カントリー・オブ・マイ・スカル南アフリカ真実和解委員会 <虹の国>の苦悩
アンキー・クロッホ 著/山下渉登 訳
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- カントリー・オブ・マイ・スカル 南アフリカ真実和解委員会 <虹の国>の苦悩
- アンキー・クロッホ 著/山下渉登 訳
- 出版社:現代企画室 価格:2,800円
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本書の舞台は、アパルトヘイト撤廃後の南アフリカで1990年代後半に実施された、社会的和解のための「真実和解委員会」である。記者として、そして白人女性として委員会と向き合った日々をつづったこの作品は国内外の高い評価を受け、2004年には映画化された(映画タイトルは『イン・マイ・カントリー』)。
「真実和解委員会」とは過去の人権侵害に対し、応報的な司法ではなく真実の追究を通して正義回復を目指すもので、アジアでは東ティモールの真実和解委員会や韓国の済州島4・3事件に関する委員会が知られる。本書では各地の公聴会で展開されたアパルトヘイト期の暴力に関する告発や、犠牲者・加害者の語りなどが克明に描かれる。著者も指摘するように委員会に対する評価は様々だが、未来に向けて生まれ変わろうとする国家の苦闘の記録として、本書はいつまでも読み継がれていくだろう。(め)
この世は二人組ではできあがらない
山崎ナオコーラ 著
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- この世は二人組ではできあがらない
- 山崎ナオコーラ 著
- 出版社:新潮社 価格:1,300円
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『人のセックスを笑うな』で鮮烈デビューした作家の、自伝的要素 の濃い最新刊。主題は違和感。「まだ誰も見つけていない、新しい 性別になりたい」とつぶやく主人公・栞(しおり)は、1978 年生まれのロス・ジェネ世代。就職氷河期、社会経験を積みながら、新人賞応募3度目にして小説家デビューを果たす。自立を 目指し、大学時代からの恋人の“上から目線”に反発したり、自身に内面化した女性蔑視や依頼心に気づいていく。試験勉強中の恋人へ援助できるだけの経済力をつけ、これからの女の幸せの一つに「養ってあげる喜び」を予感する。社会の構成員としての強い自覚を持ち、 自分たちで社会を変えることもできると思う。
結局、「ふたりぼっち」を好む恋人と別れ、ショックで体は壊すし、最初の読者を失った不安に駆られはする。だが、世界は瓦解しなかった。むしろ、社会との緩やかなつながりと、自分の居場所を発見する。若手女性作家の、フェミ度の高さにうれしくなる。(慶)
- 樺美智子 聖少女伝説
- 江刺昭子 著
- 出版社:文藝春秋 価格:1,762円
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安保闘争は彼女抜きには語れない。樺美智子。全学連の活動家として1960年6月15日国会に突入し警官隊に虐殺されたとされる。没後彼女に関して多くの本が出版され、記事が書かれてきた。
しかし、彼女をめぐる言説は、ともすれば無垢な少女、犠牲者として語られてきた。著者はこうしたイメージを否定し、膨大な資料と遺族や関係者へのインタビューから、等身大の彼女に迫る。
樺美智子はひとりの、社会主義革命を目指す、信念を持った活動家(ブントに属す)であった。ひたむきに歴史学の勉強と活動にうちこみ、6月15日のデモ当日も危険を知りながら、スカートをスラックスにはき替え、クリーム色のカーディガン姿で、女子学生は後ろにと言われても前に出た。
その死因についても、有力な圧死説と扼殺説について分析、メディア操作を疑う。
没後両親は、娘に影響されて平和運動にかかわっていく。読了後、感じるものは深い。(衣)