アート・オン・マイ・マインド アフリカ系アメリカ人芸術における人種・ジェンダー・階級
ベル・フックス 著 杉山直子 訳
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- アート・オン・マイ・マインド アフリカ系アメリカ人芸術における人種・ジェンダー・階級
- ベル・フックス 著 杉山直子 訳
- 三元社3200円
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わたしたちの美意識や美学は、白人至上主義、資本主義、家父長制の権力構造に影響されている。周縁化された人たちが、その芸術支配を変革するにはどうすればいいのだろうか? 著者は呼びかける。すべての芸術に、周縁化された人々による大きな批評革命を創造し、抑圧された知や美学を取り戻そう、と。更に著者は、特権階級やエリート主義に支配されている芸術批評界を批判する。階級に関わらず、美は誰の人生においても存在し得る。また、フェミニストたちが商業主義を批判する時、切り捨てられがちな美への情熱は探求されるべきだ。
日本では芸術をジェンダーの視点で語ることを受け入れるようになってきたが、人種についてはいまだタブー視されている。芸術における支配的政治学を見極め、それぞれの人生の中に占める美をふるわせて、芸術の鑑賞や批評、実践をしていきたい。(み)
この国はどこで間違えたのか 沖縄と福島から見えた日本
内田樹、小熊英二、開沼博、佐藤栄佐久ほか 著
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- この国はどこで間違えたのか 沖縄と福島から見えた日本
- 内田樹、小熊英二、開沼博、佐藤栄佐久ほか 著
- 徳間書店1600円
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沖縄タイムス・渡辺豪記者が8
人の識者にインタビュー、同紙に「国策を問う」として連載されたものが一冊になった。沖縄の米軍基地あるいは原発を切り口に、問題意識をぶつけ合う。インタビューを通し、渡辺は、基地と原発の「維持政策」には明らかに通底する手口や構造があるが、根源的な差異にも気付かされた、さらにどちらにも容易には突き崩せない日本人の心性に連なる課題があると言う。
「日米基軸」とは、官僚も政治家も、アメリカの保護下にあるという与件からしか考えないという思考停止の状態だとし、そして、「ゆっくり穏やかに縮んでゆく」後退戦の戦い方を真剣に考える必要があると内田は述べる。小熊は、政官界とのつながり方等を含む原発の在り方すべてが、「かつての日本の縮図」。「政治の回路」は機能不全で、反対陣営も既存の政治の回路に乗せるという発想だけでは行き詰まるという。発想を転換し、いかに闘うのか、個々の責任と覚悟が問われている。(い)
レイシズム・スタディーズ序説
鵜飼哲、酒井直樹、テッサ・モーリス=スズキ、李孝徳 著
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- レイシズム・スタディーズ序説
- 鵜飼哲、酒井直樹、テッサ・モーリス=スズキ、李孝徳 著
- 以文社2800円
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日本は、門地差別や先住民・旧植民地人・移民労働者差別が根強く存在する「レイシズムの博物館」であり、ヨーロッパの極右運動家が理想としているという。テッサ・モーリス=スズキは、レイシズムは「先祖から引き継いでいる(と思われている)」身体的、文化的、社会的位置といった特徴で集団間に境界線を引き、不平等・不公平な社会構造を構築・継承する特殊な社会行動であると定義する。なんとレイシズムとジェンダー差別は重なっていることか。
本書は国民国家の成立、帝国主義とレイシズムの抜きがたい関係を明らかにするとともに、米欧でのイスラム系の排斥、日本の在特会の活動などが、グローバル化による経済の不安定化・格差の拡大から標的を見出して他者を排除するという構造を持つことを指摘する。「同じである」ことではなく、「『違う』ことをもとにして社会性や共同性を作り出す」ために、民族にせよ、性にせよ、差別を貫くものを見極めるのに絶好の書。(ま)