2部 ODAの諸問題:情報公開

5.ODAに関する情報公開に望むもの


1.情報公開についての考え方について

 情報公開は行政機関にとっては当然の義務です。外務省に、ある文書の非公開の理由を尋ねたとき、「それは内部文書だから公開できない。どこの会社でも内部文書は存在する」ということを言われました。なぜその文書を内部文章としているのか、ということが聞きたかったのですが、結局明確な回答は得られないままでした。このように非公開としている理由もはっきりさせない状況では、本当に情報公開はやらなければならないものと考えているのか、はなはだ疑問である、と言わざるを得ません。

 情報公開は人々がODAをコントロールするためにも行なわなければなりません。行政機関はこれを非常に嫌っているような印象があります。なぜ情報公開が必要か、ということを行政機関に聞いたとき、それは国民が税金を払っているから、というような答えが返ってくることが一般的でした。国民には知る権利があり、そして行政の行なうことに関して監視しコントロールする権利があります。国民の税金や郵便貯金を利用しているからしょうがなく、という形ではなく積極的に取り組むことが必要なのではないでしょうか。

2.段階に合わせた情報公開

 現在は、交換公文(E/N)締結まで、私たちはどこのプロジェクトにODAを供与するのか、ということを知ることができない状況となっています。これでは、そのプロジェクトをより良い方向にするために、国民が関与するということが不可能です。

 そのプロセスを国民の監視下におくためにも、プロセスが進むごとにそれぞれの過程で出てきた文書を順次公開していくべきだ、と思います。

3.協議/審査内容の公開

 私たちが知りたいものの一つに、なぜそのプロジェクトにODAを供与するのか、ということがあります。現在の状況では残念ながらその理由の部分は知ることはできません。それを知るためには、実際にプロジェクトが相手国から要請されてきたときに、どのような協議が行なわれて、その案件に供与を決定するのか、という「協議の段階」の情報を知ることが必要となります。

 供与の理由を知るためにも、審査段階の文書の公開を望みます。

4.入札結果の公開

 どこの企業が応札してどこの企業が落札したか、全入札参加企業の応札額を公開することが必要だと思います。この入札結果(具体的には入札評価書というものが存在します)を知ることによって談合の有無がわかることになります。

5.事後評価の公開

 プロジェクトの一部については公開されていますが、全ての事後評価を公開しているわけではありません。事後評価が人員の不足、予算の不足のために満足に行なわれていないということもありますが、現地の事務所などは全てについて評価を行なっているはずで、(そうでないとしたらそれはそれで問題がありますが)その多くある評価の中でなぜ評価報告書にそのプロジェクトを取り上げ公開したのか、と言うことも問題となります。都合の悪いプロジェクトに関しては非公開としているのではないか、という疑惑も拭い切れません。評価はODAをより良い方向に持っていくために行なわれるものではなくてはいけないし、意味もないと思います。そのためにも全部の評価を白日のもとにさらすことが必要となるのではないでしょうか。

6.環境アセスメント/住民立ち退きなどに関する情報の公開

 環境破壊、住民立ち退きは現地住民に直接影響をもたらす重大な社会問題です。これに関する情報の公開は、特に現地住民に対して、行なう必要があると考えます。住民立ち退きが必然的に起こるようなプロジェクトの場合には、移転する住民の数、移転地の整備状況や計画、移転にかかる保障費などの情報を「事前に」公開する必要があると思います。

 OECFに住民の立ち退き問題に関する情報の公開についてどのように考えているのかを聞いたところ(住民の立ち退きが問題となるのは、ダムや道路など大きなプロジェクトの建設であり、このようなプロジェクトには円借款でODA供与が行なわれることが多いため、OECFが実施の担当となることが一般的です。)、「OECFは借款契約(L/A)を締結してから初めて当事者となるものであり、借款契約以前の情報公開には関与していない。但し、住民移転にかかるガイドラインを有しており、先方に同ガイドラインに沿って住民移転にかかる配慮を怠らぬよう働きかけている」、ということでした。

