「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか
鈴木涼美 著
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- 「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか
- 鈴木涼美 著
- 青土社1900円
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東京で「女子高生」「女子大生」として生きた著者(1983年生まれ)。「性の商品化」の現場は身近で、生活の地続きだった。そして「自由意思」を軸とした「性の商品化」や「セックスワーク」の議論が、街の現場や自分たちの気分に合っていない、「性の商品化」には中毒的な、「きらきら」したものがあると感じていた。本書は、著者が足を踏み入れることになったAV業界を舞台に、生き生きと自分を語るAV女優の真実に迫ったものだ。
AV女優はプロダクションに所属後、メーカーとの専属契約を経て、複数のメーカー出演のために面接営業をするが、面接攻略のための自己演出が、饒舌なAV女優を生み出す一方、そこで語る「動機」が今度は女優たちの内面に取り込まれ、勤労意欲や誇りへとつながる様を描いてみせた。「自由意思」さえ業務の一環の演出だ。
「被害」に焦点が当てられる「性の商品化」だが、「きらきら」に目を向けなければ、あらゆる議論は空虚で誰にも届かなくなる。(登)
危機をのりこえる女たち DV法10年、支援の新地平へ
戒能民江 編著
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- 危機をのりこえる女たち DV法10年、支援の新地平へ
- 戒能民江 編著
- 信山社3200円
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2001年にDV法が成立し、国・自治体が「被害者の立場に立つ支援」を担うことになった。DV法上の被害者支援の基盤となったのは、売春防止法上の「婦人保護事業」だ。保護更生をめざす売防法と、女性の人権保障をめざすDV法は、本来、相容れない。この2つの機能の併存構造が、「支援の行き詰まり」や、支援の階層化、複合的な困難を抱える女性の状況を見えにくくしているのではないか。本書はその問題意識から発し、調査・研究を経て、「支援」の新地平を拓きたい、と書かれた。
支援が具体的に成功しているのは、民間と行政の連携が良い、民間主体の支援・行政による財政支援型である。そのモデルケースのいくつかや、外国籍被害者の支援についても記されている。
いま性暴力への多様な取り組みは増えている。後退させてはいけない。より良い「支援システム」を構築させていきたい。そのために現場の支援者や行政担当者に、読んでほしい本だ。(澄)
- 「リベラル保守」宣言
- 中島岳志 著
- 新潮社1400円
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「保守」が「変える」ことを叫び、「革新・リベラル」が「守る」ことで抵抗する構図が増えた。
本書は、「反左翼」を唱えるだけの「自称保守」にも、社会の基盤を崩す「ネオリベラル」(市場主義的右派)にも強い違和を感じる著者が、内外の保守思想家を参照しつつ、保守本来のエッセンスを捉え直し、「リベラル」に接続しようとした政治的エッセー。
「真の保守」は、人間は不完全なものという諦念を根本に、理性を過信した急進的・独善的な革命や進歩を批判する。歴史的経験知と結びついた理性を重視し、寛容さ(=リベラルの意味)をもって他者と対話しながら、漸進的な改革をめざす。過剰な統制も、制約なき自由も好まない。適切な歴史的・社会的縛りこそが真の自由を可能にすると信じ、孤立した自由でなく、つながりの中で自己の存在意義を感じられる場所=トポスが、人の自由を支えると考える、等々。保守とは本来、成熟の思想だったのだ(道)