参議院憲法調査会  衆議院憲法調査会

参議院、衆議院の各憲法調査会の議事録・会議の日程、その他の情報が載っています。

憲法調査会からの報告

―論争の新しいパラダイムをめざして―

大脇 雅子


1、はじめに

 憲法調査会は、国会法の一部改正により147国会の議会制民主主義崩落状況のなかで、1999年7月26日設置が決まった。衆参各院に設置された調査会は、1957年に内閣に設置された憲法調査会と異なり、法案提案権は持たず、憲法を「広範かつ総合的に調査する」ことを目的としている。議院運営委員会は、調査期間は5年を目途とすることを申し合わせ事項としていた。本稿では、調査会の現状を報告することにより、憲法改正への瀬音の速まりを伝えることが出来たら、と思う。

 

2、憲法調査会のこれまで

 調査会のメンバーは、衆議院50名、参議院45名で、調査会のもとに幹事会がある。衆議院のペースに比べて、参議院の調査の進み方はゆっくりしている。衆議院の調査会は、2000年(平成12年)4月20日までは、憲法の制定過程について、現在は、「21世紀の日本のあるべき姿」を巡り、参考人の意見の陳述と討論が行われている。参考人の推薦は、ドント方式による。これまで意見を述べた人達のリストは別表2のとおりである。また参考人の推薦には、会長枠があり、会長指名の参考人は、東京都知事の石原慎太郎氏である。さらに地方公聴会が仙台でもたれた。
 参議院の調査会は、当初から二つの柱をたて、同時進行で動いている。ひとつは、「国民各界各層と語る」、ふたつは、20世紀を振りかえり、21世紀を俯瞰して、「この国のかたち」を議論するというもので、各党推薦の「有識者」を招いている。
 これまで第一の柱としては、学生と語る、GHQの生き残りの証人より聞く,言論界の人と語る、が行われた。これは今後も続く。第二の柱の参考人もふくめて別表3のとおりである。現在は個別問題に入り、「国民主権と国の機構」から取り組むことになった。(その他のテーマは総論、基本的人権、平和主義と安全保障)中央、地方公聴会は開く見通しはない。また外国の憲法事情を調査するため、2000年9月、衆議院はイタリア、ドイツ、スイス、フランスへ、2001年1月、参議院はアメリカへ視察団が派遣された。
 開かれた憲法調査会を目指して、衆参ともにホーム・ページが開設されている。両院ともパブリック・コメントを求めていて、3月末現在衆議院1,056件、参議院372件で余り活発とはいえない。議事録は、衆参のホームページから全文落すことができる。

 

3、憲法調査会から見えてきたもの

 改憲の国民運動起こし

 2001年5月3日が近づいてきて、衆参の調査会は、憲法記念日に、なにをすべきかという議論が起きた。昨年は、衆議院では、自由討議と論文募集をおこない、参議院は、元GHQ関係者を招いて、憲法の制定経過について質疑をした。当初は、憲政記念館で、憲法学者をコーデネーターに、傍聴者を300人ぐらいを予定し、議論をオープンにするという案が、与党側から出たが、調査会がシンポジュウムを開くのはどうか、院外には憲法51条の議員の発言、表決の免責特権が適用されないからと委員会室に逆戻り。このとき小委員会で、民主党の江田幹事が、「憲法記念日ですから誕生日を祝うものでしょうね」と発言したところ、「いやあ、法事かもしれませんなあ」という発言が与党側からあり、大笑いと苦笑いが交錯して、わたしは頬が硬直するような緊張を覚えた。結局一番大きい委員会室を使い、傍聴席を200に増やし、村上会長自らが司会を担当し、参考人に対し刺激的な質疑を展開した。今年の5月の憲法調査会は、衆議院は4月26日に委員の意見交換を、参議院はITを充実して、意見を広く集めることになった。党首討論や中央公聴会のアイデアは、各党の参議院選挙前の「諸般の事情」と言うことで、ボツとなった。
 何故憲法調査会が、こうした国民運動体のような動きをするのか。中曽根康弘委員の発言をみてみよう。
  「明治憲法は天皇が下された欽定憲法であり、今の憲法は、占領中、占領軍の有力な指導、影響でできた占領憲法だ。われわれは初めて、国民憲法をみんなでつくろう」(第147回国会衆議院憲法調査会議録第9号 平成12年5月11日10頁)そして彼は、著書「21世紀日本の国家戦略」の中で、調査会のあり方について「論憲は3年で終える。4年目から各政党が改正試案を出して、それを中心に調査会で論戦すべきだ。それまでに国民にも改正試案を出してもらう。経団連も商工会議所も知事会、市町村議会長会も労働組合も、あるいは学者も、みな憲法改正試案をだすべきです。・・・・・たとえば、インターネットで試案を公募するとか、公聴会を開いたり、各政党が全国行脚して意見を聞き、あるいは演説会を開いて盛り上げる行動が大事になってきます。そして5年目から具体的行動に入り、6年目には改正を完了する。平成18年(2006年)までに憲法改正を終わるような目算でやったらどうかと、中山、村上両氏には伝えました。」と書いている(164頁)。村上正邦氏が会長時代に書いた「憲法論議の私的考察」という冊子にも、「調査会の活動を国民の無関心層まで届くようにPRするためには、公聴会の公述人や調査会における参考人の選定、調査会活動のパフォーマンス性の向上、定期的な活動報告の演出などについても工夫する必要があろう.場合によっては、PRの専門家からアドバイスを受けてもよいのではないか」とある。おおがかりな改憲の国民運動起こしが目論まれていることに注目したい。

