女って大変。 働くことと生きることのワークライフバランス考
澁谷智子 編著
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- 女って大変。 働くことと生きることのワークライフバランス考
- 澁谷智子 編著
- 医学書院1800円
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結婚して子育てをしながら仕事をしてきた女性など10人の『女って大変』な状況が語られる。
研究と子育てに引き裂かれる日々。子どものイボの治療になかなか行けず、イボが増えてしまって子どもに泣かれた体験。
「ママはわがまま」と子どもに言われつつ仕事をしている女性。(でも言われたもの勝ちかもしれない)。「パパはわがまま」とは言われない。
父母の介護、夫の両親の介護ものしかかる。難病の母の介護体験から介護事業を立ち上げ「はじけてしまった」女性の体験もある。
こうした体験を語ってもいいのだ、女の共通の問題なのだとした点で本書の功績がある(看護職の女性の体験が多いので正規の働き方が多いが)。一方事例が女の困難の今を描けているのか、シングル女性の3割が困窮し、6割のシングルマザーが貧困という時代に、全体的に目配りする中での「女って大変。」だと良かったと思う。(衣)
原発のコスト エネルギー転換への視点
大島堅一 著
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- 原発のコスト エネルギー転換への視点
- 大島堅一 著
- 岩波書店760円
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かつて多くの人々が原子力に未来を夢見た。生み出されるエネルギーは無限、資源は潤沢、だから経済的。資源のない日本の発展に原子力は不可欠な存在だ、と。推進したのは企業、官僚、政治家、学者、メディアほか、教育も一役買った。1年前、それが崩壊した。
原発は経済的だというが、日本の電気代は世界一高い。総括原価方式だからだ。今でさえ、遠隔地からの送電ロス、原発立地への交付金などが含まれているうえに、事故の補償や確立していない最終処分まで盛り込んだら、どうなるのか。原発が成り立たないのは自明の理だと著者は説く。
多くの人々が潜在的な事故の危険性を危惧していた。しかし権威が専門を盾に叫ぶ「安全」に反論できなかったのだ。安全と未来を担保にするほど経済的でないことを、本書は暴く。
著者は、福島原発事故以前から原発のコスト高を指摘し続けている環境経済学の専門家。原子力ムラに対して理論武装をするための必読書だ。(た)
声を聴かせて 性犯罪被害と共に
にのみやさをり 著
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- 声を聴かせて 性犯罪被害と共に
- にのみやさをり 著
- 窓社2000円
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著者は、自らも性犯罪被害者で、現在は性犯罪被害者サポート電話「声を聴かせて」を運営する写真家。
この本には、電話やメールで寄せられる被害者の苦しみの声や、その声にじっと耳を傾ける著者との丁寧なやりとりが載っている。「あなたが悪いのではない」「もう忘れて前向きに」。そんな周囲の励ましの言葉が虚ろに響き、何年経っても襲ってくるPTSDの激しさに絶望する。
そんな状況を、著者は「モノクロの世界の住民になる」と表現し、モノクロ写真で「自分の世界」を表現し始めた。
「自分を切り刻んで、血みどろになり、それでも生き残った」という著者が、同じ性犯罪被害者と真剣勝負で向き合った写真。この本に収められた数十枚の写真からは、「人の心を木っ端微塵にできるのが人ならば、同時に、人の心を支えることができるのもまた、人、なんだ」という著者の強い想いが伝わってくる。(JO)