わたしの雑記帳

2009/8/2 指導死遺族が、文科省を訪問

2009年7月31日(金)、前日の所沢高校井田将紀くん・指導死の判決にかけつけた遺族たち(長崎の安達雄大くんのお母さん(040310)、兵庫の西尾健司くんのお母さん(020323)、東京の大貫陵平くんのお父さん(000930))が、文科省に陳情に行った。
遺族ではない私も同行させていただいた。(ほか2名の計7名)

担当者は丁寧に応対してくれた。時間も2時間ほどもたっぷりとっていただいた。
長崎の安達さんからは、前回、2008年9月29日に文科省を訪問した際(このときも同行させていただいた)、「事故」で報告されている雄大くんの死を自殺とし、原因を「教師のしっ責」として統計に反映させてほしいと要望したことについての、その後の長崎での動きが報告された。
そのときにもらった回答ではじめて、安達さんは、雄大くんの死が、遺族に知らされないままいつの間にか、「自殺」と修正報告されていたことを知った。
2005年9月に、安達さんが市教委に修正を求めたときには、市教委は「判断する権能がないため修正できない」として拒否していた。にもかかわらず、2007年1月10日に、市教委は県教委に「事故死」を「自殺」とする統計修正を出しながら、両親には伝えていなかった。

しかし、「原因不明のその他」に分類されている自殺理由を長崎地裁で敗訴したものの、指導と自殺との事実的因果関係が認められたことから、「教師のしっ責」への変更を求めたが、一度出た結論は覆せないと拒否されているという現状について報告された。
文部科学省の自殺統計は背景原因をさぐることで、再発防止に生かすためにあるはず。ならは、文部科学省のほうから、「新しい事実が出た場合には、修正をしなさい」と通達を出してほしいとした。
それに対して、文部科学省は平成18年により正確な数値があがるよう、それまで主たる理由をひとつしかつけられなかったのを置かれていた状況を複数選択する方式に変えるようにしたという。

井田さんからは、昨日、東京高裁で棄却判決が出た。しかし、まったく自殺の予兆など何もなかった子どもが朝、元気に家を出て、次にあったときには遺体になっていた。しかし、教師のやったことは間違っていなかったという。1対5の長時間の事情聴取をしてもよいとおすみつきがでることが恐い。教師の指導によって子どもが死ぬという現実があることを把握しなければ、再発防止はできないのではないかという話がなされた。

そして、自殺理由から「教師のしっ責」が消えて、「教職員との関係での悩み」になぜ変更されたのかという質問に対しては、より広く要因を捉えるためだとの回答があった。
しかし、家庭の問題の場合には、「父母等のしっ責」と「家庭不和」の両方があるし、学校問題のなかにも、「いじめの問題」と「友人関係での悩み(いじめをのぞく)とある。拾いやすいようにというなら、「教師のしっ責」を残したうえで「教職員との関係での悩み」もあってもよいのではないかと言ったがはっきりした回答はなかったように思う。
(あとで、みんなで、「教師からのいじめ」という項目があってもよいと話し合った。きっと数値としてはあがってこないとは思うが)

大貫さんからは、ある指導死を学校側が「父母等のしっ責」で提出しようとしていたという。その書類を開示請求したら、「目的外使用に当るため見せられない」という回答がきたという事例があげられた。
自分の子どもがどのように記録に残されているかは、遺族にとって、子どもの尊厳にかかわる大切なこと。正しい情報があがってくる仕組みをつくってほしいと要望した。

西尾さんからは、教師が教育委員会や文部科学省のほうを向いていて、子どもたちのほうを向いていないという指摘があった。子どものほうを向いていれば悲劇は起きないとした。

それに対して、文科省の担当者は、自殺予防に取り組んでいると話した。教師が日々の仕事に追われて子どものサインを見逃している。昔は先輩から後輩へ、自殺にどう対応してよいか伝えられたが、今は期待できない。
自殺はいろんな要因がからまりあって引き起こされる。次に起こらないようにするのが大変重要。精神科医や学者の意見をまとめた教師用のマニュアルをつくったという。
(「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」マニュアル http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/046/gaiyou/1259186.htm )

それに対して、遺族からは、いじめは長期にわたるなかで様々なサインが出るかもしれないが、しっ責自殺はサインが出ない。
その日のうちに自殺をしてしまうという指摘が出た。

教師が自分のことを思って指導してくれると思えれば、信頼関係があれば子どもは死なない。
指導死は教育活動中に起きる教育の問題。逃げ場のない叱り方をしてはいけない。本当にまともな指導だったら子どもは死なない。
指導死がある。こういうときに子どもは死ぬとわかっていれば、指導による自殺は確実に減らせる
とした。

