〈3.11フクシマ〉以後のフェミニズム 脱原発と新しい世界へ
新・フェミニズム批評の会 編
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- 〈3.11フクシマ〉以後のフェミニズム 脱原発と新しい世界へ
- 新・フェミニズム批評の会 編
- 御茶の水書房1800円
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3・11以降の日本社会をどうとらえ、原発支配から脱却するのか。数多くの本が出版されているが、本書はフェミニズム批評の立場から、その難題に切り込む。
自分たち被爆者は3・11以後、自身の経験を役立てたいと思いつつ「被爆国でありながら過去の体験が何も生かされていなかったという絶望感」から沈黙していたが、国への不信がつのり黙っていられないと作家・林京子は語りはじめる。そんな林の講演から、研究者、教師、詩人、作家ら26人の女性が問題提起する。
津島佑子や川上弘美など3・11以降の女性文学批評から、石牟礼道子や佐多稲子、丸岡秀子など、いま想起されるべき女性たちの仕事をも照らし出す。また、「産む性」と原発、「女子ども」を揶揄するような言説分析、記憶すること/書くことなど、さまざまな課題を女性の立場から検討する。こうした女性たちの視点と行動は、脱原発をめざすために必要で大事な手がかりの一つになる。(風)
ドキュメント 沖縄経済処分 密約とドル回収
軽部謙介 著
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- ドキュメント 沖縄経済処分 密約とドル回収
- 軽部謙介 著
- 岩波書店2500円
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1972年5月15日の「復帰」から6日間、沖縄の人々は銀行の前に長蛇の列を作った。持っていたドルが回収され、日本銀行が用意した円と交換されることになったからだ。
戦後、5度も使用通貨が変更され、そのたびに人々は経済的混乱に巻き込まれた。復帰によって生活を立て直したいとの思いは強かっただろう。しかし復帰後の円の交換レートは1360円に対し305円だった。「憧れであったはずの復帰でなおさらレベルの低い苦しい生活を強いられるとは…」
このことと並行して、回収された1億346万7593ドルをめぐって日米間では密約が結ばれていた。その事実に迫ったのが本書である。沖縄の復帰の条件のひとつに、これらの回収ドルはニューヨーク連邦準備銀行に無利子で預けるとする密約が交わされていたのだった。回収ドルはその後27年間、塩漬けに。政治の駆け引きのもとで経済的に切り捨てられていった沖縄。基地問題とも重なる。(室)
「大量失業社会」の労働と家族生活筑豊・大牟田150人のオーラルヒストリー
都留民子 編著
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- 「大量失業社会」の労働と家族生活筑豊・大牟田150人のオーラルヒストリー
- 都留民子 編著
- 大月書店2800円
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かつて炭鉱の町として栄え、エネルギー政策の転換によって50年以上前から失業と貧困が生み出されている福岡県の筑豊、大牟田地域の住民150人にインタビュー調査を行った貧困研究の書。第3章、第4章で示されるオーラルヒストリーは圧倒的な重みがある。
貧困者を障がい者や母子世帯、高齢者などのカテゴリー別にみるのではなくすべて労働者として捉え、その貧困を「労働」と「家族生活」を軸にしたインタビュー調査から各人のアイデンティティーの特徴をあぶりだす。
調査を行ったのは旧産炭地であるが「地方」の状況を代表するものであり、この現実を無視しては日本の貧困・格差は解決しないだろう。本書は労働礼賛をしない。ディーセントワークの実現のためにはまず社会保障を拡充し、貧困状況にある巨大集団を縮小することが急務だという。労働組合の役割についても考えさせられた。(竹)