり、事故後の混乱も目にしている。匿名とはいえ、現場の状況を発信し、なお原発内で働き続けることには相当の覚悟があったことだろう。その意味では、書籍化され、記録として残されることの意義も大きい。
炎天下での作業の過酷さから、使用されている部品に至るまで、細部の様子を明らかにしながら、
彼が伝えるのは、東電の危機管理の甘さ、原発建設を許してきたこの国の政治のあり方だ。それは本来、既存のメディアが伝えるものであったはずだが、事故後、その信頼は大きく損なわれた。Twitterでの彼のフォロワーが9万人近くにものぼるのは、東電や政府のまやかしでなく、本当のことを知りたいと思う人がどれほど多いかということの表れでもある。続編にも期待したい。(梅)
なぜ、いまヘイト・スピーチなのか 差別、暴力、脅迫、迫害
前田朗 編
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- なぜ、いまヘイト・スピーチなのか 差別、暴力、脅迫、迫害
- 前田朗 編
- 三一書房1400円
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在日特権を許さない市民の会(在特会)が中心となって繰り広げられたヘイト・デモは、「ヘイト・スピーチ」として知られるようになってきた。本書はヘイト・スピーチにさらされた被害者の心の傷を明らかにし、国際条約や各国での取り組みを参考に、「表現の自由」を理由に規制に及び腰な日本の法曹界を批判、その規制方法をさまざまな角度で検討している。
さらに本書は、在日コリアンだけでなくアイヌ民族や沖縄の人たちも長年、日本政府も一体となった差別と憎悪の対象とされてきたと指摘。その指摘は鵜飼哲(フランス思想学者)が言う、在特会のような「下品」で「下から」のレイシズムに限らず、この社会の、あらゆる形態(「上品な」「上からの」)のレイシズムに対抗することにつながる。これこそが本書の狙いだ。
ヘイト・スピーチが規制されない現状への怒りから出発し、社会の公正性・平等性をどう実現したらいいのか。本書の取り組みを基に真剣に考えたいと思った。(登)
ジェンダーとセクシュアリティ 現代社会に育つまなざし
大越愛子 倉橋耕平 編
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- ジェンダーとセクシュアリティ 現代社会に育つまなざし
- 大越愛子 倉橋耕平 編
- 昭和堂2400円
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本書は元大学教員の大越愛子さんを中心に集まった研究会メンバーによる「ジェンダーとセクシュアリティ」をテーマにした論文集である。「個人的なことは政治的である」というフェミニズムのキーワードを基に、執筆者各々の個人的な体験を語りながらのジェンダー論が新鮮だ。化粧、宗教、ケア、〈慰安婦〉をめぐるメディア、就活、晩婚化、バイセクシュアルなど、多様な視点からの現代社会への切り込みが興味を引く。
編者のひとり、大学講師の倉橋さんは、保守系政治家たちの男性性を強く意識した発言に対して、同性であるが「怖い」と違和感を持つ。軍隊の男性性と不妊の男性性について論じ、軍隊(暴力)と生殖という、女性を支配する道具となり、最も男性性が現れる問題について論じる必要性を訴えたことに共感を持った。保守系政治家が跋扈する昨今、今後の男性性の研究に期待したい。カバーのかわいい女子の鋭い“まなざし”にドキリ!」手に取りたくなる本。(り)