わたしの雑記帳

2009/2/26 岡崎哲(さとし)くん(中3・14)暴行死事件の国と県を訴えている国家賠償裁判の判決(2/25)  (2/28一部改)

2009年2月25日(水)、午後1時30分から、東京高裁809号法廷で、岡崎哲(さとし)くん(中3・14)暴行死事件の国と県を訴えている国家賠償裁判の判決があった。
1時から1時10分の間、裁判所玄関のところで整理券が配られ、34傍聴席に対して48人の傍聴希望者が並び、コンピューターによる抽選になった。くじ運の極めて悪い私はどきどきものだったが、今回は当たった。

大坪丘裁判官、宇田川基裁判官、尾島明裁判官。
冒頭にテレビカメラによる静止画像の撮影があり、判決言い渡し。「いずれも棄却する」。あっという間に終わった。

判決文を受け取ってのち、概要に目を通した岡崎さんの代理人弁護士から説明があった。
形的には完全な敗訴だが、一歩前進があったという。
一審判決(me071001)では判決文の最初に、平成2年2月20日の最高裁の「捜査は、社会の秩序維持を図ることを目的としており、犯罪被害者の損害回復は目的にしていない」との判例を引用して、棄却の理由とした。
今回、岡崎さん側は、全国犯罪被害者の会「あすの会」の顧問弁護士である高橋正人弁護士を加えて、犯罪被害者の権利に照らし合わせても、茨城県警の対応は不当であることを訴えてきた。(me080130 me080401 me081124 me081222 第5準備書面、第6準備書面)  

東京高裁判決では、この部分について、平成12年に全国犯罪被害者の会「あすの会」ができて初めて、被害者の権利意識が高まり、それまでの警察捜査や裁判が公の利益のためにあるという伝統的な考えを反省して、平成16年に犯罪被害者等基本法ができ、平成19年に刑事訴訟法等の一部を改正、平成20年に少年法を改正して、被害者が少年審判を傍聴できるようになるなど具体化された。したがって、「現時点ではともかくとして」哲くんの事件が起きた平成10(1998)年10月8日当時は、犯罪被害者のための法制度もなければ、捜査や裁判が被害者のためにもあるという社会的認識もなかった」とした。

言い換えれば、平成16年以降、あるいは平成19年以降の事件、現時点であれば、犯罪被害者の権利をもって、不当な捜査あるいは、不適切な対応に対して、国家賠償を請求する権利があると認められる可能性がある。
長い間、被害者を苦しめてきた、平成2年の「捜査は、社会の秩序維持を図ることを目的としており、犯罪被害者の損害回復は目的にしていない」という判決文が効力を失っていることが、ある面で明らかにされた。

過去の被害者には本当に法律に保護されるべき権利はないのだろうか。救済されないのだろうか。しかし、高橋弁護士は言う。「ひとの権利というものが、その時々によって、あったり、なかったりするものなのか。平成10年も被害者に権利はあった。しかし、当時は警察を訴えるひとがいなかった。被害者が声をあげられなかっただけなのだ」と。
一方、竜ヶ崎署の警察官による捜査については、一審同様「著しく不合理な点が存在したとはいえず、違法な職務執行ではなかった」とした。


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支援者への報告のあと、4時から、裁判所内にある記者クラブ内で記者会見が行われた。
弁護士からの要望で、「平成16年以前の事件についても、犯罪被害の当事者たちは、自分たちが証拠の一部にしかすぎないとは思っていなかった。捜査や司法は被害者のためにも当然あると思っていた」ということを証言してもらうために、各地から駆けつけていた犯罪被害当事者の方たちが同席した。
犯罪被害者ではない私も、ずうずうしく、一緒にくっついて行って会見場に入れていただいた。

記者らの質問に答えて、高橋弁護士は、「過去の被害者の尊厳は尊重されなくてよい」といわんばかりの判決は心外であると言った。被害者が単なる証拠品でしかないというのは侮辱であるとも。

また、哲くんの父・后生(きみお)さんは、「棄却という結果に対して、はっきり言って悔しい。裁判に失望した。親としては、息子が殺されたときの警察の捜査がおかしかったから警察を訴えているのだから、平成10年の警察の違法な捜査や証拠隠滅について判断していないのは残念。平成2年の最高裁判決を覆して、新しい判例をつくりたい。最高裁に上告します。」と宣言した。

母・和江さんは、「被害者の長い間の歴史があって今日に至っている。被害者は何の権利も人権も持たされずに来た。声なき声をあげてきたことが、犯罪被害者基本法として実現した。被害者の人権、権利のあり方をもう一度、この国に考えなおしてほしい」と言った。