 最初の部分で、「OECFは無関係だ」としていて、「立ち退き問題は相手国政府の責任だ」としているにも関わらず、次の部分では「ガイドラインがあって、それをもとに相手国に働きかけている」ということを言っています。これは明らかに矛盾しています。ガイドラインをもとに働きかけをできる立場にありながら、相手国側の問題だ、としているわけで、それならば何のためにOECFはガイドラインを作っているのか、ということにもなります。

 なによりも「OECFは無関係である」ということはないはずです。実際にプロジェクトを実施しているのはOECFであって、たとえ借款契約の締結前であっても誠実な対応は絶対不可欠です。情報公開を「関与していない」という言葉で片づけるようなことは避けてほしいと思います。

7.情報公開ガイドラインの制定

 情報公開法制定に合わせて情報公開の方針を決定する情報公開ガイドラインが必要となると考えられます。どの文書を公開して、どの文書を非公開にするか、どの文書を一定期間非公開にして、その期間はどのくらいにするか、などを明確に記述すべきだと思います。

8.インターネットでの情報公開

 情報公開と広報は明確に区別すべきです。広報は行政の側が知ってもらいたい情報を公開することだと思われます。このような観点から見ると、現在のインターネットでの「情報公開」は一部を除いて、広報に徹している、と言わざるを得ません。

 どのようなプロジェクトを今検討しているのか、プロジェクトの進行状況、過去の個々のプロジェクトのデータなどをいつでも入手できるようにすべきだと考えます。インターネットは現在誰でも容易に家にいながらにして情報を得る手段となっています。このインターネットを行政の情報公開に利用すれば、世界中からその情報を得ることができることになります。情報公開を考える際に重要となることは(もちろんその情報が公開されることが大前提ですが)、「アクセスの容易さ」である、と思います。東京まで行かないと情報を得られない、ということは問題です。このアクセスの容易さを保障するものとしてインターネットを最大限利用してほしいと思います。

9.国際通用語(英語)や現地語での情報公開

 情報公開法要項案では「何人も」開示請求をできる、と書かれており世界中から開示請求ができるということになっています。特にODAの場合、世界各地の人々も日本の政策に興味を持つことが予想され、情報公開も日本語以外の言語でも行なうことが必要となっていると思われます。

 中でも日本のODA供与によって影響を受ける現地の人々に対する情報公開は必須です。そのために現地の言語で情報の開示を行なうことが必要不可欠だと思います。

10.裁判所でのインカメラ審理

 インカメラ審理とは先に 章で述べたように、事件の審査で、その審査にあたる裁判官のみがその開示請求拒否されたまさにその文書を見分し、その開示請求が正当なものかどうか判断する、というものです。行政側はその審査のために文書を提出することを拒むことはできません。

 情報公開要項案によると不服審査委員会ではこのインカメラ審理ができるけれど、裁判所がこの審理を行なうことは許されない、ということでした。これには、裁判官にその秘密文書を見せたくはない、という行政側の意図が感じられます。

 しかし、不服審査委員会よりも裁判所のほうが第三者性は高いわけですし、裁判所でインカメラ審理を行なうということは、裁判の公開という憲法上の原則を侵すことにはなりますが、そのリスクを補ってあまりある、不開示への行政の説明の真実性が判断できるという効果が得られると思います。

 このような理由から裁判所でのインカメラ審理の手続の導入を望みます。

11.一般国民の情報へのアクセスを容易に

 今回、この研究発表をするためにさまざまな資料(例えば事後評価報告書・事前調査報告書など)を得ようと思い、情報を集めたのですが、詳しい資料は東京まで行かないと得ることは困難でした。日本の援助機関の中で一番公開が進んでいると思われるJICAにしても、東京のJICA図書館に行かないと情報を得ることはできませんでした。(しかも請求の方法がけっこう面倒)。

 せっかく情報公開を行なうのであっても、アクセスが難しい、ということになればその意義は半減してしまいます。インターネットの活用も含めて、情報へのアクセスの方法について、より容易になるような方向を検討する必要があると思います。

前のページへ次のページへ

4.情報公開法とODA 第2部:環境アセスメント

 

第1部 ODAの基礎知識
.[1.ODAとは] [2.歴史] [3.現状] [4.批判] [5.改革に向けて]

第2部 ODAの諸問題
[医療分野のODA] [情報公開] [ODAにおける環境アセスメント]

1997年11月祭研究発表 「ODA研究発表」のページへ