WOMEN'S DEMOCRATIC JOURNAL femin

  • HOME
  • >
  • ふぇみんの書評

ふぇみんの書評

大逆事件死と生の群像

田中伸尚 著

  • 大逆事件 死と生の群像
  • 田中伸尚 著
  • 出版社:岩波書店 価格:2,700円
 和歌山県新宮市には大逆事件に巻き込まれ死刑となった大石誠之助の顕彰碑「志を継ぐ」がある。大石は医者で貧民から治療代を取らず自由闊達な思想の持ち主だった。この碑が建立されたのは2004年のことだ。 
 大逆―天皇に弓を引く行為―は刑法73条で罰せられ死刑、一審で終わり、控訴も上告もない。
 100年前、朝鮮半島を「併合」し、天皇制国家が軍事的に拡大・確立する時期に、反戦や平和・平等を訴える無政府主義者を根絶やしにしようと、26人が逮捕され、24人に死刑判決がなされる(翌日12人に恩赦)。公判は非公開で判決後1週間内に全員が死刑執行された。
 本書は一人ひとりがどう生き、無念のうちに亡くなったか、遺族の辛苦を追いつつ、司法は、ジャーナリズムは、社会は、事件にどう向き合ったのかを、再審請求棄却と名誉回復の歩みまで丹念に追う。
 『ドキュメント昭和天皇』など天皇制に鋭く迫る筆者ならではの大作。(千)



ヒトの子育ての進化と文化 アロマザリングの役割を考える

根ケ山光一、柏木惠子 編著

  • ヒトの子育ての進化と文化 アロマザリングの役割を考える
  • 根ケ山光一、柏木惠子 編著
  • 出版社:有斐閣 価格:3,400円
アロマザリングとは母親以外による子育てのこと。本書はアロマザリングについて、動物学、発達心理学、歴史学などから多角的に考えた書である。アロマザリングは霊長類でも見られ、ヒトでも原始時代から行われていたという。それがなぜ「母の手で」に変わったのか。第6章では、子どもの成長に母子の愛着が不可欠という言説は家父長制イデオロギーの帰結であると論じる。子どもは乳児であっても、母親だけではなく家族、保育士、仲間の子どもなど複数の人とかかわる能力を持ち、ネットワークの一員として生きている。ゆえに、母子の二者関係だけでみるのではなく、子どものもつ親密な人間関係のネットワーク全体をとらえるべきであると述べる。
 この子ども観は、乳児育て真っ最中の私にも納得できるものだ。子どもの虐待の背景には必ずといってよいほど養育者の孤立がある。孤立を防ぐためにどうするのか。その鍵となるアロマザリングについて学ぶ最適の書である。(ち)



講座 現代の社会政策 社会政策のなかのジェンダー

木本喜美子、大森真紀、室住眞麻子 編著

  • 講座 現代の社会政策 社会政策のなかのジェンダー
  • 木本喜美子、大森真紀、室住眞麻子 編著
  • 出版社:明石書店 価格:4,200円
本書は労働からひとり親施策、介護までの広範な分野の社会政策に埋め込まれているジェンダーを掘り起こし、あぶり出す。
 日本の企業社会を安定的に下支えしてきた家族は、ジェンダー秩序に基づく「男性稼ぎ主」と「専業主婦」によって構成されてきた。バブル崩壊後、この構造が崩れつつある。が、労働現場では規制緩和が進む。それは「正規雇用内でさえ雇用管理区分が異なることによって均等待遇が否定されるなら、正規雇用と非正規雇用とのあいだの格差是正など望むべくもない」現状を招く。
 1990年代以降始まった両立支援が、ジェンダー公平をめざすと思われながら、実は「女性の家族生活を起点として発生する女性の両立困難への対応としての意味合い」が強く、さらに新自由主義的でさえあったという。ジェンダーは母子世帯などで階層とも絡み合う。
 日本の社会政策に強固にはりめぐらされたジェンダー秩序の見取り図を描く価値のある一冊。(衣)



【 新聞代 】(送料込み)
 1カ月750円、3カ月2,250円
 6カ月4,500円、1年9,000円
【 振込先 】
 郵便振替:00180-6-196455
 加入者名:婦人民主クラブ
このページのTOPへ