また、自殺があった学校にはスクールカウンセラーを手配しているという担当者の言葉に、遺族からは、スクールカウンセラーが事実隠ぺいに一役買っていることなどが報告された。
事実について語ろうとする子どもの口を封じて、早く忘れて。日常生活に戻れという。それを遺族も望んでいるという。あるいは、事実ではないのに、「前々から死にたいと言っていた」「うつ病」だったなどと、緊急保護者会でカウンセラーがいう。
あとで内容を知って問い詰めると、「一般論として言った」と言い訳をする。しかし、参加者は亡くなった子はそうだったんだと思ったと証言しているという。

自殺の理由を特定するときに、いつも使われるのが、自殺には様々な要因があり、ひとつに限定することはできないという精神科医の言葉だ。しかし、それを言ったらすべての自殺にあてはまるし、理由をあげることも無意味で、自殺予防など到底できないことになる。
いくつもの要因があるのであれば、それこそ、すべてをあげて、どこに問題があるのかしっかり分析すべきだろう。
あるいは、もっとも直接的な原因に焦点をあてるしかない。たとえば、指導死の場合、その教師の行為さえなければ、子どもは死ななかったと思えるかどうかで判断できるのではないか。

交通戦争と言われた時代から、交通事故死が激減した。交通事故も、運転手の問題、歩行者の問題、道路や車そのものの問題、同乗者の問題などいろいろあるだろう。いろんな原因があって、ひとつには絞れないなどと言っていたら、減らすことはできなかっただろう。
たくさんある原因をひとつひとつ丁寧につぶしていった結果、ここまで減らせたのだと思う。
子どもの自殺にしても同じだ。責任を問われることが恐くて隠していれば、いつまでたっても原因となるものはあがらず、対策も立てられない。

また、学校や教育委員会の隠ぺい体質について、西尾さんが、子どもがうそをつくときには何がそうさせているのか大人は考える必要がある。同じように、学校、教育委員会がなぜ嘘をつかなければいけないのかを文科省は考えてほしいとした。
正確な情報、本当の報告書があげられるような指導を文科省がしてほしいとした。
現在、被害者、当事者に対する調査がきちんと行われていない。事実が報告書に反映されていない。それは学校からみた事実にのみ偏っているからで、被害者の親と子どもからの聴き取りを記録し、報告書に反映させてほしい。それが再発防止になるとした。

担当者が「正確な情報があがるよう、努力している」と話したことに対しては、学校は子どもたちへの調査で、「不確かなことは言わないように」と言って口止めをする。しかし、この不確かなことの中にこそ、真実があるとした。
しかも、学校はいじめ自殺などでは、教師も子どもたちも混乱しているからと言って、事実調査をしようとしないが、わが子の指導死では、その混乱しているはずの6日内に事故報告書が提出されているとの指摘もあった。

話をしていて、さすがに役所のひとだなと思うのは、意見を求めても、「○○が肝要と思います」「自明のことと存じます」などのお役所独特の言い回しをする。すべてを一般論化して、言質をとられないようにしている。
不快な言い方はしないものの、うまく逃げていると感じた。
そして、きっと私たちの話をウンウンと聞きながら、ガス抜きさせておしまいにするつもりなのかなと感じた。

お役所は有識者や専門家の意見を重用する。しかし、当事者の言葉のなかにこそ、現実問題に対処できる、再発防止に実効性のあるヒントがたくさんある。それを無駄にしないでほしい。
7月27日つけの讀賣新聞が、第三者による調査委員会を文部科学省が検討していると報道した。
まだ、何も決まったわけではなく、第三者による調査委員会を含めて、自殺予防の観点からこれから検討するという。
しかし、親の知る権利が保障されないなかでの第三者はむしろ危険であることが、遺族らの口から語られた。
そして、事実調査を検討するのであれば、自殺予防の視点ではなく、むしろ、「犯罪被害者等基本法」の理念に基づいて、検討してほしいと要望してきた。
ここへきて、当事者の意見を無視して、専門家だけの意見で新しいシステムを作ろうというのは、今まで被害者の被害回復という視点を欠いてきていたことへの反省がまるで生かされない、逆行することになると思う。

※きちんとメモをとったわけではないので、内容の正確性については自信がありません。
違っているという指摘が同行者からあった時点で、少しずつ直していきたいと思います。おおよそ、このような要望が遺族らからなされました。次回、訪れたときに、きちんと私たちの言葉に耳を傾け、教育行政に反映させてもらったと実感できることを望んでいます。




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