 憲法改正手続きの改正論

 改正手続きが厳しすぎるから、手続き規定をまず改正したらどうかと、まったく法的にどうかと思う意見が述べられるようになった。改正手続きは、憲法に内在する意思であり、手続きの改正だけを、抽象的に論じることは、脱法行為にほかならない、と解する。石原慎太郎知事にいたっては、衆議院の調査会に参考人として出席し、「現行憲法を歴史的に否定することから始めよ」と言い、「否定するには、内閣不信任案と同じなんで、過半数があれば通るのです・・・・改正手続きに乗ることはない。」(第150回国会衆議院憲法調査会議録第5号平成12年11月30日4頁)と発言している。これこそクーデターでなくてなんだろうか?憲法を遵守する義務を持つ知事が、国会でこんな法治無視の発言をしていいのだろうか。
 憲法改正手続きは、衆参両院の各総議員の3分の2の賛成と国民投票において過半数の賛成を要する。さる1月、アメリカの憲法事情の視察に参加したが、興味深かったのは、アメリカの憲法改正には、上院と下院の3分の2の議員の賛成と州の4分の3の賛成を要件としているが、時代に対応した法の適用は、個別法や最高裁判所の判例を充実することで対処されていた。

 草の根保守主義の組織化

  新しい教科書を作る会会長西尾幹二氏は、参議院憲法調査会の参考人として意見を述べたが、質疑のなかのやり取りは、いまも興味をひく。椎名泰夫氏の質問にたいして、「日本の現行憲法は我が日本の伝統文化というものの体質に合っていない」と言い、憲法改正については、集団自衛権にかかわるような部分を半年、一年のあいだに取りかえていただきたいとのべたあと、「フェミニズムがばっこし、人権の声が盛んで、教育者あるいは政界の大半にまで、その汚染が及んでいる現実を考えますと、わたくしは、いまのままで憲法が改正されますと、とんでもない別の権利義務だけが非常に要求されるような憲法改正がおこなわれるのではないか」(第147回国会参議院憲法調査会議録第4号平成12年3月22日8頁)憂慮するとつけ加えた。衝撃をうけた女性議員のひとりが、貴方にとってフェミニズムはなにかと問いかけ、「共同体意識を壊している意識」と答えた。正村公宏氏は、あえて地球市民(同上議録11頁)を唱え、加藤周一氏は、日本の憲法には「世論調査の結果はどうあっても、否定できない価値がある」(第150回国会参議院憲法調査会議録第2号平成12年11月27日23頁)と述べ、「基本的価値、基本的人権、国民主権と民主主義、平和主義である」と力説された。

