闘争する境界 復帰後世代の沖縄からの報告
知念ウシ、與儀秀武、後田多敦、桃原一彦 著
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- 闘争する境界 復帰後世代の沖縄からの報告
- 知念ウシ、與儀秀武、後田多敦、桃原一彦 著
- 未來社1800円
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沖縄が日本に「復帰」した1972年、著者らはまだ子どもか、生まれてさえいなかった。復帰後世代の日本への視線は、「沖縄を返せ」と共に歌った40年前とははっきり異なる。知念ウシさんは、日本人に「『押しつけてきた基地を沖縄から引き取ろう』とまわりに呼びかけてください。基地反対運動まで沖縄に依存しないで、まず、1人からでも責任を担う行動を始めてください」と言う。その「日本人」には日本政府だけでなく、安保反対・基地撤去を唱えるヤマトンチュも含まれる。
連帯という言葉ではごまかされない強い当事者性と独立性を、他の著者も共有する。與儀秀武さんは、日本という近代国民国家の枠組みの中にあっては沖縄が疎外される状況は変わらないと、自立的社会の可能性を探り、桃原一彦さんは民主主義下の植民地主義を看破し、日本人を他者として鋭く認識する。復帰40年の現実が、安保や基地を沖縄問題ではなく日本問題として日本人に突き付けている。(ま)
女たちが動く 東日本大震災と男女共同参画視点の支援
みやぎの女性支援を記録する会 編著
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- 女たちが動く 東日本大震災と男女共同参画視点の支援
- みやぎの女性支援を記録する会 編著
- 生活思想社2000円
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阪神淡路大震災後に提起された「被災者支援への女性の視点」が、東日本大震災では直ちに生かされた。本書は宮城県の活動のまとめ。
「みやぎジョネット」などからの報告は、示唆に富んでいる。仙台で離婚・DV相談、シェルター運営などに取り組んできた「仙台女性への暴力防止センター・ハーティ仙台」のやはたえつこさんも自身が被災者。3月末から「せんだい男女共同参画財団」が「女性の震災ホットライン」を始め、避難所への物資援助、支援活動が始まる。
「避難者は家族、間仕切りはいらない」と男性指導者が言い、「助かっただけで感謝」と女性が言う。過酷な生活が自己主張の力を奪う。団体でなく個人を窓口に支援物資を届け、女性の声を聞く中で、横のつながりができていく。世帯主という考え方、DVなど、ふだんの生活の中に根があり、障がい者、セクシュアルマイノリティーの人々との連携の必要性など、多くを教えてくれる。(矢)
ルポ 子どもの貧困連鎖 教育現場のSOSを追って
保坂渉 池谷孝司 著
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- ルポ 子どもの貧困連鎖 教育現場のSOSを追って
- 保坂渉 池谷孝司 著
- 光文社1600円
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子どもの貧困の実態と社会の課題を教育現場から見つめた本。
子どもの貧困は見えにくいといわれる。日ごろ携帯電話でメールをする子どもたちの姿と困窮とは結びつかないかもしれない。しかし貧困は親から子へ確実に連鎖している。
国保にも加入できず、昼夜バイトの掛け持ちでへとへとになりながら定時制高校に通う高校生を支える教師、保健室で小学生に朝食を食べさせる養護教諭、追い詰められた親を必死に支える保育士たち。彼らは時に、少々お節介と思えるほどに、家庭にも踏み込みつつ、ぎりぎりで子どもたちを支える。
だが現場も疲弊している。個人の努力にも限界がある。本書のインタビューでは、貧困の連鎖を食い止めるためには、教育と福祉をつなげる居場所としての拠点づくりが拡充されるべきという意見も出てくる。親の就労から住宅、福祉、教育と、ワンストップで支える仕組み作りを急がなければと強く感じた。(梅)