声明


我々,新宿連絡会は新宿駅周辺で生活する野宿者の当事者団体として,94 年 8 月の結成以来,一貫して行政との話し合いを求めてきた.しかし東京都は昨 年 1 月の「ダンボール小屋強制撤去」の際に顕著であったように我々の話し 合い要求を拒否し続け,これまで一方的な排除・収容政策を取り続けてきた.

しかし,新宿の野宿の仲間の粘り強い闘いはついに東京都を追い詰め,直接対 話への道を切り開いた.今回,東京都福祉局は初めて新宿連絡会を当事者団体 と認め, 我々が提出した 9 月 12 日付「要請書」に基づいて 10 月 13 日,「新 宿駅西口地下広場路上生活者の自立支援事業」に関する当該野宿者への「説明 会」を開催した.

「説明会」は西新宿の新宿区自転車置き場前において行なわれた 「自立支援事業」のための「街頭相談」 に先だって開催され,約 50 名の仲間がこれに参加した.福祉局保護課の加川 課長の説明の後,参加した仲間が質問するという形式で会は進み,予定の 30 分で会は円滑に終了した.その後の「街頭相談」では説明を聞いて関心を持っ た 22 人の仲間が相談を受け,そのうち 16 人が都内 2ケ所の民間宿泊所に入 所した.(他に電話相談で 2 人が入所.入所定員は 25 人.)

行政がある事業を行なうにあたって対策の「対象」とされる人々に事前に説明 を行ない,説明を聞いたひとりひとりが対策を活用するかどうか判断する.こ の当たり前のことが行なわれて来なかったのが都の「路上生活者対策」の歴史 である.東京都にとってこれまで野宿者は,自己決定権を持つ「主体」ではな く,排除や収容の一方的な「対象」でしかなかった.今回,限定された時間な がらも都が野宿者の存在を認めた上で直接対話を行なったことは,野宿者の長 年の闘いの成果であることを我々はまず確認したい.

我々は昨年来,東京都と 23 区が進めてきた「自立支援センター」構想を批判 し,今年になって都が単独で実施しようとした北新宿でのセンター暫定実施, 及び今回の縮小された「自立支援事業」に対しては,先の 8 月 25 日の「第一回街頭相 談」の事態に見られるよう,具体的に計画を阻止する闘いを進めてきた.

我々の批判・反対の観点は以下の通りである.

こうした観点から我々は「強制排除阻止!収容プラン解体!」のスローガンの もと,4 月以降,連日連夜の闘いを続けてきた.そして都との直接対話の実現 という大きな成果をかちとったのである.

また我々は批判の第一点,第二点に関しても改善をかちとった.今回の「事業 概要」に強制排除を意味する「環境整備」という言葉はなく,加川課長は「説 明会」の場で「今回の事業は排除を目的としない」と明言した.また就労対策 の問題にしても,我々は「説明会」の場で,就職活動の便宜のための住民票の 設置,労働経済局による業者への指導等,を都側に約束させ,高齢などの理由 で就職先が見つからない仲間に対しても路上に放り出すことはせず,生活保護 を適用させることを確認した.入所する仲間が不利益を被ることのないよう事 業内容を大幅に変更させたのである.

だが改善されたとは言え,今回の事業がその成立からしていびつな経緯をたどっ てきたことには変わりない.都と 23 区が 96 年 7 月に発表した「路上生活 者対策報告書」では,「路上生活者対策」の「施策の体系や主体の形成がまだ 不十分である」ため「関係機関がきめ細やかに連絡・調整を行ないつつ,事業 を実施」する,とされてきた.にもかかわらず都区の協議が不調に終わったた め,今回の「自立支援事業」は都の単独事業となっている.これでは生活保護 の適用などに関して関係諸機関の協力が得られるのか疑問であり,センター本 格実施の先行きも不透明である.また,我々が従来から主張してきた「生活保 護適用の拡大」,「仲間が住める仮設住宅の設置」,「50 代,60 代でもでき る軽作業労働の保障」という政策要求に照らしてみても,今回の事業は生活保 護の面で一定の前進があるものの,全体的には野宿者の本来の希望からはほど 遠いと言わざるを得ない.

しかし我々は現実の仲間の利益を最優先させる立場から,今回の事業を仲間に とって活用しうる余地があるものと捉え,計画の実施自体に反対する立場を変 更した.今後は入所した仲間と残った仲間が分断されないよう,入所した仲間 と連携しながら,計画の推移を注視していきたい.もし施設内で人権侵害行為 が行なわれたり,「説明会」における都の約束が破られるようなことがあれば, 我々は必ずや反撃を行なっていく.東京都福祉局には多数の仲間の前で発した 自らの言葉の重みを認識していただくよう,強く求めたい.

重かった対話の扉はやっと開かれた.だがこれはほんの第一歩である.東京都 建設局と新宿署は依然として,西口地下広場において「不法占拠者への警告」 と称する場内放送を一日 4 回も繰り返している.こうした「排除派」とも言 える勢力の目論みを打ち砕き,我々は我々の政策要求実現をめざして一歩一歩, 闘いを進めていく.開かれた扉を閉ざすことはもう誰にもできない.

1997 年 10 月 15 日

新宿野宿労働者の生活・就労保障を求める連絡会議

(新宿連絡会)