「帝国」の女性監督 坂根田鶴子 『開拓の花嫁』・一九四三年・満映
池川玲子 著
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- 「帝国」の女性監督 坂根田鶴子 『開拓の花嫁』・一九四三年・満映
- 池川玲子 著
- 出版社:吉川弘文館 価格:3800円
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日本最初の女性映画監督、坂根田鶴子の主要監督作品の分析を通じて、アジア・太平洋戦争における一人の女性文化人の生涯をひもといた労作。
1936年には、「男の人生観、社会観、恋愛観等々…。男によってのみ描かれ、男によってのみ支配された映画界に、女性の立場から別な新しいセンスを注入する」「女の世界から見た真実な女の姿を」と高らかに語っていた田鶴子。しかし、その視座は「帝国」から抜け出ることはなかった。
「満州映画協会」に就職した田鶴子が自分の企画で1943年に製作したのが『開拓の花嫁』だ。著者は、そこに、父親が子どもと戯れる姿など反戦すれすれの価値観を見るとともに、「男性移民慰撫」「純血保持」「多産」という「開拓花嫁政策」の目的も見る。結果論で評価しない著書の姿勢に共感するとともに、いつの時代にもあるプロパガンダ映画の怖さを感じた。(矢)
ユダヤ人大虐殺の証人ヤン・カルスキ
ヤニック・エネル 著 飛幡祐規 訳
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- ユダヤ人大虐殺の証人ヤン・カルスキ
- ヤニック・エネル 著 飛幡祐規 訳
- 出版社:河出書房新社 価格:2200円
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ヤン・カルスキはポーランドのレジスタンス運動家であり、第2次世界大戦中にナチス・ドイツが行っていたユダヤ人大量虐殺の事実を亡命政府、連合軍に密使として伝え続けた。しかし、彼の証言は聞き入れられることはなかった。
本書は、独創的な構成になっている。第1部は映画『ショアー』のカルスキの証言部分、第2部はカルスキの著書を要約したもので、第3部は著者が創作したカルスキの独白である。ドキュメンタリーの部分では、カルスキに託された言葉、命をかけて届ける過程、そして何も変わらなかった現実が示される。カルスキは1978年までぱったりと沈黙していたが、彼は「証人」の苦悩を背負って生き続けた。
本書は、自分が「聞く側」、死刑執行を見ている側だと気づかせる。著者は、殺される人々との距離を「卑劣」と呼び、生きることは「この距離に立ち向かうやりかたでしかない」とカルスキに語らせている。ぜひ一読を勧めたい。普遍的なテーマが詰まっている。(竹)
- はじまりをたどる「歴史」の授業
- 千葉保 著
- 出版社:太郎次郎社エディタス 価格:1800円
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知識だけを詰め込む授業はおもしろくない。子どもたちに必要なのは、与えられた知識を覚える暗記型の勉強から脱し、知的好奇心をもって活動的に学ぶこと、というコンセプトのもとでつくられた本書には、先進的でユニークな授業の記録が収められている。
学校の特別教室の歴史から明治時代の教育と国策の関連を考える授業や、1枚の少年の写真から原爆や戦争を見つめる授業など、著者が小学生、中学生と授業をした実践記録が、丹念に記されている。「婦人参政権」の授業では、帝国議会の議事録をもとに、当時の男性議員たちのやりとりを生徒たちに演じさせ、女性への差別発言をする議員に怒る生徒たちの様子がとても愉快だ。
豊富な資料を与えられ、仲間と対話していく中で、歴史を深く解釈していく様子がよく分かる。こんなわくわくする授業なら大人も受けたい。
第2弾の『食からみえる「現代」の授業』もおすすめ。(り)