2部 ODAの諸問題:情報公開

4.情報公開法とODA


 ODAの情報公開を考える際にネックとなるものが、日本には情報公開法がない、ということです。情報公開法がないため、情報公開は行政機関の当然の義務である、という認識が、やはりODA関連の行政機関にも欠けているところがあり、情報公開が十分になされない、という状況につながっています。

 情報公開法制定の動きは日本にも存在します。行政改革のながれの中で、行政改革委員会のもとに組織された情報公開部会が、1995年、情報公開法の原案をまとめるために作られ、情報公開法の政府案を作るべく、会合を行ないました。その結果1996年12月に情報公開要項案が完成しました。

 この要項案は98年度通常国会で審議される予定で、そのまま通過するかどうなるかはわかりませんが、とりあえず政府案として提出されることになっています。そこで、この要項案に沿って、ODAの情報公開の可能性について考えてみたいと思います。

1.開示請求権

 〜日本国民に限られない開示請求権

第3 開示請求権

何人も、この法律の定めるところにより、行政機関の長に対し、行政文書の開示を請求することができるものとすること。

 ここには『何人も』と書かれてあり、『日本国民』とは限られていません。つまり、外国人でも開示請求をできることになります。ODAの分野で言うと、ODAの供与によって影響を受ける住民も情報開示請求をできることに、法律上は、なります。

 

2.行政機関の開示義務

 〜基本的に不開示情報を除いて、行政機関は開示の義務がある

第5 行政機関の開示義務

1 行政機関の長は、行政文書の開示の請求(以下「開示請求」という)があった場合は、開示請求に係る行政文書に不開示情報が記録されているときを除き、開示請求をした者(以下「開示請求者」という。)に対し、当該行政文書を開示しなければならないものとすること。

 行政機関には文書を開示する義務がある、と定められています。ただし、不開示情報というものがあり、これに関しては公開しない、公開する義務がないことになっています。

 

3.不開示情報

 〜開示されない情報

第6 不開示情報

  第5に規定する不開示情報は、次の各号に掲げる情報とすること。

(3) 開示することにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある情報

 ODAに関する情報公開を求めるときに、外務省を始めとする行政機関が非公開の盾として使うのが、この条項だと考えられます。ODAは外交の一環であるということが、外務省の基本的な立場であり、外交であるからには他国との関係を重視して、公開、非公開を決定する、ということです。

 しかし、ODAは外交という要素も含まれますが、相手国の住民の生活を左右するもので、ただの外交カードではないし、ただの外交カードとなってはいけないということは言うまでもありません。そのことを考慮し、この条項をむやみに拡大して解釈しないようにしてもらいたいと思います。現在は、まさにこの条項の内容を盾にして公開を拒んでいる、というところが現状のように思われます。

(5)行政機関内部又は行政機関相互の審議・検討又は協議に関する情報であって、開示することにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがあるもの

 現在のODA(特に無償資金協力と円借款)では借款契約(E/N)が締結されるまでの情報は非公開となっています。その前の審議・協議に関する情報はいっさい知ることができません。当然、審議段階(例えば円借款における4省庁協議など)での議事録はあるはずで、それを見れば、なぜその案件にODAを供与するのかという理由の部分が見えてくるはずですが、その段階での情報は今は見ることはできません。

4.不服申し立てに関する手続・不服審査会の権限

 〜異議申し立て機関の設置

第17 不服申立てに関する手続

開示等決定に対して行政不服審査法に基づく不服申立てがあった場合は、当該不服申立てに係る処分庁又は審査庁は、不服審査会に諮問して、当該不服申立てに対する決定又は裁決をしなければならないものとすること。

 開示決定に対して不服がある場合に請求者は次の二つの対応をとることができます。

(a)行政不服審査法に基づく不服申し立て

(b)行政事件訴訟法における取消(抗告)訴訟

  (a).による不服申し立ては、処分庁または審査庁に対して行なわれるもので、通常の不服申し立ての場合はそのまま処分庁が判断するのですが、情報公開請求の場合は更に第三者性の高い不服審査会に諮問することになります。

