女性史からみた岩国米軍基地広島湾の軍事化と性暴力
藤目ゆき 著
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- 女性史からみた岩国米軍基地 広島湾の軍事化と性暴力
- 藤目ゆき 著
- 出版社:ひろしま女性学研究所 価格:1,500円
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岩国米軍基地は2005年に浮上した米軍再編による原子力空母艦載機の移転と、06年の住民投票による移転拒否の意思表明でにわかに注目が集まった。しかし周辺で米兵による数多くの犯罪が起こってきたことはあまり知られていない。その被害者のほとんどは、米軍相手の接客女性をはじめとする女性たち。女性史研究家である著者が、特に不可視化されてきた女性への暴力という視点から岩国基地を浮き上がらせたのが本書。
戦前から土地を強制的に接収され岩国基地はつくられた。基地周辺には、公娼制度が廃止された戦後も米兵相手の買売春が広がり、戦災で貧困に陥った女性たちが流れ込んだ。その女性たちの上に、米軍と米軍にのみ配慮する日本の思惑と、市民の「街娼」「女性」「地域」差別がのしかかる。米兵の罪は問われず、現在もその状況が変わらないのは、本書の07年の岩国海兵隊集団強かん事件の調査でも明らか。日米安保のツケを払わされるのはいつも女性たちだ。(登)
- ちょっと前の日本の暮らし
- 中川誼美 著
- 出版社:中央公論新社 価格:740円
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茅葺き屋根、薪で焚くお風呂、かまどで炊くご飯、囲炉裏を囲んで身体の細胞が喜ぶ旬の食材を皆で食べる。そんな50年前にはあたりまえの地方の暮らしを再現した旅館「綾部吉水」(京都・綾部市)をつくってしまったのが、著者の中川誼美さんだ。ほかにも中川さん経営の宿があり、その経緯や熱いポリシーは2010年の本紙連載「宿屋レジスタンス」でも披露された。
55歳からの旅館業への転身はそこだけを見たら容易なことではないとうつる。だが、経済成長へとひた走った最中には見えなかったこと、感じられなかったことを、感じ、見えるようになった時、中川さんの前には「ちょっと前の日本の暮らし」を伝道するに格好な仕事が待っていたのだろう。
五感を磨くこと、温かい心の通い合い、子どもの笑顔、職人技の復活など、どう「今」の暮らしに取り入れるのか? ゆっくりした時間が流れるお正月、こたつのぬくもりの中で考えたい。(束)
アメリカ黒人女性とフェミニズムベル・フックスの「私は女ではないの?」
ベル・フックス 著/大類久恵 監訳/柳沢圭子 訳
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- アメリカ黒人女性とフェミニズム ベル・フックスの「私は女ではないの?」
- ベル・フックス 著/大類久恵 監訳/柳沢圭子 訳
- 出版社:明石書店 価格:3,800円
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ベル・フックスによる最初の著書の翻訳である。
奴隷制貿易時代から、黒人女性は黒人というだけでなく女性であることで虐待と強制労働の上、性被害を受け続けてきた。その歴史事実は目をそむけたくなるものである。解放後も白人社会は性的誘惑をする不道徳な存在として黒人女性を見ていたため、19世紀の女権拡張運動でも排除されてきた。
フックスは白人女性フェミニストを次々に俎上に乗せ、彼女たちの人種差別意識や無理解が女性の連帯を損なってきた事実を告発する。そして真のフェミニズムを求めようと呼びかける。
彼女の勇気ある声から30年たつ。そうした連帯が生まれているのだろうか。翻って日本で民族、階層による排除や分断をフェミニズムは超えようとしているのかと問いがあるべきだ。副題部分は19世紀の黒人女性活動家、ソジャーナ・トゥルースの演説の言葉。(衣)