- 原発のウソ
- 小出裕章 著
- 出版社:扶桑社 価格:740円
|
|
本紙2月15日号で紹介した著者の前著は、原発事故後購入希望者が増え、しばらく品切れになっていた。しかし著者はずっと以前から原発の危険を説き、勉強会や講演を行い、また反原発裁判で意見を述べたりしてきたのだ。だから今、引く手あまたになったことに、どんな気持ちだろう。
ご存じのように、著者は原子力ムラに住む学者たちの対極にいる科学者だ。本書は各地で行った講演やインタビューを再構成したもので、誤解の起こりえない明快な言葉で、研究の成果や考えを語り、その姿勢は政府や原子力安全・保安院と大きく異なる。現在も放射性物質の漏出が続いていること、累積汚染が深刻であることなど、福島の事故が収束方向にあるような楽観論が出てきていることに警鐘を鳴らす。
事故の現状分析、放射能の基礎知識、近くで放射能汚染に遭遇したときの対処、脱原発がなぜ必要か、など分かりやすい。人に薦める一冊を選ぶなら、これ。(さ)
- これでいいのか福島原発事故報道
- 丸山重威 編著
- 出版社:あけび書房 価格:1600円
|
|
副題は「マスコミ報道で欠落している重大問題を明示する」。編著者は、元共同通信社編集局次長。「原子力という暗礁の海」から「引き返せ」と警告するのがジャーナリズムの使命と、「報道されていない」重大問題を各執筆者が専門的立場から書いている。
元福島県議会議員の伊東達也さんは、原発事故が「想定」されていたことを克明な資料から明らかにする。1959年に日本原子力研究所に入所した舘野淳さんは、研究機関における言論弾圧と安全神話の形成の実態を説く。
元日経新聞論説委員の塩谷喜雄さんは「報道と広報の限りなき同化」に厳しくメスを入れる。低線量被ばく報道を斬る崎山比早子さん。原発労働者“被曝”の実態はジャーナリストの布施祐仁さん。「安全キャンペーン」「がんばろう日本」の仕掛けについては、広告ジャーナリストの三枝和仁さん。環境ルポライターの齊藤春芽さんは「脱原発」運動の報道を検証している。資料的価値も高い一冊。(JO)
原発ジプシー 被曝下請け労働者の記録【増補改訂版】
堀江邦夫 著
|
- 原発ジプシー 被曝下請け労働者の記録【増補改訂版】
- 堀江邦夫 著
- 出版社:現代書館 価格:2000円
|
|
原子力発電所は、原発を稼働させている限り、労働者の被ばくは避けられない。
しかも被ばくするのは多くが電力会社の正社員ではなく、下請け、孫請け、ひ孫請けの労働者であり、彼らの雇用形態は日雇いで、定期点検ごとに現場を移っていく不安定な労働者だ。
本著は1978年9月~79年4月まで、福井県美浜、福島第1、敦賀原発の定期点検で働いた体験の記録である。
賃金のピンハネ、狭い機器の中での作業、足場の悪い現場での落下事故、知らないうちに浴びる放射能…。働く者は、生まれてくる子どもへの影響に怯えながら、冗談を飛ばす。
淡々とした語り口からは人間を人間として扱わない労働への降り積もる怒りが伝わってくる。
3月11日以後、多くの人が、福島第1原発での作業員の被ばくと劣悪な待遇に触れた。新しいあとがきが入り、貴重な記録がよみがえっている。(衣)