図書館は、国境をこえる
シャンティ国際ボランティア会編
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- 図書館は、国境をこえる
- シャンティ国際ボランティア会編
- 出版社:教育史料出版会 価格:2300円
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銃を携え学校に通うアフガニスタンの少年、大津波の恐怖から言葉が出なくなってしまったタイの幼子、鉄条網の難民キャンプしか知らないカンボジアの子ども…。過酷な状況の子どもたちに心の栄養を届けるのが、シャンティ国際ボランティア会(SVA)の図書館活動だ。文化の土壌を削られてしまった人たちに、民族の文化を継承し、創造の種子を育む。焚書政策で本そのものが抹殺されかかったカンボジア人難民キャンプでは、カンボジア語の絵本を作り輪転機で印刷するところから始まる。民族の確かなアイデンティティーがあってこそ、子どもたちは未来に向かって足を踏み出せるから。砂地にしみいる水のように、絵本は子どもたちの心の飢えを癒やす。
内戦の中、常に厳しい表情をしている子どもが、おはなしを聴いてふと見せる柔らかな表情。それを一条の光として活動に励む人々の存在を伝え、心を温めてくれる本書そのものが、私たちへの図書館活動のように思える。(ま)
看護崩壊 病院から看護師が消えてゆく
小林美希 著
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- 看護崩壊 病院から看護師が消えてゆく
- 小林美希 著
- 出版社:アスキー・メディアワークス 価格:762円
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75歳以上の人口が全人口の18%を超える2025年。そのとき私たちは「安心して」介護や看護を受けられるのか。だが、看護師の労働実態を知ると、それまで医療がもつのかさえ不安になる。
看護師の4分の1は夜勤月9回以上。ある看護師は妊娠中も月10回の夜勤をこなし、産前休業に入る1週間前まで夜勤があった。流産しなかったのは奇跡に近い。そして夜勤では、看護師2人で15人の患者を受け持つから、同時にナースコールができるのは2人まで。3人目の患者は誰にも来てもらえない。それで院内感染も医療事故もなく、患者を守っている日本の看護師はすごい。「特定看護師」という小手先の制度改革も問題を先送りするだけだ。
では希望はないのか。そんなことはない。一度はやめた看護師の再就職支援や、短時間の正規職員制度、職場の保育所完備など、条件さえ合えば働きたいという女性の声を聞けば、医療を変えられるはずだ。(矢)
金子喜一とジョセフィン・コンガー 社会主義フェミニズムの先駆的試み
大橋秀子 著
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- 金子喜一とジョセフィン・コンガー 社会主義フェミニズムの先駆的試み
- 大橋秀子 著
- 出版社:岩波書店 価格:4400円
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本との出会いは人との出会いだ。無名の市民が先鋭的論を張って残した文章に出会えたことに心を揺さぶられる。
金子喜一は20世紀初頭の社会主義者で、「フェミニズム」という語を使った最初の日本人。アメリカ人宣教師の学校で英語を習得し、ヒューマニストになった。そして1899年にアメリカに渡り、同じく社会主義者でフェミニストのジョセフィン・コンガーに出会い、結婚した。コンガーも残念なことに没年不明だが、「ソーシャリスト・ウーマン」などの雑誌で多くの文章を残している。そして無償家事労働論争をダラ・コスタより半世紀も早く提唱していたり、フェミニストとして反戦論や買売春論を主張していた。
金子が33歳で没するため短い共同生活だったが、2人の結婚に至るやりとりは現代のわたしたちも大いに共感するドラマだ。
ラディカルな20世紀初頭という時代を、社会主義者コンガーと金子の言論を通して見る。(さ)