わたしの雑記帳

2001/10/20 シンポジウム「なくそう!子ども買春、子どもポルノ 〜加害国のわたしたちにできること」


本日、横浜ランドマークタワーで開催された国際子ども権利センターのシンポジウム「なくそう!子ども買春、子どもポルノ 〜加害国のわたしたちにできること」に参加した。
講師は、弁護士の坪井節子さん。(後半部分は、国際子ども権利センター副代表の平野裕二さん。法の解説なので、ここでは割愛)
坪井さんは、東京国分寺市の中学校で体育授業中に事故死した戸塚大地くんの裁判(940608)の原告側弁護士のひとりでもある。

坪井さんら弁護団が、海外の子どもの買春に関わり始めたのは5年前。日本の子どもの人権だけに関わっていればいいのだろうという、疑問からスタートしたという。
最初の事件は1991年、「小児科医」という触れ込みの日本人Mがフィリピンで買春容疑で逮捕された事件だった。条文では、海外での性犯罪も日本の法律で処罰することができることになっているが、実際には今まで1例もなかったという。

子どもたちを救済するための告訴をしようと思ったとき、まずは1人の子どもを救えるかどうか、に挑戦しようとした。被害者は、9歳と11歳の姉妹と、6人の少年だった。
子どもたちはそれぞれ性的被害を受けた子どもたちのための保護施設に収容されていた。
被害を受けた11歳の少女に弁護団は会いに行った。そこで、「自分たちにできることはないか?」と尋ねて、「何もありません」と言われる。「施しはいらない」という。そのプライドの高さに衝撃を受けたという。
お金で解決しにきたわけでないことを話し、日本で加害者を強姦罪で起訴するために来たことを伝えると、「それなら、あの男を死刑にしてほしい。それがだめなら、一生刑務所から出られないようにしてほしい」と言ったという。
結局、この事件はフィリピンで、少年6人に対する買春罪で、42年の懲役刑が決まった。
ただし、その前に9歳の妹の裁判では、Mは無罪になった。わずか9歳の少女では、法廷で大人たちからの反対尋問にさらされて、きちんと答えられなかった。そのため、少女の証言は信用できないとして、棄却された。

別のフィリピンの少女の監禁強姦事件も悲惨なものだった。被害者は全部で6人。日本人のIは、マニラに自宅を持ち、そこに見張りを立てて、少女たちを1〜2週間ものあいだ監禁した。
6人中5人は結局、加害者が金を払って示談になった。告訴したのは13歳の少女1人。
初めての日本人逮捕の事件に、マスコミは沸き立ち、被害者の少女の顔や名前を大々的に報じた。少女の家は中流家庭で、買春ではなく、ディスコで遊んでいるところを騙され、連れ込まれて被害にあった。少女は学校で、地域でいじめにあう。転校してもついて回った。結局、家から1歩も外へ出られなくなったという。3年ものあいだ、少女は家から出られない状態となった。
13歳だった少女は、「妖精」と呼ばれるほど美しかったという。それが、美しいからこそ、被害になったという思いから過食に走り、その後は太って面影もなくなるほどになってしまったという。
しかも、家には脅迫メールや電話が押し寄せ、父親は外出時、銃で狙われたこともあるという。被害者側の弁護士は加害者から車を買い与えられて買収された。父母は会社を辞めさせられ、父親は海外に出稼ぎに出なければならなくなった。結局、一家は告訴を取り下げざるをえなかった。そして、何の補償も支援もないまま放置された。
弁護団は、日本での告訴を勧めてみたが、告訴をした時の状況を思い出すと、怖くてできないという。
それでも、少女の母親は、「この世にもう正義はないかと思っていました。でも、あなたたちに会えてよかった。」と言ったという。弁護団は、フィリピンで被害者を守りきることの困難さを考えると、告訴の無理強いはできなかったという。

日本での告訴にまで踏み切った事件は、1996年9月2日、タイで地元の警察官が買春現場に踏み込んで日本人のNを逮捕した事件だった。被害者は11歳の少年。
この事件の背景には、地元の警察の腐敗もあったという。町中で、観光客が当たり前のように児童買春をしているなかで、金を持っていそうな日本人にターゲットを絞って、保釈金をとることを目的とする。
最初から、目的が目的だっただけに、警察の少年から実際には聞き取りもしていないなど、調書もいい加減だった。保釈金を積んで帰国したNを日本で、弁護団が告訴したが、調書が使いものにならない。そこで、弁護団と日本のNGOの費用負担で、少年を日本に呼んだ。性犯罪の被害者、しかも子どもに対して、耐えられないほど細かい内容をしつこく聞く。ホテルの部屋で実況を再現させる。
被疑者は、「シャワーを浴びたいという少年にシャワーを浴びさせてやっただけ」という容疑を否認。裁判官は、子どもの話しを信用できないと判断した。
そこで、タイで少年の買春を仲介した業者を探し出して逮捕。5年から2年6カ月への減刑を取り引きに自白させた。今度は日本の検察官がタイへ飛んだ。時間の経過とともに、さらに子どもの供述は変遷し、一貫性がなくなる。そのことに対して、検事は証言に一貫性がないとして、不起訴決定した。
現地との連携の末の不起訴処分に、日本への不信感まで、植え付けてしまったという。
ただし、弁護団はあきらめない。時効前に民事裁判を準備しているが、一方で、あの少年を再び法廷に立たせ、反対尋問にさらさなければならないことへの苦渋の選択を迫られているという。

