母親やめてもいいですか
山口かこ 文 にしかわたく 絵
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- 母親やめてもいいですか
- 山口かこ 文 にしかわたく 絵
- かもがわ出版 1400円
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笑いながらも胸を始終ギューっとつかまれ、最後には解放されるかのように涙が止まらなかった。本書は、「広汎性発達障害」の娘の母である著者による体験コミックエッセイ。そこには「明るくポジティブな」障害児の母はない。娘の将来を悲観し、絶望し、嘆き、娘から目を背け、チャットや浮気や新興宗教にはまり、挙げ句に離婚して娘を手放す母親だ。しかし、著者がどん底からはい出して、自分や娘、娘の障害を見つめ直したときに見える地平は、驚くばかりの美しい光を放っている。
もう少し障害児を持つ母が弱音を吐ける場があったら、「やさしい」夫がもっと主体的に著者と娘に関わっていたら、障害の告知の際にもっと正確な情報(障害にしないために支援が必要など)があったら…。多くの「もし」が浮かぶが、著者の「本当は宝物を授かっていたこと 愛しい命と未来」の言葉は、子どもにかかわる全ての人に届いてほしい。専門家の杉山登志郎医師と著者との対談付き。(登)
女性ホームレスとして生きる 貧困と排除の社会学
丸山里美 著
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- 女性ホームレスとして生きる 貧困と排除の社会学
- 丸山里美 著
- 世界思想社 2800円
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日本では女性ホームレスの研究はほとんどなかった。その女性の野宿者について、著者は聞き取りや支援を通じた長年の研究から、彼女たちの固有の経験を明らかにしていく。ある女性は夫の失業にともなって夫婦でホームレスになり、単身で働いていた女性が失業してホームレスになる、あるいは、夫や家族との関係性を失ってホームレスになる人もいる。
野宿生活で彼女らにジェンダーがどう作用するのか、また女性野宿者の住居や仕事、入浴や洗濯などの生活戦術もまた多様だ。
筆者は野宿者を抵抗の主体としてみるこれまでの男性ホームレス研究に異を唱える。たとえば、ケアや親密な関係の中で、野宿から居宅生活に移るときに施設に入ったり路上に戻ったりという女性の実践を、プロセスとして見るよう提案する。
こうした分析は人間の営みをどうとらえるかという思想にもつながる。ジュディス・バトラーを援用しつつの研究。(衣)
- 女子会2.0
- 「ジレンマ+」編集部 編
- NHK出版1300円
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本書の「女子会」の参加者は、家族モデル崩壊後の、現在の生きづらさについて語る。当初はウェブ掲載であったものに加筆され出版された。
非正規雇用が拡大する今、もとより働くことに絶望している若い世代はキャリアなど望まない。母世代のように結婚し、出産後にパートで復帰という将来像を描く20代は多いが婚活も厳しい。結婚・出産してフツーに働こうにも保育所は見つからず。今や高学歴勝ち組女子のステイタスは専業主婦という厳しい現実が見える。
欲を言えば、論考的な口調でなく、もう少し当事者としての語りがほしかった。会には男子も1人参加しており、男性の価値観も男性主導や性別役割から脱却しつつあるのだと実感する。が、同時に、女性の生きづらさをそばで知りつつも既得権を手放さずに済む男性の気楽さも感じてしまった。「産める就活」、「自活女子」といった指南は、やや圧迫感も。働かず、産まない生き方も語ってほしい。(梅)