- ルポ 虐待 大阪二児置き去り死事件
- 杉山春 著
- 筑摩書房840円
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本紙6月25日号1面に登場したルポライターの杉山春さんが、追い続けてきた大阪2児置き去り死事件。事件の背景や有罪判決を受けた母親の生い立ち、両親や元夫とその家族など周りの人々、そしてこの事件をめぐる社会のあり方をていねいに追いかけた。
私も、何度か裁判の傍聴に行き、事件の記事を本紙に書いた。それでも、この本からさらに多くのことを知り、また目を開かせられた。知らなかったことだけではなく、事件に関わる人々に注ぐ著者のあたたかなまなざしから、新たな見解を学んだ。
布おむつと母乳にこだわり、完璧な育児と家族を目指していた母親が、坂を転げるようにどん底へと落ち、ついには2人の子どもを50日間も放置して死なせた。彼女が母なるものから降りることさえできたなら、子どもたちは死なずにすんだのだろうか。
懲役30年の判決の重みを、私たちは社会の問題として考える必要があるだろう。他人事ではない、自分自身の問題としても。(順)
- 足尾銅山・朝鮮人強制連行と戦後処理
- 古庄正 著
- 発行=創史社 発売=八月書館2400円
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足尾銅山、と聞けばまず思い浮かぶのは、鉱毒事件やその解決に生涯をかけた田中正造だろう。しかし、知られざる歴史の闇がほかにもある。戦時に朝鮮人や中国人、連合国捕虜が銅山で強制労働させられていた事実だ。古河鉱業足尾鉱業所では2416人の朝鮮人、257人の中国人労働者が記録されているが、本書は朝鮮人強制連行と戦後処理について、膨大な資料を分析し、苛酷で劣悪な労働状況と加害国の企業責任を追及する一冊となっている。日本人労働者と比べ、賃金も食事も少ないといった民族差別もあった。足尾銅山では逃亡未遂者が多く、これに対する制裁=暴行致死事件が絶えなかったようだ。また朝鮮人労働者は、戦後、その大部分が未払い金すら返還されずに送還されている。
著者は、2012年6月に逝去。地道な研究者を惜しむ人々の協力で、本書が世に送り出された。最期まで戦後補償について真実を求め続けた著者が残した、大きな研究成果であろう。(室)
死の自己決定権のゆくえ 尊厳死・「無益な治療」論、臓器移植
児玉真美 著
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- 死の自己決定権のゆくえ 尊厳死・「無益な治療」論、臓器移植
- 児玉真美 著
- 大月書店1800円
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安楽死、自殺幇助、自殺ツーリズム、心臓安楽死後臓器移植…。世界で起きている死の医療を告発した本書を読んで体が震えた。
日本では尊厳死法制化の動きがあり、終末期患者に「無益な治療」の中止を説く声が大きくなっているが、「終末期」も「無益」も定義は曖昧だ。重症心身障害者の親である著者は、治療拒否にあった経験を持ち、(治療の停止、安楽死などの)法制化は「どうせ終末期の人だから」が、「どうせ障害者」「どうせ高齢者」「どうせ貧困者」…と対象が拡大することを危惧する。
科学とテクノロジーが結びついたグローバル市場経済の中で、「自己選択・自己決定という名のもとで、当事者の自己責任への転嫁」と、「専門家や専門機関をはじめ社会の側への免責」が広がっているという指摘に、命が選別され、死ぬことや臓器提供が強制される社会を想像し、背筋が凍りつく。「いのちへの畏怖」「支援する力を蓄えた社会」を呼びかける著者の言葉をかみしめ、考えたい。(り)