子どもへの性暴力 その理解と支援
藤森和美、野坂祐子 編
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- 子どもへの性暴力 その理解と支援
- 藤森和美、野坂祐子 編
- 誠信書房2400円
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存在はするだろうが、数は少ないだろうと信じたい気持ちが勝る、子どもへの性暴力。これまで性暴力支援の専門家と言われる人もこの領域には及び腰だったという。しかし高校生を対象としたある調査では、小学生までに何らかの性被害を受けた女子は31%、男子は13.1%で、年齢とともに被害率が上がる。子どもへの性暴力は身近な問題なのだ。そして理解不足や支援の欠如で、多く子どもが被害を言い出せず、発達に支障をきたしている。
本書は、子どもへの性暴力被害者支援に携わる専門家が、被害の実態、千差万別な短期的・長期的影響、保護者、支援者や学校関係者の支援のあり方を示唆。豊富な事例とともに、「男性支援者が女子被害者に支援を行う」時や、保護者の「生きづらさ」にも注目するきめ細やかな内容が特徴だ。
子どもへの性暴力を見過ごさず、寄り添うのは大人一人ひとりの責任、との本書の訴えを胸に刻みたい。(登)
立身出世と下半身 男子学生の性的身体の管理の歴史
澁谷知美 著
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- 立身出世と下半身 男子学生の性的身体の管理の歴史
- 澁谷知美 著
- 洛北出版2600円
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男性の身体性に着目した画期的な書。明治期以降、男子学生の性的身体は「立身出世」を名目に管理されるようになった。大人たちは花柳病(性病)の恐ろしさを吹き込み、学生に登楼を禁じた。
その最たる具体例は、軍隊に始まり、東大や旧制高校入学試験にまで及んだ性器露出検査、通称「M検」だ。どんな検査かと興味津々で読み、雑誌「蛍雪時代」などに寄せられた当時の受験生らの声に思わずククっと笑いそうになった。でも笑い事ではない。インキンや性器の大小が合否判定に関係するか、自慰の痕跡がばれないだろうかと悩む当事者は真剣だ。戦後は人権侵害としても問題になり廃止されたが、この検査が心の傷となっている男性もいることを知った。
詳細な調査を行い、この検査について語りたがらない男性の声にこそ、最も脆弱かつ言語化されない男性性があると見る、著者の洞察の鋭さには敬服した。十数年をかけて完成した本書は、非常に貴重な資料ともなるだろう。(梅)
3・11とチェルノブイリ法 再建への知恵を受け継ぐ
尾松亮 著
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- 3・11とチェルノブイリ法 再建への知恵を受け継ぐ
- 尾松亮 著
- 東洋書店1800円
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ロシアのチェルノブイリ法は、年間1ミリSv以上の被災地では、被災者が移住する場合には新しい土地で仕事と住居を保障し、留まる場合には健康診断や保養、年金を保証し、どのような道を選択しようと国家が生活再建の責任を持つことになっていると筆者は言う。法律という側面から福島第1原発事故後の日本の参考にするために書かれた本だが、条文の解説ではない。現地を訪ねて丹念に取材し、法律策定の原動力となった原発労働者たちが自分たちの権利と名誉を守るためにどう力強く行政や市民に働き掛けたか、移住した人、被災地に留まる人に何が必要かを生き生きとした言葉で浮かび上がらせる。
日本でも原発事故子ども・被災者支援法が成立した。しかし、「被災地」「被災者」の定義が不明確であるうえ、法の中身の議論も進んでいない。避難した人にせよ、低線量被ばくを心配しながら留まる人にせよ、将来像が描けず不安に苦しむ福島の被災者の顔が目に浮かぶ。(ま)