- ミボージン日記
- 竹信三恵子 著
- 出版社:岩波書店 価格:1,900円
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マレーシアの海辺で、30年間連れ添い、同じ会社で働いてもいた夫を突然亡くした著者。予想もしなかった様々な体験や喪失感などの思いを、隔月刊誌『くらしと教育をつなぐWe』に連載し、まとめたものが本書だ。
「未亡人」という女性に特化した、否定的で、滑稽で、差別的な言葉を、大切な人を忘れていない人という意味での「未忘人」や、死別体験はパワーにもなりうると、「ミボージン力」という言葉に置き換え、大きな喪失感の穴を徐々に埋める過程をユーモアを交えて綴る。「焼け太ってみせる!」という言葉は、読者を元気づける。
著者は、大手新聞で女性や貧困、労働問題などに鋭く切り込んでいる記者だけあり、夫を亡くした体験のみならず、幼いころ父親を亡くした(母親も若くしてミボージンに)という生い立ちや、長時間労働の男性中心主義の会社で女性が働き、子育てをすることの困難さについての客観的な分析も痛快で深かった。(り)
- 竹中平蔵こそ証人喚問を
- 佐高信 著
- 出版社:七つ森書館 価格:1,500円
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米国主導のTPPにがむしゃらに参加しようとする菅政権を評して「小泉化」という言葉をよく耳にするようになった。菅政権の「新成長戦略」は小泉「構造改革」の看板を掛け変えただけにすぎないというわけである。
この本は、小泉「構造改革」の立役者であった竹中平蔵とその仲間たちが、改革の美名の下でいかに私利私欲を追求していたかを事実を挙げて告発していく。「かんぽの宿」の売却疑惑や日本振興銀行の破綻などメジャーな問題から、竹中個人の逃税疑惑、トヨタによるミサワホームの買収問題などマスコミではあまり報道されなかった問題も、なぜマスコミが報道を控えたかについて言及しながら触れている。気軽に読み進められる内容だが、小泉「構造改革」が誰のためのものであったのかを、政策論争とは違った形で思い起こさせる。「小泉化」する菅政権の下で、過去としてではなく、これからの問題として問い直されるべき課題である。(千)
〈政治の発見〉第1巻 生きる間で育まれる生
岡野八代 編
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- 〈政治の発見〉第1巻 生きる 間で育まれる生
- 岡野八代 編
- 出版社:風行社 価格:2,400円
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生きるということは他者とどのような関係を結ぶ/結ばないことなのだろうか。
ここには、産む/産まないの選択、共に在る(アメリカ福祉改革におけるシングルマザーフッド)、いたわる(ことからはずれた脳死者からの臓器移植)、依存する、働く(イギリスの70年代からの要求者組合)、食べる(他者の命を奪って)など、様々な角度から「生きる」ことの分析がある。
「依存する アメリカ合衆国における福祉国家の再構築をめぐって」は、マイケル・ムーアの映画の中で、隣の少女を銃殺した6歳の黒人少年の母が福祉改革の結果、遠い職場に通うワークフェアの対象だったことを思い起こさせる。家族規範から逸脱し、許されない「依存」者の母子家庭に対する排除を批判し、依存と自立の概念の再検討を呼び掛ける。
興味深い章が多いが、やや欧米の例が多く今日本で起こっていることの記述がもっとほしいところだ。(衣)