百人百話 第1集 故郷にとどまる 故郷を離れる それぞれの選択
岩上安身 著
|
- 百人百話 第1集 故郷にとどまる 故郷を離れる それぞれの選択
- 岩上安身 著
- 三一書房1700円
|
|
福島原発事故は、いったいどれだけの人間の「当たり前の暮らし」を奪い、「避難する・しない(できない)」で悩ませ、人間関係のひずみまで生じさせたことか。
IWJ(インディペンデント・ウェブ・ジャーナル)を主宰する著者は、「被災者」などという言葉ではくくれない個々の話を丁寧に聞き取り、昨年11月からネット配信した。本書には、その第1期にあたる29人の話が、それぞれの「その後」も加えて掲載されている。
「結婚できなくてもいいから、ここに残って友だちといたい」と高校生の娘に言われた母。いち早く家族を避難させた東電社員から「とにかく南に逃げろ!」と連絡を受けた人。「自分ならまずヨウ素剤を配った」と語る医師―。
身につまされる一人一人の心の叫びはまた、事故直後の様子や原発がもたらしたものを重層的に浮かび上がらせる。各自の選択に不可欠な「正確な情報」を覆い隠した人たちの罪の重さを改めて思う。(JO)
- 鐘紡長浜高等学校の青春
- 井上とし 著
- ドメス出版2700円
|
|
かつて紡績産業は日本の基幹産業であり、支えてきたのは農家から集められた年端もいかぬ年少女子労働者だった。本書は敗戦まもない1949年に滋賀・鐘淵紡績長浜工場に設置された私立定時制高校の草創期の記録である。
工場敷地内の寄宿舎で800人もの若い女性が集団生活をする。2交代制で、早番は朝は4時に起き、5時から午後1時45分まで働き、掃除や洗濯をすませて、夕方の5時半から8時半まで勉強をする。紡織機械は轟音を鳴り響かせ、夏は摂氏40度、湿度80%という蒸し暑さ。過酷な労働をしつつ、学びたいという熱情に支えられて働き学ぶ女性たちがそこにいた。
ともすれば廃止へと傾く会社に対して、社内の担当者から会社に出された嘆願書には、民主主義の精神から教育の機会均等を訴える文言が連ねられ、生徒会は自ら授業料倍増決議をしてでも存続を希望する。この学校の苦さを含む「青春」を通して、戦後民主主義の「青春」の一隅がよみがえる。(ま)
私たちは “99%”だ ドキュメント ウォール街を占拠せよ
『オキュパイ!ガゼット』編集部 編 肥田美佐子 訳
|
- 私たちは “99%”だ ドキュメント ウォール街を占拠せよ
- 『オキュパイ!ガゼット』編集部 編 肥田美佐子 訳
- 岩波書店2000円
|
|
2011年9月にニューヨーク・ズコッティパークから始まった占拠運動は瞬く間にアメリカ全土に広がり、日本でも話題となった。「要求が見えない」という声もあったが、そもそもこの運動は「要求」という枠組みを使わないという一致点があった。どのようなオルタナティブがありうるのか、話し合いを通じて、参加型の直接民主主義の場を作ることこそが、この「オキュパイ」の目的だった。
本書はズコッティパークでの占拠運動から生まれた新聞が基になっている。公園を訪れた著名人のスピーチから、活動家やライター、学者の文章が収められ、アトランタ、オークランド、フィラデルフィア、ボストンでの占拠運動についての報告も。一読すると、いかに多様な人々がこの運動に参画していたかが分かる。人種、性別、障害の有無など、「99%」といっても決して一枚岩ではなく、運動の中での権力・差別構造があぶり出されている。日本での運動にも多くの示唆を与えてくれる。(竹)