ひとはなぜ乳房を求めるのか 危機の時代のジェンダー表象
山崎明子、黒田加奈子、池川玲子、新保淳乃 ほか 著
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- ひとはなぜ乳房を求めるのか 危機の時代のジェンダー表象
- 山崎明子、黒田加奈子、池川玲子、新保淳乃 ほか 著
- 出版社:青弓社 価格:1600円
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巷にあふれ返り、かつ隠される乳房表象を、さまざまな媒体から検証、考察した論文集。
乳房表象は、流行病や戦争、災害等、社会が危機に直面するたびに、時に神聖化され、時に醜悪なものとして貶められながら秩序回復のために用いられてきた。
ピンクリボンキャンペーンについて考察した章では、健康な乳房を「美しい・正しい」と位置づける表現の背後に企業の利益追求があり、危機が「創出」され得るものであることを理解する。
最後の章では、戦後の映像作品を時代を追って検証することで、レイプ神話が昔からあったものではなく、露出、陵辱表現を都合よく織り交ぜながら、次第につくられていったものであることが分かる。乳房表象が大量に生産され、消費される時、社会では何が起きているのか。ある事象を「危機」とする者たちは、乳房表象を用いてどのように社会秩序を回復させるのか。時代を見据える各論文はどれも読み応えがある。(梅)
- 承認と包摂へ 労働と生活の保障
- 大沢真理 編
- 出版社:岩波書店 価格:3600円
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ただ貧しいだけではなく、そのために満足のいく仕事にも就けず、教育を受けるチャンスにも恵まれず、従って情報も得られず、健康も脅かされ、社会参加が阻まれる。そういう状態を単に貧困と言わず、社会的排除と言う。
日本でもそうした排除が問題となっている。対立概念は包摂である。最近、社会的包摂の取り組みが政府内でも始まったところである。
本書は生活保障システムの3類型、「男性稼ぎ主」型・「両立支援」型・「市場志向」型で諸国を分析するとともに、強固な男性稼ぎ主型として日本があることを強調、労働の面からも分析する。
貧困の女性化、高齢化も進んでいる。包摂と排除もジェンダーと大きくかかわることを阿部彩も指摘する。
そして包摂と同時に承認がなければ人は十全に生きられないことを宮本太郎が分析し、必要な解決の視点にもジェンダー分析が必要であると明らかにする。(衣)
- ミニシアター巡礼旅
- 代島治彦 著
- 出版社:大月書店 価格:2500円
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映画は大作よりミニシアター系に共感する人は案外多い。東京の「BOX東中野」(2003年に閉館)元館主の著者が、全国のミニシアター12館を巡り、語り合う。
那覇「桜坂劇場」、金沢「シネモンド」などミニシアターの館主は個性派揃いだ。しかし経営は苦しい。大分「シネマ5」の館主は言う。「できるだけ長くお客さんの映画体験を持続させること。それが映画館の仕事」と。独特の余韻が残る空間をつくる大阪「シネ・ヌーヴォ」。上映環境にこだわる岡山「シネマ・クレール」。どこも人生や“物語”が詰まっている。
自身の映画館に未来はあるのか、映画に人生をかけたことに悔いはないか、と鋭く切り込む著者。映画館の施設は映写機をはじめ、金がかかる。人件費をやりくりし、二足のわらじで稼いだりしても、閉館は相次いでいる。
ミニシアターの「暗闇」は、瞑想と内省の貴重な空間、アウトサイダー的ポジションだと言う。斜に構えた映画好きにお奨め。(さ)