 不服審査会とは不服申し立てについての調査審議をするための合議制の機関で、委員は、国会の同意を得て内閣総理大臣が任命する、と定められています。しかし、不服審査会には「答申」を提出する権限が与えられるにすぎず、最終決定権は不服審査会ではなく、処分庁や審査庁にあります。結局は「高度に政治的な」判断が処分庁によって下され、不服審査会がその意義を十分に発揮しないということになるのではないかという恐れもあります。

  (b)は、情報公開請求に対して非開示決定がなされた場合に、その決定の取消を求めて行なう訴訟のことです。行政事件訴訟の場合は、行政庁の所在地の裁判所に提訴する、と決まっているため、現在の状況では必然的に情報公開については東京地裁に提訴、ということになります。

 ただ、情報公開請求を行なう人は、全国各地に(世界各地に)いるわけであり、せめて日本国内は請求者の居住地で不服申し立てをできるようするべきではないか、という要望もあります。

第20 不服審査会の調査権限

1 不服審査会は、必要と認めるときは、諮問をした処分庁又は審査庁(以下「諮問庁」という。)に対し、開示請求に係る行政文書の提出を求め、事件の審議にあたる委員をして、不服申立人に閲覧させずにその内容を見分させることができる。この場合において、諮問庁は、当該行政文書の提出を拒むことはできないものとすること。

2 不服審査会は、必要と認めるときは、諮問庁に対し、請求拒否の決定があった行政文書又はその部分と請求拒否の理由とを不服審査会の指定する方式により分類・整理することその他の方法により、諮問に関する説明を求めることができるものとすること。

3 前2項に定めるもののほか、不服審査会は、事件に関し、不服申立人、参加人及び諮問庁(以下「不服申立人等」という。)に意見書又は資料の提出を求め、参考人に陳述を求め又は鑑定をさせ、その他必要な調査をすることができるものとすること。

7 不服審査会の審理は非公開とする。ただし、答申は公表するものとすること。

 不服審査会は開示請求を行なったものの、開示を拒否された文書を見て、その開示拒否が正当なものであったかを調べることができます。この、事件の審査にあたる委員だけが文書を見分することができるという審理を「インカメラ審理」と言います。

 (a)の不服審査会についてはこれが認められているのですが、(b)の裁判所においてはこのインカメラ審理が認められていません。裁判所が判断する場合に、その文書を見ないと判断できないことが出てくるはずで、より第三者性の高い裁判所がこのインカメラ審理をできない、ということは問題である、と考えられます。

5.特殊法人の情報公開

 〜特殊法人は情報公開法の適用範囲外なのか

第27 特殊法人の情報公開

政府は、特殊法人について、その性格及び業務内容に応じて情報の開示及び提供が推進されるよう、情報公開に関する法制上の措置その他の必要な措置を講ずるものとすること。

 情報公開法要項案によると特殊法人はこの法律の適用外ということになっています。

 ODAに関していうと、JICAは外務省の特殊法人であり、OECFは経済企画庁の特殊法人です。このようにODAの実施機関は特殊法人なのであり、この情報公開法の適用範囲によると、ODAの実施機関は情報公開をする義務はないことになってしまいます

 しかし、この項で特殊法人が情報公開に努めるように政府は必要な措置を講ずること、と書かれており、情報公開は特殊法人も例外ではない、と規定されていると読むこともできます。

 いずれにしても情報公開は、政府が出資して運用されている特殊法人も例外なく行なわれるべきであり、情報公開法の範囲外だから、という理由で情報公開を拒むことは許されない、と思います。特殊法人も情報公開法に準拠する、という認識が特殊法人の側にも必要なのではないでしょうか。

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