シナリオ「明日の罪を犯せ」 5

(文学青年としての木村愛二)

『軌』13号47-68頁に掲載(12月会・1961.12.1発行)征矢野愛三

5:シーン 34~38

(その激しさは、愛なのか憎しみなのか)

34 演習場。オーバーラップ

 トラックから降りる作業服の防衛大生の一隊。奥月宏一と榊原丈二が並んでいる。途中で、奥月は自衛隊の指揮をしている陸佐と親密な会釈を交す。榊原の不審顔。

榊原「妙な所に知り合いがいるな。」

奥月「一昨年迄、防衛大にいたんだぜ。」

榊原「へえ。俺は覚えてないがね。何でお前は知ってんだい。」

 廻撃砲の射撃演習の隊形に分散する。二人は同じ組になる。陸佐、此方を向く。

奥月「彼奴は親爺の部下だったんだ。司令部付の士官候補生だったらしい。親爺の自決を最初に発見した奴だ。」

榊原「へえ。そいつは奇遇だったんだな。」

 号令。迫撃砲の装填。奥月も陸佐を見る。陸佐の背中をアップ。

35 カットインして教官室。

 ノックする奥月。

教官「入ってよろしい。」

 奥月入って敬礼。進んでまた敬礼。

奥月「一年学生、二一三小隊、奥月宏一、参りました。」

 教官と陸佐、立ち上っている。

教官「奥月学生、此方は第四大隊の指導官、杉山二等陸佐だ。戦争中は、君の父上と一緒におられたそうだ。」

杉山「君は覚えていないかもしれんが、御葬儀には参列させて頂いたので、一度会っているんだ。お宅にも一度、参上した。」

奥月「覚えてます。」

杉山「そうかい。いや、何気なく名簿を見ていたら、奥月というのがある。問い合わせてみたら、やっぱり閣下の一粒種ということで、驚いたよ。いや、立派に成長したもんだ。」

 奥月の複雑な表情。アップ。フェイドアウト。

36 カットインして演習場

奥月「一緒に飲んだよ。素面じゃ照れ臭いことだし、逃げる訳もいかん。あの男は一人で感激していた。」

榊原「そして君は例によって内心じゃ皮肉なことばかり考えながら大真面目なうなずき方をしていたってわけだな。」

奥月「(真顔で)俺にだって親爺の死んだ時の話は胸にこたえるところがあるよ。」

榊原「こりゃあ失敬。つい調子にのっちゃって。」

奥月「何もあやまることはないさ。事実、俺はひねくれた受け取り方をしていたに違いないんだからな。」

 号令。照準を定める。

奥月「親爺の奴、腹を切る時に一番張り切っていただろうと思ったよ。」

 号令。射撃。

奥月「(榊原の顔にたたきつけるように)俺は親爺と同じ人間だよ。その時の親爺のカッコウ良い気分が良く分るんだ。」

 迫撃砲弾、着弾。砂煙。フェイドアウト。

37 フェイドインして、外苑、落陽

 美根子の車。オープンにしてある。

美根子「ああ、いつまでいても飽きないわね。」

 二人は前部に並んで坐っている。

美根子「だけど、私と貴女って、全然違うわね。」

加代子「そうかしら。」

美根子「私は初めて会った時から、そう感じていたの。でも、そのくせ、きっと貴女となら仲良しになれるって確信があったわ。……私って、(うつむく)すごく我儘なのよ。自分と少しでも似た所のある人をみると面白くないの。(笑って)ちいさい時からそうだった。いじめっ子よ。お人形は引き裂いてしまうし(池の金魚に石をぶつけるのが楽しみだったっていうし、優しい所はちっともなかったらしいわ。」

 加代子、真剣な顔で美根子を見ている。

美根子「(ふいと前を向いて、軽くいい放つ)私は我儘の淋しがり屋よ。いつも御友達が欲しくてしかたないのに、出来たかと思うとすぐ嫌われて……(つんとして)御迷惑だったでしょ。こんなに長いこと引き止めちゃって。」

加代子「御免なさいね。妙な顔しちゃって。私、一寸驚いただけなの。」

美根子「帰りましようね。」

 車の屋根をかける。怒ったような横顔。

加代子「怒ってらっしゃるの。」

美根子「違うわ。」

 ふり向くと、涙が急にこぼれる。

美根子「可笑しいわね。急に悲しくなったりして。」

 泣き笑いの表情。加代子も微笑み返す。美根子、手で涙を払う。加代子、美根子の両手を優しく握る。それを美根子、握り返し、引き寄せて、素早く接吻する。加代子、驚いて身を縮める。美根子、両手で、その一肩を抱く。

