理系の扉を開いた日本の女性たちゆかりの地を訪ねて
西條敏美 著
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- 理系の扉を開いた日本の女性たち ゆかりの地を訪ねて
- 西條敏美 著
- 出版社:新泉社 価格:2,000円
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以前、台湾の女性研究者から「日本には吉岡彌生がいてうらやましい」と言われたことがある。吉岡は医学校が女人禁制だった明治初期に日本初の女性医師養成機関(後の東京女子医科大学)を設立し、女医の道を切り開いた功績者の一人だ。同じころ、台湾は日本の統治下にあり、医学を学ぶのは男性だけという制度がその後も長く続いたという。日本が台湾の女性たちにそんな迷惑をかけていたなんてと衝撃を受けたが、一方で日本では吉岡彌生を知ってる人は少ない。理系分野に女性を進出させようという政策が最近進められているが、過去の先達たちの歴史は依然知られていない。
本書は吉岡彌生のほか理系分野の女性たち25人の出自、人柄、業績が紹介され、男性が占有してきた専門領域に踏み込む女性の歴史をかいま見ることができる。著者が「写真で綴るふるさと紀行」と称す通り、気軽に読め、ブラリと女性先達史跡めぐりの旅に出たくなる。これからの季節にぴったりの本だ。(水)
- 差別と日本人
- 野中広務、辛淑玉 著
- 出版社:角川書店 価格:724円
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野中広務さんと辛淑玉さんの対談は、本音と本音のぶつかり合いで、読んでいる側もへとへとになってしまう。これまで乗り越えてきた障害の大きさ、生きることへの真摯さに圧倒される。二人の間の距離はテーマによってぐっと接近したり、離れたり。たとえば戦争の悲惨さを知る野中さんがなぜ、「国旗国歌法案」を成立させたのか。「女性のためのアジア平和国民基金」を設立させたのはどんな考えからなのか。潔いまでの割り切りは、政治家だからなのか。
しかし、これだけはっきりと世にものを問うことができる二人でさえ、打ちのめされたのが、出自に対する根強い差別だった。名が知られるとともに家族へも及ぶ災い。家族を必死で守ってきた心の内も明かされる。「差別は享楽なのだ。そこに差別一般、そして部落差別を支える心のメカニズムがある」と辛さんは記している。
であれば、あらゆる差別を深く恥じる文化を、せめてこの国に育てなくては、と思う。(室)
- ニホンミツバチが日本の農業を救う
- 久志冨士男 著
- 出版社:高文研 価格:1,600円
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アメリカやヨーロッパ、そして日本でもミツバチが群れごと消滅する蜂群崩壊症候群が問題になっている。ここでいうミツバチとは、養蜂家に飼育されているアフリカ原産のセイヨウミツバチを指すそうだ。日本には明治期に輸入され、ハチミツを作り、温室栽培の果物の受粉作業も人に代わって担ってきた。このため、セイヨウミツバチ消滅は、メロンやイチゴ栽培農家に大打撃を与える。
本書の主人公は、ニホンミツバチという日本在来の野生のミツバチである。このミツバチも、大昔から花粉媒介を通じて日本の森林や農業を守ってきた。難しいとされた飼育に成功した著者は、病気に罹りやすいなどの欠点を持つセイヨウミツバチに比べて、思考力に優れ、人との意思疎通も可能で頑丈なこのミツバチの、農家での利用を推奨する。しかし、農薬被ばくはいずれのミツバチにも致命傷という。日本農業再興のためにも、ミツバチが元気で働ける環境整備を著者は訴えている。(束)