 瀬を速める審議

 さらに中曽根氏が「6年という長いスパンも、国民に切迫感や強迫感を与えないように時間を取っているのであって、実際に動き始めたら、もっと時間を切り上げて改正案を出して国会で論議するほうがよいし、おそらくそうなるのではないか。」(前掲書164頁)と予言している様に、審議の流れが速くなっている。衆議院の幹事会で、平成13年三月1日付けの「上杉参議院憲法調査会会長との懇談結果」というメモが配布された。これには、憲法調査会の中間報告の作成や憲法記念行事について、衆参が足並みをそろえるような記載があって問題となった。しかし本来別々の議院が、分れてチェックすることに意義があるのに、「合同」で何かを行うのは前例がない。勇み足では済まされない本質的問題を含んでいた、と思う。中曽根氏は、「憲法調査会は、提案権は無くとも、法案作成権はある」と言い出している。(第147回国会衆議院憲法調査会議録第8号平成12年4月27日14頁)。議運できめた5年の期間は、また議運で変えればよいという意見も出ていることに留意したい。


4、これからの憲法調査会の論争に求められているもの

 近代憲法とは何かを踏まえる

  一年有余を経て、どうも議論の前提で踏まえるべき重要な認識が欠けているのではないかと、反省している。まず、「憲法」とはどのような性格の法律なのか、つまり基本的考え方に共通認識がない。今は近代憲法を論じているのであって、聖徳太子の憲法17条とか、明治維新のときの5か条のご誓文を論じているのではない。憲法は、わたしたち市民の生存の根拠である自由と平等を基礎とした基本的人権を保障している。国家の名においても、多数決で制限できない個人の尊厳の中身である。国民主権は、さまざまの国の機構を定めているが、基本的に国権の発動のルールと制限を決めたもので、ルール違反は許されない。だからおのずと枠というか限界がある。「国のかたち」や「在り方」は、その背景と総体としての帰結にすぎない。わたし達は、議員として、憲法遵守義務を負っていることを忘れてはならないのではないか。

 憲法の果たした役割と違憲判決の検証を

 憲法は50年余り実施されて来て、市民の生活の次元では、非軍事の文化を育ててきた。経済の発展の基礎も不戦の憲法が支えてきたと思う。非核三原則や武器輸出禁止の原則も国是としてきた。 憲法の前文と9条が紡いだ「平和的生存権」の普遍的価値は、21世紀の人権として、あまねく、世界の平和運動の鍵である。果たした役割については、綿密な事実をふまえた論証が必要であろう。カリフォルニア州オークランド市長のジェリー・ブラウン氏に会った。彼は、日本の憲法について意見を求められて、次のように答えた。 「平和にコミットしている日本憲法は、21世紀において、戦略的重要性を持っている、と思う。平和の創造的な政策をもって、近隣、とりわけアジアの国々と友好関係をむすぶべきである。核の時代に一国ぐらい考え抜かれた憲法をもつ国があってもいい。アメリカにもどんどん意見を言って欲しい」  また違憲判決や戦後補償を巡る「立法責任」を指摘する数々に判例に対しても、わたしたち立法者は誠実に憲法体系を実現し、また回復するための活動を行ってきたのか、自ら問わなければならない。

 憲法と国連憲章・国際条約を見る

 国連憲章と国際条約は、国と国の協定という枠をとっくに踏み出していて、人権を国際的に守って行こうという時代になった。難民や移住労働者の問題も避けて通れない。国際人権規約や女子差別撤廃条約の委員会やILOの条約勧告委員会から、日本へ多くの勧告が出されている。憲法論議にも、すべての次元で国際的視野が求められている。

 改憲ムードと「群れない」議員の自覚的活動

 確かに、「憲法を変えなければ」というムードが広がりつつある。護憲、護憲と叫んでいるのは、守旧派で、社民党も時代に遅れている、といわれる。しかしいつも選挙のスローガンは、「頑固に平和」なのだが、もっとも直接的な護憲の実践は、今日あったことに対し、憲法の視点から,臆することなく発言し、現実と憲法の乖離を一歩でも憲法側にひきよせていくことであろう。みんなで群れる、気分で動くという日本人の国民性のなかで、スマートな改憲論、常識のように語られる「人道的介入」「国際貢献」「邦人救出」に対して、議員として、どのように脱軍事化と民生のシステムについて確信と自信をもって語り、具体的政策の次元で相手を説得できるのか。これまでの憲法学の蓄積に学びつつ、「51パーセントのしなやかな平和論」と護憲を結ぶ、深い理論的営為が必要となった、と思う。 世界の草の根の平和運動と連り、その実践から勇気と確信を得る――そんな自覚的活動が求められているとしみじみ思う今日此頃である。

(「軍縮問題資料」2001年6月号より抜粋,加筆訂正)


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