これら実例を基に、海外での事件を日本で裁くための、手続き上の難しさや司法の問題点などがあげられた。日本での「子ども買春、子どもポルノ禁止法」にも様々な問題点があることも学んだ。
考えさせられることの多い内容だった。子どもの買春、ポルノ禁止にかかわらず、子どもの人権、被害者の人権にかかわる共通の問題点が見えてくる。

日本の法律には、被害者の立場にたつという視点が決定的に欠けていること。元々、被害者を救済するための法律ではない。だから、尋問の仕方にしても、被害者に対する配慮がない。心の傷がまだ癒えないうちに告訴しなければならないことの過酷さ。
そして、いじめ裁判でも同じく、裁判官は大人のウソはいとも簡単に信じるのに、辛い思いをして、勇気を振り絞って話した子どもの証言内容には、その表現の未熟さもあって、信憑性がないと言う。
厳罰化が必ずしも犯罪の抑止力にはならないという話し。マニュアルにきちんと基準が定められていないと何がポルノかさえ個人判断できない私たちの人権意識の低さと未熟さ。法がきちんと整備されないことの責任の一旦は、私たちの無関心にもあるということ。人権意識と教育の大切さ。性はとても大切な人間の権利であることを子どもたちに教えることの必要性。等々。

そして、子ども買春・ポルノは、虐待の問題とも密接に関係している。子どもを売りに出したのは、貧しい親だったりするからだ。それだけに、子どもの心の傷は深い。親から見捨てられたという思いと、性的搾取。自分自身を価値のないものだと思う。自分のしたことは恥ずかしいこと、自分たちが悪いことをしたと思っている。だから、怒りや悲しみも口にしてはいけないと思っているという。

被害者のためのケア施設で、最初にすることは、「泣いてもいいんだよ」と子どもたちに言うことから始まるという。言われてはじめて、子どもたちは泣いてもいいんだと知る。泣き続けるという。
自分が受け入れられることがわかると語れるようになる。それが、被害者の尊厳の回復。そのプロセスを踏んで冒頭のフィリピンの11歳の少女は人としてのプライドを取り戻した。
彼らはやがて、後から来た被害者の子どもにアドバイスをすることができるようになる。誰かの役に立つ「私」が、生きる自信を与えてくれる。

メキシコのストリートチルドレンの支援施設にしても、フィリピンのこのNGOにしても、豊かな知恵とノウハウを持っている。私たちは、もっともっと学ぶべきことがたくさんあると思う。

戸塚さんが言っていた。子どもを亡くして泣いてばかりいた。最初に相談に行った弁護士さんには、「お母さん、泣いている場合ではないんだよ!」と怒鳴られて、ピタリと涙がとまったという。そして、坪井さんらの弁護団に出会って、そこで改めて泣いてもいいんだよと、泣くことができたという。この人たちなら、わたしたち遺族の気持ちをわかってくれる。辛い闘いのなかでも信頼していけると思ったと、以前に聞かされたことがある。今日の坪井さんの話を聞いて私自身、とても納得がいった。

余談だが、実はプラッサでも、12号の表紙は「おいで 泣いていいんだよ」(プラッサのバックナンバーのページ http://www.jca.apc.org/praca/backno2.html 参照)。泣いている姿があまりに可愛くて友人の子どもを撮った写真を、許諾を得て使わせてもらった。
大人は子どもにすぐに、「泣いちゃいけない」「泣かないで、きちんと話しなさい」などと言う。でも、悲しいときは泣いたっていいじゃない、悔しいことには怒ったっていいじゃない、なぜ、感情を押し殺して生きなければならないの?という思いもあって、この言葉にした。
大人たちも自分の感情を押し殺して生きているうちに、自分がほんとうは何を望んでいるのかさえもわからなくなっている。そして、子どもたちに「苦しい」と言わせず、子どもたちの痛みや苦しみに目をつむってきた。そうしておきながら、亡くなったときには、なぜこうなる前に誰かに助けを求めなかったのかと、再び被害者を責めてさえいる。

改めて思う。これは外国にいる子どもの問題だとか、日本の子どもの問題だとかの線引きなどありはしないと。
2001年12月17日から20日まで、横浜で、「第2回 子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議」が開催される。詳細は、財団法人 日本ユニセフ協会のホームページ http://www.unicef.or.jp にて。
上記、国際子どもの権利センターでも、様々なイベントが計画されている。インフォメーションコーナーでも随時、紹介していきたいと思うが、詳細は同会のホームページ http://www.jca.apc.org/jicrc にて。



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