美根子「こんなことして、私を嫌い。」

加代子「いいえ、好きよ。」

 美根子の膝に崩折れる。

美根子「私、男の子に生れたかったわ。(幸福そうな微笑)私はいけない子ね。女の子のくせに、女の子扱いされるのがくやしかったんですもの。男の子の仲間入りをしたがってはいつもいじめられていた。すると私は他でいじめる相手を探してウップンを晴らす。でもすぐ泣きべそをかく奴は嫌いだったわ。大きくなって私は男の子が遠慮するのに気がついたの。それは私が美しかったからよ。(笑う)貴女のような優しい女らしい美しさとはまるっきり縁がないけど、私の高慢ちきな様子を見ると男の子は征服欲を覚えるし、自信がなければ屈辱感を味うんだわ。私は男の子にいじめられなくなったけど、誰も好意を抱いてくれはしなかった。私の性格も悪いんでしようね。でも変りようがないの。ますます意地悪になるばかりだったわ。……貴女をはじめて見た時、私は羨ましかったのよ。貴女の優しい親しみやすい微笑に憧れているあの男の子達のような仲間を一度でいいから私も持ちたいと思ったわ。私は男の子の敵意しかしらないんですもの。……
 貴女の眼は本当に暖かいわね。誰でも素直に引き寄せられる。」

 加代子の顔に夕日が当っている。フェイドアウト。

38 カットインして美根子の居間

 美根子、部屋着で長椅子にねそべり、レコードをかけている。シャワーの音。止むと加代子が出て来る。美根子の部屋着を借りている。

美根子「まあ、良く似合うわ。美しい、とっても。(起き上って両一肩に手をかけ、うっとりと見つめる)本当に貴女って女らしい美しさがあるわね。」

加代子「馬鹿ね。そんなことばかりいって。」

 加代子を坐らせ、足下に膝をつく。

美根子「貴女は聖母様よ。そうよ。貴女が赤ちゃんを抱いている姿って素晴しいでしようね。私なんかだったらきっとコッケイにみえるでしょうけど。」

加代子「そんなことないわよ。貴女だって……。」

美根子「いいえ、私には似合わないの。私は男の子をキリキリ舞いさせる悪女しか演ずることが出来ないのよ。憎み合っている状態だけがふさわしいの。」

加代子「貴女は人を愛したことがないの。」

美根子「必要としただけのような気がするわ。私の我儘を聞いてくれる人間をね。」

加代子「そんな風に思っているだけじゃないかしら。貴女も人を愛することは出来るのに、無理に背を向けているのよ。」

美根子「そうかもしれないわね。」

加代子「それに、必要とする人間同士が実は愛し合うんだと考えてもいいでしょ。」

美根子「それじゃ、こういうのはどお。私は実は貴女を必要としたのよ。相談相手としてね。」

 美根子、皮肉なような、それでいて縋りつくような笑いを見せる。

美根子「私、(うつむいて)妊娠してるの。」

加代子「えっ‥‥‥あの人の子供ね。」

美根子「そうよ。(唇を歪める)私を一番憎んでいる男……私はあいつしか知らない。私の育ちの良いことや美しいことを眼の敵にしている男よ。あまり激しい憎み方だから、私も負けてしまったの。」

 加代子の表情アップ。放心している。

加代子「子供が生れる……」

美根子「あいつはきっと私をあざけるわ。」

加代子「えっ。何を……」

美根子「私が妊娠したなんて言ったらあいつは、ざまを見ろって言うに決ってるわ。」

加代子「まあ、あの人だって貴女を愛しているんでしょうに。」

美根子「あら、私のいうこと聞いてなかったのね。(ケタタマしく笑う)まるっきり反対よ。憎み合ってたのよ。お互いに相手を捻じ伏せることしか考えてなかったわ。……私達を結びつけるものといったら、お互いの意地と、あの楽しみだけ。それでさえも闘いだったわ。(加代子の顔を見て声を落す)軽蔑なさるわね。当然よ。自分でもこんな生き方を軽蔑してるんですもの。あいつだってそうよ。天邪鬼なことをして自分を痛めつけているだけなんですもの。」

加代子「分るわ。あなた方はやっぱり愛し合っているのよ。それなのにお互いにその事実を否定しようと懸命なんだわ。……」

美根子「(ガックリと素直になって)そうなのかしら。……そう思えたら幸福ね。私、否定するのを止めれば良いんですもの。」

加代子「ともかく私を相談相手に選んで下さって嬉しいわ。あの人だっていつまでも天邪思ではいられない筈よ。その子供が幸せに生れて来るように考えたいわ。」

美根子「あいつに会ってくれる? でも、それじゃ駄目ね。会って話しただけでどうにかなる相手じゃないんですもの。」

加代子「(ポツリと)あの人にも救いが必要なのね。」

美根子「ねえ、私の部屋でパーティをやらない。以前には遊び仲間がよく押しかけて来たものよ。滅茶苦茶に散らかして帰ると、急に静かになって、私独りきりになってしまう。淋しくって厭になったから、此頃はやらないんだけど、仲直りパーティってのも悪い思い付きじゃないでしょ。」

 加代子の考える顔をアップ。フェイドアウト。


6(これは俺の誤ちだ。私達は未来の罪人ね。)に続く