恋する女一葉・晶子・らいてうの時代と文学
高良留美子 著
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- 恋する女 一葉・晶子・らいてうの時代と文学
- 高良留美子 著
- 出版社:學藝書林 価格:3,000円
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本著は、樋口一葉、与謝野晶子、平塚らいてう、『青鞜』の女性詩人、野上弥生子、長沼智恵子、高村光太郎、田村俊子、宮本百合子についての論考を主な内容としている。
紙数を費やした一葉文学では『たけくらべ』で、近代的な(金銭、学歴、国家権力の)諸価値を通過させることで、かつて仲良しになる可能性を持った美登利と信如が、両極存在に組み替えられたこと、そして『たけくらべ』以後の幾編かの小説、たとえば『にごりえ』『十三夜』などで、この分裂を極限まで生きた女たちを描き、近代小説への道を足早に歩き続けた一葉を語り、読者をして「そうなのか」と納得させるのに十分な説得力があった。
中心テーマである「恋」について、「人間が根底から変わるのは他者との関係を通してだが、恋は人間のエネルギーの根源」とした上で、「これら表現者たちが、近代思想の最も良きものを真摯に堂々と、血肉を持って受けとめていることを改めて発見した」との感懐を共有できた。(k)
アフガニスタンの大地とともに伊藤和也 遺稿・追悼文集
ペシャワール会 編
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- アフガニスタンの大地とともに 伊藤和也 遺稿・追悼文集
- ペシャワール会 編
- 出版社:石風社 価格:1,500円
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2008年8月26日、アフガニスタンで現地の人とともに医療支援や灌漑用水路建設を行ってきたペシャワール会のワーカー、伊藤和也さんが凶弾に倒れた。長い戦乱と大干ばつで荒廃したアフガニスタンを「緑豊かな国」にし、「子どもたちが将来、食料で困ることのない環境」をつくりたいと願った伊藤さん。本書は伊藤さんの遺稿と追悼文、伊藤さんが撮影した現地の子どもたちの写真からなる。
厳しい環境の中、アフガンを愛し村に溶け込み、農民の一人となって黙々と作業した伊藤さんは、村人からは信頼され、子どもたちには慕われた。
同会現地代表の中村哲さんは「平和とは戦争以上の忍耐と努力が要る。和也くんはそれを愚直なまでに守った」と評す。アフガンにもはびこる暴力主義をなくすには、憤りや悲しみを「友好と平和への意志に変え」、「アフガン農村の復興」させるしかないと改めて思い定めるスタッフたち。伊藤さんの命が教えてくれたことを胸に刻みたい。(登)
いま「開国」の時、ニッポンの教育
尾木直樹、リヒテルズ直子 著
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- いま「開国」の時、ニッポンの教育
- 尾木直樹、リヒテルズ直子 著
- 出版社:ほんの木 価格:1,600円
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教育評論家・尾木直樹さんが語る日本の子どもは、15歳の約3人に1人が孤独感や抑うつ傾向を持つという事態に加え、さらに経済・文化・情報格差が子どもたちを襲う。一方、オランダの教育を研究するリヒテルズ直子さんが示すオランダの13歳の子らは、94%が生活に満足し、学校が好きが45%、また困ったことを母親に90%、父親に80%が相談する。本書は両国の教育や社会の違いを浮かび上がらせ、日本の教育のあり方を模索する。
オランダで学校とは「学ぶことを学ぶ場所」。学ぶ主体の子どもたちは、将来社会を支える仲間の市民として尊重されている。だからこそ、イエナプラン教育やダルトン教育など個別教育を推進する少数派のオルタナティブ・スクールも伝統的な教育同様に守られる。ここに、オランダと日本の民主主義の成熟度の違いを痛感させられる。
「教育鎖国」等、厳しい言葉が飛び交うが、多様な教育の実践を知り、力にしてほしい。(涼)