働く女性とマタニティ・ハラスメント「労働する身体」と「産む身体」を生きる
杉浦浩美 著
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- 働く女性とマタニティ・ハラスメント 「労働する身体」と「産む身体」を生きる
- 杉浦浩美 著
- 出版社:大月書店 価格:2,600円
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本書は、自身も働きながら妊娠・出産を経験した著者が当事者へのインタビューをもとに、「妊娠期の労働」の諸相を明らかにするものである。調査結果からは、男性と同様に働くことを職場から期待され、また本人もそう望むが故に困難に陥る女性たちの姿が見てとれる。と同時に、本書は、そのような「労働する身体」と「産む身体」の矛盾を乗り越える視座を女性たちの語りから見いだしている。
例えば、ある一般職女性は、妊娠が判明しても退職は考えなかったという。それは、強いキャリア志向があったわけではなく、妊娠・出産・子育てをしながら働くことは当たり前のことだったからだ。
ここからは、そもそも身体を労働や妊娠・出産など単一の色で染め抜くことに問題があるのだという至極真っ当ではあるが、極めてラディカルな主張が読み取れる。「労働」と「身体」に関心のあるすべての人にお勧めしたい。(ぐ)
平成オトコ塾悩める男子のための全6章
澁谷知美 著
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- 平成オトコ塾 悩める男子のための全6章
- 澁谷知美 著
- 出版社:筑摩書房 価格:1,400円
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男性の性の歴史の研究者である著者による、男性に向けた生き方指南書。「男の友情」や「僕がキミを守る!」の精神の罠などの主題を歴史的・文化的に掘り下げ解説する。またコンプレックスを刺激する形成外科業界の包茎手術の実態なども明らかにするほか、「非モテ」はいかに生きるべきかといったテーマについても扱う。笑えるネタは満載だが、それらを通してオトコの生きづらさ、しんどさといったものが見えてくるのが興味深い。
暴力をテーマにした章では戦時中の男男間の性暴力を例に、暴力というものがどのようにして起こり、認識されるのかを基本的なことから丁寧にひも解いている。さらに性風俗に関する章では、様々な議論を踏まえた性労働に対する筆者の考察も述べている。
文体はちょっと親切すぎる?と思うほどやわらかいが、内容は新しい角度からのジェンダー研究書としても読めるもの。ぜひ手にとってもらいたい。(梅)
障害者の「自立生活」と生活の資源多様で個別なその世界
田中恵美子 著
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- 障害者の「自立生活」と生活の資源 多様で個別なその世界
- 田中恵美子 著
- 出版社:生活書院 価格:3,400円
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重度の身体障害のある人たちが、親元を離れ、施設を出て、地域で暮らす生活を「自立生活」と言い、日本では、1970年代後半からこうした生活の場が生まれてきた。しかし一般にはあまり知られていないか、一部の「強い障害者」だけができる生き方であるかのように捉えられ、結果、多くの人から、「自立生活」を遠ざけてしまっているのではないか。
著者のそんな疑問からはじまる本書は、さまざまな状況で「自立生活」をするにいたった人たちの多様な暮らしのあり様を丁寧に描く。
当たり前で普通の生活が、「障害者だって結婚して地域で暮らせる。自分の生活を形成することができる」という言葉で示される点には、特に「結婚」が「当たり前」とされることによる抑圧を考える必要があるといった問題点も含まれていると思うが、「自立生活」のあり様を多くの人が知り、考えるきっかけがつまった本だ。(紀)