顔にあざのある女性たち「問題経験の語り」の社会学
西倉実季 著
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- 顔にあざのある女性たち 「問題経験の語り」の社会学
- 西倉実季 著
- 出版社:生活書院 価格:3,000円
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著者は、「美は女性にとって特権ではなく強制である」という問題意識に立ち、あざのある女性たちへの聞き取りを通して、外見の美醜をめぐる問題を明らかにしたかったという。しかし、女性たちのライフストーリーから浮き彫りになったのは、「ハンディ(障害)」であれば理解されるはずの生きづらさが美醜の問題と軽視されている現実であった。著者は異形を「障害」に包摂しようとせず、彼女たちと居合わせる私たちが対応を修正すること、「好意ある無関心」で接することから、異形という問題の社会的認知を進めようとする。
日本において顔に疾患や外傷を持つ人は約100万人いるという。その外見ゆえに個人としては目立つが、ひとつの集団としては不可視化されてきた。本書は、女性たちの語り-他者からの執拗な視線、学校でのいじめ、家族(特に母親との関係)、恋愛、仕事などにおける問題経験-と、著者の率直で誠実な姿勢と思考によって多くの学びを得る好著である。(竹)
人権で世界を変える30の方法
ヒューマンライツ・ナウ 編
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- 人権で世界を変える30の方法
- ヒューマンライツ・ナウ 編
- 出版社:合同出版 価格:1,300円
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『戦争をしなくてすむ世界をつくる30の方法』など、問題の原因・背景とその解決策を、実践を交えて分かりやすく説明するシリーズの新刊である本書は、「人権」という、「環境」や「平和」に比べてとっつきにくい言葉と、それがひらく世界を簡潔に示してみせた。
国境を超える普遍的な言葉である「人権」という言葉が、世界各地で使われるようになったのはここ60年ほど。普遍的な言葉ゆえに、「人権」という言葉は難解だったり、逆に雲をつかむようだが、「空気を吸うのと同じように」私たちが人権に守られている生活をしていることを丁寧に示し、人権侵害を引き起こす背景も解き明かす。
反アパルトヘイト、スウェットショップの児童労働、対人地雷禁止…人権侵害を訴え世界を変えた背景には、いつも勇気ある人の告発とそれに共感し行動する人の存在がある。本書はNGOの情報ソースや国際刑事裁判所など人権侵害をなくすシステムの紹介もあり、誰もがそんな一人になれる道をひらいている。(登)
〈進歩的主婦〉を生きる戦後『婦人公論』のエスノグラフィー
中尾香 著
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- 〈進歩的主婦〉を生きる 戦後『婦人公論』のエスノグラフィー
- 中尾香 著
- 出版社:作品社 価格:2,400円
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戦後、フェミニズムの波が起こり価値観が大きく変化した1950〜60年代、無名の女性たちはどのように自らの生き様を構築してきたのか。本書はそれを、雑誌「婦人公論」と、その愛読者たちへの取材から考察する。女子の大学進学率が低かった時代、「主婦」として生きる女性たちにとり「婦人公論」は、有意義な教科書たり得た。また各地で開催された愛読者グループは、さながら大学のゼミのような役割を果たしていたともいう。
しかし戦後民主主義の中で生まれた「強い女」像が、高度成長時の専業主婦政策とあいまって性別役割分業を強化してしまうように、時に「進歩的」であろうとするほど、女性たちは無自覚に体制を強固に支える側に立つことを余儀なくされる。編集部もまたこうした誤謬と商業主義に揺れながら、時代に押し流されていった。何げなく目にしていた「婦人公論」にこんなにも熱い読者たちに支えられていた歴史があったとは驚きだった。(梅)