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イーストウッドの男たち  マスキュリニティの表象分析ドゥルシラ・コーネル  著 仲正昌樹、吉良貴之  監訳出版社:御茶の水書房 価格:3200円 | 
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 著者は、イーストウッドの監督作品『荒野のストレンジャー』から『父親たちの星条旗』19本を、現代の男性性(マスキュリニティ)が抱えるジレンマへの先鋭的な洞察として検証している。一人の男が、社会の中で「よき男」たるためには、戦場で人を殺さなければならず、家長として家族を守るために他の誰かを傷つけるような汚れた仕事を引き受けなければならない。そこから逃れようとすれば、「男として失格である」という刻印をおされてしまう。どちらを選んでも、男性の精神は破壊されかねない。
 そのようなジレンマを受け入れてなお、社会の中で一人の「よき男」として生きるとはどういうことかをイーストウッドは、映画の中で絶えず問いかけているという。
 市井の多くの男性が、なぜ、ここまで長きにわたり、イーストウッド映画を深く静かに支持し続けるのか。彼の映画の向こうに、「普通の男性」が抱える苦しみが浮かび上がってくる。(有)
 
 
| 自然農という生き方  いのちの道を、たんたんと川口由一、辻信一  著 | 
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自然農という生き方  いのちの道を、たんたんと川口由一、辻信一  著出版社:大月書店 価格:1200円 | 
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 「自然農法」とは合鴨農法や有機農法とはまったく異なる考え方に立つ。耕さない、肥料をやらない、除草・除虫もしない。まさに「自然」。虫も草もすべてゆえあって存在しているのだから害虫も雑草もない。「いのちの世界は個々別々でありながら、その根源は一体です」と言い、すべての存在の意味を認める。人は肥料・農薬・機械など外からものを持ち込まず、虫を取り除かず、その作物、環境に応じ、沿い、従い、任せてゆくという考え方である。そこには自然の摂理を信じきる姿がある。そして現実にこの農法は32年間続いている。
 川口さんの、足るを知り、孤立を恐れず、そうかといって自分の生き方を人には押し付けない姿はあたかも宗教者のようである。大震災直前に脱稿されているが、人が「過ちを冒せば、生命界に及ぼし他のいのちに及ぼす影響は絶大です。いのちの舞台を壊しているのは人間だけです」という言葉の重さが、今ほど実感される時はない。(ま)
 
 
| 若者の労働運動  「働かせろ」と「働かないぞ」の社会学橋口昌治  著 | 
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若者の労働運動  「働かせろ」と「働かないぞ」の社会学橋口昌治  著出版社:生活書院 価格:2500円 | 
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 本書はこの10年で各地に生まれた、若者の労働運動、ユニオンの活動を、ユニオンの中で活動する立場で、また社会学者として、記し分析したものである。
 表面的に見れば、例えば、フリーター全般労組(東京)、ユニオンぼちぼち(関西)、フリーターユニオン福岡などの活動は、若者の雇用の非正規化の大きな流れの中で、労働者の権利を守る、正規化をめざす活動のように思える。
 しかし、それだけにはとどまらない。筆者によればこれらのユニオンはそもそも「働きたくない」人々も巻き込みつつ、従来の労働運動にはない「生存」「メンタル」もテーマにしている。当然、不登校体験者や引きこもり体験者もそこに「居られる」。
 こうした働くことと・働かないことという緊張をはらみつつ、今とまともにかみ合う「ユニオン」の「中から」の視点が、「外から」の分析に耐えうる形で提示されていることに、本書の面白さがある。(衣)