- ベートーヴェンの生涯
- 青木やよひ 著
- 出版社:平凡社 価格:920円
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昨年亡くなった著者。遺作の本書は、50年以上にわたるベートーヴェン研究の集大成である。研究書としていかに優秀かは専門家に語ってもらいたいが、読み物としても非常におもしろかった。
あとがきで、著者はがんの転移の苦しみを告白し、生涯病に苦しんだベートーヴェンを深く理解する視点が獲得できたのではないか、と記している。病中の執筆とは思えないほどの、生き生きとした文章で、大作曲家の思想や人間性に切り込んでいる。彼の苦悩に共感し、「超人的な天才」と片づけてしまいがちな彼を「きわめて人間的で徹底した自由人であった」とする。豊富な資料と鋭い分析から論じられているので説得力がある。
彼が「当時の家庭における、女が男に従属する人間関係には批判的だった」「現代のエコロジー思想を先取りしているかのよう」という解釈は、エコロジカル・フェミニストの著者ならでは。著者の愛情を感じる、クラシック好きにはたまらない一冊。(り)
ホロコーストからガザへパレスチナの政治経済学
サラ・ロイ 著/岡真理、小田切拓、早尾貴紀 編訳
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- ホロコーストからガザへ パレスチナの政治経済学
- サラ・ロイ 著/岡真理、小田切拓、早尾貴紀 編訳
- 出版社:青土社 価格:2,600円
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この本を待っていた。ナチスのホロコースト生存者の両親を持つユダヤ系アメリカ人である著者は、研究者としてイスラエルによるパレスチナの占領政策に政治経済学的観点から批判を加えてきた。本書は2009年2月の著者の来日時の講演、対談などをもとに編集したもので、08年末のガザ地区攻撃開始の数日前に書かれた論評も収録されている。
訳者の一人、早尾さんが指摘するように、著者の功績は、手探りで占領地の実態を正確に把握し、イスラエル政府のガザ地区支配の意図にはじまり占領政策全体の意図まで綿密に分析している点だ。今回のガザ攻撃もオスロ合意もすべてイスラエルの思い描く「占領」への道の途上だということ、今や日本などの援助国がイスラエルの占領を強化していること、この問題を「暴力の応酬」と片づける大手メディアの愚かしさが分かる。
在日韓国人として日本社会の差別や民族問題を批判している徐京植さんとの対談も秀逸。(登)
竹中恵美子の女性労働研究50年理論と運動の交流はどう紡がれたか
竹中恵美子、関西女の労働問題研究会 著
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- 竹中恵美子の女性労働研究50年 理論と運動の交流はどう紡がれたか
- 竹中恵美子、関西女の労働問題研究会 著
- 出版社:ドメス出版 価格:2,300円
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女性労働研究家のパイオニアとして多くの著作や講演、運動に取り組んできた竹中恵美子さん。本書は50年にわたる研究について時系列にまとめたものと、その理論から得た力とつながりを運動に生かしてきた女性たちの活動記録をまとめた、実に読みごたえのあるものだ。
竹中さんは早くから「機会の平等」論を批判し、女性が男性並みに働くことでなく均等待遇、ディーセントワークを求めてきた。そして、アカデミックな場から飛び出して女性たちの要請にこたえる形で、共に運動に携わってきた軌跡には感動をおぼえる。こうやって、戦後の大阪における女性たち、女性労働運動は紡がれてきたのだと。
竹中さんの個人史についての聞き書き、主に関西で活躍する女性研究者や活動家から寄せられた文章も収録。女性労働運動について理論と実践をあわせて振り返ることができる貴重な一冊。(竹)