一人ひとりの大久野島 毒ガス工場からの証言
行武正刀 編著
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- 一人ひとりの大久野島 毒ガス工場からの証言
- 行武正刀 編著
- ドメス出版2500円
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戦争中、ひそかに毒ガスを作っていたことで知られる、瀬戸内海の大久野島。当時、軍事機密のため地図からも消されたこの島には、対岸の竹原市忠海(ただのうみ)から市民、学徒や女子挺身隊が動員され、運搬中に毒ガスをかぶり、亡くなった人もあった。高等小学校を卒業したばかりの幼年工(のちに廃止)が巻き込まれた大事故もあった。多くは呼吸器障害、目や粘膜のただれなどに悩まされた。
本書は1962年から忠海病院に勤務し、毎日毎日毒ガス後遺症に苦しむ重症患者たちを診察、治療し続けた医師が「患者さんの証言を残す仕事は、自分にしかできない」とひたすら人びとから聞き取りをし、その遺志を受け継いだ医師の娘が、277人の証言集として世に送り出した。当時も生物・化学兵器使用を禁止していた「ジュネーブ議定書」を批准せず、台湾や中国で殺戮を行い、自国民を苦しめた戦争の闇は、いまも残されたままだ。事実は消せない。(室)
国民が本当の主権者になるための5つの方法
日隅一雄 著
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- 国民が本当の主権者になるための5つの方法
- 日隅一雄 著
- 現代書館1800円
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行楽の秋。高原の散策やキノコ狩りは楽しいが、それを可能にする社会や環境づくりに取り組んでいる人はどれほどいようか。オスプレイが舞う空の下や放射能汚染の大地ではレジャーなど絵空事でしかない。そうならないようにするのが私たち自身の役目である。国民主権は、言葉を知っていることではなく、実現・維持されてはじめて意味を持つ。
この本は、財界への天下り体系を背景にした官僚主導の政策、政治家の能力不足と選挙制度の不備、情報公開の欠如と大手メディアの責任、これまで無関心だった国民の姿、それらによる弊害を提示しながら、現状から脱却する必要性を訴える。
すべての人に読んでほしいが、教育に携わる者には、主権者教育とメディアリテラシーをお願いしたい。より良い社会をつくるためには、人間が良き存在になるしかない。教育もメディアもそのためにあるはずだ。末期がんと闘う著者が、私たちに託した熱いメッセージ。(た)
夢見ぬ日々の悲しみ
李学永 著 安倍常子 訳 青柳優子 監修
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- 夢見ぬ日々の悲しみ
- 李学永 著 安倍常子 訳 青柳優子 監修
- 新幹社2000円
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著者は、韓国で市民運動家として知られる。軍事政権時代の1974年と79年、「民青学連事件」「南民戦事件」で投獄された元「良心囚」。83年にクリスマス特赦で出所し、85年から2011年まで、韓国YMCAに勤務。地域の環境破壊に反対する市民運動の中心的存在として活躍し、今年4月、国会議員総選挙に出馬して当選、という経歴を持つ。
本書は韓国で09年に発行された著者の第二詩集の全59編の詩が収められている。表題の「夢見ぬ日々の悲しみ」、「消え失せてこそ/現れるものがある」で始まる「すすきの原」ほか、著者の詩には「生き残った者の使命感」と力強さがあふれている。
投獄による心身の後遺症があったという著者。書き綴っていた詩には凄絶な体験をした者が知る命の尊さ、温かさがにじみ出る。光景が浮かぶような、山や野道、鳥や花に向けた言葉も繊細で美しい。静かな秋の夜に著者の思いをかみしめながら読みたくなる。(U)