最高裁に上告しても、最高裁では、当時、どういう捜査があったか踏み込まれることはないと思うが、という記者の問いに対しては、后生さんは、当時の捜査の違法性の判断は、一義的に「被害者に権利はない」ということで、審議せずに却下された。
被害者の権利が見直されたときに、事実認定があるのではないかと思っている。
私たちは(哲くんが救急搬送された)病院で、ただ「一対一のけんか」であると教師から聞かされ、新聞発表で事件の内容を知った。被害者の尊厳は尊重されるべきだと思う。
私たちは、民事裁判で、加害者を訴えた裁判、学校を訴えた裁判、警察を訴えた裁判と3つやってきて、司法はまったく信用できないという思いでいる。
警察を訴えた一審判決では、警察の捜査の一部に不合理な点があることは認められた。ただし、著しく不合理があるとまでは認められないとして、棄却された。しかし、少年審判で、哲の死因は「突然死」とされたのが、民事裁判で右下腹部への大きな傷が影響しているとして死因が覆った。これは大きな不合理ではないのか。平成2年の最高裁判決が大きく立ちはだかった。
これは、逆冤罪であると考えている。冤罪が生まれる構造として、@見込み捜査・別件逮捕、A嘘の自白の強要、B自白の信憑性を裁判所が判断を誤った、C裁判所が鑑定人の権威に盲従する過ちを犯した、ことによって起きるといわれている。
冤罪の理由が私たちの事件には全部あてはまる。


和江さんもまた、「けんかで殴りあったとされたにもかかわらず、哲の腕には殴ったあとも、防御したあとさえなかった。これが私たちの第一歩となった。」「牛久では、子どもたちは、万引きや喫煙をすれば警察や学校に厳しく叱られる。しかし、死亡事件では守ってくれるといって荒れた。事件、事故が多発した。正しい捜査が子どもたちを救うと思う。哲は友だちが大好きだった。わが子のためにも、正しい判決がいただけるよう、最高裁にかけたい。」と、抉られたようなむごたらしい傷がいくつも残る遺体の写真を示して、話した。

10年間という月日を振り返って、后生さんは、「裁判自体は非常に長い。しかし、息子と一緒に闘ってきたので、非常に貴重な時間でもあった。まだ早いが、裁判がすべて終わったときに、心のよりどころをどこにもっていったらいいのか」と話した。
和江さんは、「今まで8回の判決を受け、そのたびに哲は殺され続けてきた。辛いが、どこかで真実が、社会正義は明らかになるという思いが残っている」と、最高裁への希みを口にした。


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ここから、武田の私見。
国相手の裁判は勝てないといわれている。判決を聞いたときに、「やっぱり」という思いが強かった。
しかし、犯罪被害者の権利に照らしてみれば、警察の対応はやはりおかしかったのだという含みが残されたことで少し救われる思いがした。

ただ、社会通念としても、犯罪被害者基本法以前は、捜査や司法が被害者のためにあるという認識はなかったという判断には、「そんなことは絶対ない」と思う。
警察官は国民の安全を守るために、税金が支払われているのだと思っていたし、刑事ドラマをみても、「被害者のために捜査をする」という主人公の熱い思いを、「いや、捜査は被害者のためにあるのではなく、公共の利益のためにある」などと疑問をもったことなどない。

私自身、10年前から多くの被害者や遺族に会ってきて、「被害者になってはじめて、何も権利が与えられていないことを知って愕然とした」という声をいやになるほどたくさん聞いた。遺族であるにもかかわらず、悲しみの最中に、警察官の無神経な言動に深く傷つけられた、最初から容疑者であるかのような扱いを受けた、そのことに謝罪の言葉さえもらえなかったなどなど。

そして、警察庁のホームページ(http://www.npa.go.jp/index.htm)をみれば、平成年の「警察白書」(http://www.npa.go.jp/hakusyo/h07/h070300.html)には、「捜査官の育成」のところで、「犯罪の質的変化、捜査環境の悪化等に適切に対応し、国民の信頼にこたえるち密な捜査を推進するには、常に捜査技術の向上を図るとともに、各種の専門的知識を備えた捜査官を育成するなど刑事警察のプロフェッショナル化を総合的に推進していく必要がある。」としている。しかし、竜ヶ崎警察署の捜査は素人目から見ても、お粗末なものだったし、犯罪者から守ってくれるであろう、犯罪にあったときには適切な捜査をしてくれるであろうという国民の信頼にこたえようという意識は感じられなかった。

