女性同士の争いはなぜ起こるのか主婦論争の誕生と終焉
妙木忍 著
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- 女性同士の争いはなぜ起こるのか 主婦論争の誕生と終焉
- 妙木忍 著
- 出版社:青土社 価格:2,600円
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女性の生き方の選択をめぐる論争は、戦後に主婦が大衆化してからゼロ年代まで6次にわたって繰り広げられた。本書は丁寧な言説分析を通した戦後女性史ともいえる。著者は70年代以前と80年代以降とを区分し、女性のライフコースが「多様化」した以後の論争(アグネス論争、専業主婦論争、「負け犬」論争)について特に注目している。なぜなら著者は、「選択肢が多様になった」ために、女性同士の比較や対立が生まれやすくなったように思うからという。
第1次から第5次までは、論争の前提に性役割規範(主婦役割・母親役割)があったが、第6次の「負け犬」論争では脱落し、ライフコース(婚姻・出産)規範に移行した。もちろんそれは性役割規範の解消を意味するわけではない。著者は市場労働と家事労働の男女比対称性がなくなる時まで、対立と葛藤が続くと予測する。通時的分析から導き出される発見にわくわくすると同時に、解決されていない問題が改めて浮き彫りになる。(竹)
つながりゆるりと小さな居場所「サロン・ド・カフェ こもれび」の挑戦
うてつあきこ 著
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- つながりゆるりと 小さな居場所「サロン・ド・カフェ こもれび」の挑戦
- うてつあきこ 著
- 出版社:自然食通信社 価格:1,600円
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この社会の様々な少数者は自分と同じような立場の人と出会えず孤独に陥る。だから、ピア(仲間)のつながりが必要だ。そこで安心感や社会の中で生きる力を得る。
「サロン・ド・カフェ こもれび」は生活困窮者やホームレスなどの人々のためのそうした場所である。昨今有名な「自立生活サポートセンターもやい」の援助で生活保護を受けたり、アパート生活を始めた人などが立ち寄る。
毎週土曜日、11時からカフェが開かれる。コーヒー1杯100円、ランチは350円。「いるだけで楽しい」カフェ。筆者は「もやい」のボランティアからかかわり、カフェを提案。さらに発展して、今はコーヒー豆を自家焙煎して販売する作業所的な事業を行っている。
筆者は、カフェでは「母」や「娘」など女性役割を期待されてしまう。その気づきはあっても変えることは大変だという。各所に折り込まれるモノクロの写真と共にカフェにいる一人ひとりの息づかいが伝わってくる好著。(衣)
死刑でいいです孤立が生んだ二つの殺人
池谷孝司 編著
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- 死刑でいいです 孤立が生んだ二つの殺人
- 池谷孝司 編著
- 出版社:共同通信社 価格:1,400円
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衝撃的なタイトルにひかれ、一気に読んだ。本書は、16歳の時に母親を殺害し、少年院を出た後、何の面識もない姉妹を刺殺し、2009年7月、25歳で死刑執行された、山地悠紀夫の人生を追ったルポルタージュ。共同通信大阪社会部が、08年に全国の新聞に配信した連載企画に加筆したもので、様々な立場の人からの分析も載っているのが興味深かった。
「凶悪犯」の彼の背景には多くの問題が隠れていたことを知った。酒乱の父親からの暴力、父親病死後の母子家庭の貧困、学校でのいじめ、不登校…。「死刑でいい」と、反省ができない彼には広汎性発達障害の「アスペルガー症候群」の疑いがあった。それらの要因が直接犯罪に結びつくわけではないし、殺人行為は許されないが、このような状況が孤立を生み、彼がどのように追い詰められていったのかは分かる。精神面で障がいのある人への支援のあり方など、厳罰化だけでは犯罪抑止力にならないことを考えさせられる。(り)