- ヘイトクライム 憎悪犯罪が日本を壊す
- 前田朗 著
- 発行:三一書房労働組合 発売:教育実務センター事業部 価格:1,300円
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「市民団体」を名乗る集団が行進する。ネット上で渦巻く人種差別が白昼堂々と道行く人々に届く。
これまでの憎悪犯罪と異なるのは、ネットの普及で集団・組織的に行われるようになったことだ。被害は、その場で終わらない。被害者集団、潜在的加害者に、異なったメッセージを伝える。一方を恐怖、一方を憎悪で縛りあげる。
憎悪犯罪の起源を、著者は87年前にもとめる。軍隊と警察が率先し人々を扇動した関東大震災時の朝鮮人虐殺だ。民族の根を断つ意図は植民地支配、民族教育差別、朝鮮民主主義人民共和国への敵視政策に貫かれる。国と人々の「意思」がからみ合う。
構図は変えられないのか。著者は、国内外に解決の道を探る。歴史的には、虐殺における「民衆責任」の自覚に立った国家責任追及を始めること。現在的には、国連条約に加盟しながら留保されている人種差別禁止法の制定だ。 高まる排外主義を前に「責任としての抵抗」(同書)を考えるため、今、必要な一冊だ。(柚)
ユダヤ人の起源歴史はどのように創作されたのか
シュロモー・サンド 著/高橋武智 監訳/佐々木康之、木村高子 訳
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- ユダヤ人の起源 歴史はどのように創作されたのか
- シュロモー・サンド 著/高橋武智 監訳/佐々木康之、木村高子 訳
- 発行:浩気社 発売:ランダムハウス講談社 価格:3,800円
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本書は、パレスチナ人の追放の上に成立したユダヤ人国家「イスラエル」におけるユダヤ人の概念-長きにわたりイスラエルでも議論されてきたが-やユダヤ人の歴史的「起源」における物語を批判的に描いた貴重な文献である。
またユダヤ人に焦点をあてているが、描かれている思考は、イスラエルにかかわらず、日本を含む多くの国民国家、あるいはそれらの国家におけるナショナル・アイデンティティーの形成の過程で依拠されがちな「人種」という非科学的な概念と、それにともなう神話を分析する上で批判的な視点を提示してくれる。
イスラエルの「主体」として自己規定されているユダヤ人とは誰なのか。これらの人々が歴史的にどのようにつくり出されたのか。生物的に一つの血統に属する人々なのか。読者は、本書を読み進める中で自らのユダヤ人に対する歴史観への再考を求められることになるのではないか。(砂)
- 沖縄(ウチナー) 抵抗と希望の島
- 鎌田慧 著
- 出版社:七つ森書館 価格:2,500円
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本書は沖縄「復帰」3年後の1975年「海洋博」から、2010年1月、基地建設反対の名護市長誕生までの35年の取材を収録したものである。その3割を辺野古新基地反対住民の抵抗に割いた理由を、著者は2つ挙げている。基地依存経済からの脱却が沖縄やこの国の未来を開いていくために。もう一つは「普天間移設とは『移設』に名を借りた新基地建設だ」と主張したいために。「返還」が「移設」にすり替わったことや、現在の普天間を高機能化した基地につくり変えたい米戦略を問うことなく、今でも単に「移設」と言い続ける本土マスコミに向ける目は厳しい。07年5月、反対派排除のために自衛艦「ぶんご」が出動し、隊員が潜水作業まで行った際の「無痛覚」ぶりにも疑問を投げる。
13年間にわたり新基地建設を阻止し、いまその「民意」の高まりをみせる沖縄の底力には、ただならぬものを感じてしまう。著者が沖縄を「希望の島」というのも肯ける。(H)