また、「被害者やその遺族への適切な応接に努め、その立場に立った捜査活動を行うことは、犯罪捜査への国民協力の確保だけでなく被害者及び遺族の人権保護の観点からも不可欠であり、警察では、このために各種の施策を推進している。事情聴取の際には被害者等の心情を尊重し、各種の相談にも誠意をもって対応して適切な措置をとるとともに、各都道府県警察に告訴専門官を配置するなどして告訴、告発の迅速、的確な処理に努めている。また、犯罪捜査や刑事裁判の過程における、被害者等の孤独感や不安感あるいは精神的負担を解消するために、捜査経過や結果を被害者等に通知する被害者連絡制度を積極的に推進するとともに、暴力団をはじめとする被疑者その他の事件関係者の不穏当な動向に注意を払い、被害者、参考人等が危害を加えられるおそれがある場合には、徹底した警戒、保護活動を行っている。」とここでも、謳われている。

哲くんの事件があった平成10年の「警察白書」http://www.npa.go.jp/hakusyo/h10/h10h.html でも、「警察としては当面、次のような施策を重点的に推進していくこととしている。」として、「被害者対策の推進」を項目としてあげ、
「近年、被害者やその遺族の受ける様々な被害の深刻な実態について、国民の関心が高まるとともに、警察に期待される役割も大きなものとなっている。警察では、被害者に対する情報提供、相談・カウンセリング体制の整備、捜査過程における被害者の負担の軽減等を積極的に進めるとともに、性犯罪・暴力団犯罪等の被害者の特性に応じたきめ細やかな施策の推進、関係機関・団体等との連携の強化等、総合的な被害者対策を一層推進する。」

「第1節 被害者の現状と被害者対策の必要性」(http://www.npa.go.jp/hakusyo/h10/h100201.html)では、
「犯罪によって被害者が受ける被害は
○ 家族を失う、けがをする、財産を奪われるなどの生命、身体、財産上の被害
○ けがの治療費等の負担や失職による収入の減少等の経済的被害
○ 犯罪に遭った際の恐怖、悲しみ等の精神的被害
といった犯罪それ自体から直接に生じる被害と、被害後の刑事手続の過程で新たな精神的ショックを受ける事態に遭遇する、被害に遭ったことを理由に、周囲や報道機関から不利益・不快な取扱いを受けるなどの二次的被害に分けることができる。
 従来、犯罪の被害として一般に認識されてきたのは、生命、身体、財産上の被害や経済的被害であった。しかし、近年、精神的被害や二次的被害が非常に深刻なものであることについての認識が高まり、これらへの対応が強く求められている。」
被害者が受ける精神的被害の深刻さが広く認識されるようになったのは、平成7年3月に発生したいわゆる地下鉄サリン事件の被害者が様々なトラウマやPTSD(コラム1参照)の症状を訴えてからである。」としている。

つまり、哲くんの事件以前の平成7年には、基本法こそまだ生まれていなかったが、警察をはじめとする司法関係者も、社会も、被害者の権利は大切にされるべきだとすでに自覚していたことになる。

警察が、自分たちの方針を社会に向けてアピールする「警察白書」ではっきり述べられているものを、茨城県警だけは例外だったり、知らなかったというのはおかしい。


もし、警察の初動捜査がきちんとしていたとしたら、岡崎さんのこの10年はまるで違ったものになっていたと思う。
私は今でも、現場にいた加害者の仲間が、何も手出しもせず、威圧もせず、ただ遠くで二人の話が終わるのを待っていたとは思わない。そして、学校ですでに動きやすいジャージにわざわざ着替え、周囲にこれから「けんかする」と言っていた加害者が、制服姿のまま加害者とその仲間のあとについて行った哲くんのほうから「けんかができないんだろう」と挑発して、仕方なくけんかに至ったなどとは到底、思えない。

哲くんの遺体の写真も見た。時太山こと斉藤俊(たかし)さん死亡事件の遺族が、遺体を見たときと同じ驚きと疑念を、きっと哲くんの家族も持ったと思う。

また、最近の裁判員制度にからんでは、加害者とその親を訴えた民事裁判高裁の法廷で、哲くんの解剖時の裸の写真が裁判官の間を行き来するとき、ちらちらと傍聴席からも見えたことに(私自身は気づかなかったが)、母親の和江さんがとても心を痛めていたことを繰り返し思い出した。
ぱらばらにされた遺体の写真ももちろんだが、被害者の裸の写真がいろんなひとの目にさらされるということは、遺族にとってどれほどの苦痛であるだろうと思う。まして、犯罪抑止のため、一般人を裁判に参加させることを考えたなどという関係者のコメントをテレビでみたときには、それが本当だとしたら、ほかにもっとやりようがあるだろうに、一般市民をばかにしていると思った。
私は、今の裁判官のひとを裁く能力に疑問を感じて始まったことだと勝手に思い込んでいたから。

死刑になるような犯罪よりむしろ、国家賠償にからんだ裁判こそ、国民の意見がきちんと反映できる仕組みをつくってほしいと思う。


※ 当日、記者会見に配られた資料をいただきました。許可をいただき、サイトにUPさせていただきます。 


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