−8月22日 関電交渉報告−
大飯3号機の原子炉容器出口管台で深さ20mmのひび割れ
国の技術基準を割り込んでいても「違法かどうか決めるのは国」
「2001年に大飯3号で傷は確認されなかった」−他の原発も即刻検査すべき


 8月22日、グリーン・アクションと共同で関西電力と交渉を行った。中之島のダイビル1階の会議室で午後6時から2時間半。市民側からは約30名が参加、関電は広報部員2名が出席した。主として大飯3号の原子炉容器出口管台で見つかった応力腐食割れに関して、7月28日提出の質問書8月12日の追加質問に基づいて交渉した。また、フランスで起こっているアレバの子会社によるウラン溶液流出事故についても交渉を行った。さらに、関電の原発耐震性評価の「中間報告」において、活断層の連動性を否定していることについて追及した。

1.大飯3号機の原子炉容器出口管台溶接部(インコネル600製)での応力腐食割れについて
大飯3号機の原子炉容器出口管台で深さ20mmのひび割れ

 大飯3号機の第13回定期検査中に、原子炉容器のAループ出口管台溶接部でひび割れが確認された(関電プレスリリース4月17日)。同管台はニッケル600基合金(インコネル600)を用いている部位であり、インコネル600の応力腐食割れの予防処置としてウォータージェット・ピーニングを実施するための事前の検査で見つかったものである。当初関電は、「超音波探傷試験(UT)を行った結果、傷の深さが評価できない非常に浅いものと考えられる」と発表。「ECT(渦電流探傷検査)で有意な信号指示が確認されなくなるまで研削を行」うとした。その後、研削作業を進めたが、8月14日の時点で深さ15.5mmまで削っても、依然として目視で傷が確認できる状態であった(8月15日プレスリリース)。配管の厚さは74.6mmで、国の技術基準で決められた必要肉厚は70mmである。つまり関電は、技術基準を大幅に割り込む違法状態で運転を続けていたことになる。圧力容器に直接つながる大口径配管でこのように深い傷の存在を見過ごしてきた関電の安全軽視は重大な問題である。
 交渉後、27日に関電は、20.3mmまで進んだ所で傷は消えたと公表した(念のため21mmまで研削)(8月27日プレスリリース)。

国の技術基準を大幅に割り込んでいても「違法かどうかを決めるのは国」「われわれは判断しない」
 電気事業法の第39条では、「技術基準に適合するように維持しなければならない」と定められている。大飯3号では、少なくとも数年間、技術基準である必要肉厚(70mm )を割り込んで運転していたことになる。交渉では、「国の技術基準を割り込んで運転を続けていたのは違法状態だったということか」と確認を求めた。これに対して関電は、「われわれは(国から)違法とは言われていない」とし、「ジャッジするのはあくまでも国。われわれは判断しない」と答えた。「違法と認めないのか」と追及すると、「傷を知りながら運転していたわけではない」と繰り返した。あたかも故意でなければ違法性はないかのごとき主張である。責任逃れに終始する関電に対して、参加者からは「いつも、コンプライアンス(法令遵守)、コンプライアンスと言っているじゃないか」と声が挙がった。

傷に合わせて必要肉厚を変更−関電としても「初めてのこと」
 関電は傷の周辺を削る作業を4月22日から開始した。しかし、深さ3.6mmまで研削しても目視で傷が確認できる状態であった(プレスリリース5月16日)。3.6mm削った段階で配管の厚さは71mmとなり、これ以上削れば必要肉厚70mmを割り込むことになる。そこで関電は、5月13日に必要肉厚を70mmから全周64mmに変更する工事計画認可申請書を保安院に提出した。その後、さらに深さ10.5mm(管厚64.1mm)まで研削したが、目視で傷が確認できる状態であった。7月30日、関電は再び、傷のある部分について必要厚さを53mmとし、それ以外の部分について70mmに戻すように工事計画認可申請書を変更(プレスリリース8月8日)。研削作業を再開した。傷の深さに合わせて必要肉厚を変更するなど、前代未聞だ。しかも、1回目は全周の必要肉厚を薄くしたが、2回目は傷の部分だけを薄くし、それ以外については元の必要肉厚に戻すなどという奇妙なやり方をしている。
 交渉ではまず、傷に合わせて必要肉厚を変更したことが、これまでにあるのかと聞いた。関電は、「初めてのこと」と認めた。さらに、「そのような手法が許されるのか」と追及した。これに対して関電は、「重要なのはあくまでも内圧に耐えられるかどうかだ。必要肉厚は必ずしもこれを守らなければならないという基準ではない」などと答えた。

傷以外は元の肉厚に戻すという2回目の変更−「傷以外の部分は削っていないから」を繰り返すだけ
 次に、2回目の工事届けでは、傷以外の部分を70mmに戻している理由を聞いた。関電は、1回目の届けは全周64mmにしているがこれは計算上だけのことで、実際には傷の部分だけを削っている。「実際には傷以外の部分は削っていなのだから70mmに戻したのだ」と答えた。(なお、管台にアクセスできるように炉内構造物は取り出し、水を満たした状態で上から工具を入れ、遠隔操作で切削を進めているとのことだった)。しかし、これでは話が通らない。関電の論理に従えば、1回目の変更届けから、傷の部分だけを64mm、その他は70mmにしておけば良かったということになる。このような矛盾があることを指摘し、1回目は全周で、2回目でなぜ傷以外の部分を70mmに戻したのか、再度追及した。しかし関電は、「傷以外の部分は削っていないから」と答にならない答を繰り返すだけだった。

運転開始から10年で3mmの傷ができたと仮定、その後7年間でさらに14mm傷が進んだと計算
 そもそもインコネル600での応力腐食割れは1990年以降、国内外で多発している。同じ大飯3号機では、すでに2004年の段階で、インコネル600を使っている原子炉容器上蓋にある制御棒駆動装置の管台で貫通割れが見つかっている。2002年の段階で関電は、温度、残留応力、時間、圧力といったパラメータから計算したとして、「今後20万時間(約20年間)、上蓋で傷は発生しない」と言っていた。しかし現実には、それからわずか2年で貫通亀裂に至った。
 同じように今回の質問書(7月28日)では、原子炉容器の出口管台の傷について、傷の進展をどのように推測していたのか聞いている。これについて関電は、「仮に2001年の段階で3mmの傷が入っていると仮定した場合、現在までに深さ17mmくらいに進展すると評価している」と答えた。大飯3号は1991年運転開始である。関電の解析は、運転開始から10年で3mmの傷ができたという仮定を置き、その後7年間でさらに14mm傷が進んだというものである(平均で年間2mm)。10年ですでに3mmの傷が生じていたことが解析の初期条件になっているが、2002年には「傷の発生まで20万時間」としていたのである。2002年の解析と同様に、初期の傷の発生からその後の進展までの全過程について、解析をおこない計算過程を明らかにすべきだ。

UTは「5mm」の傷なら判定できるという関電の主張は破綻
 今回の事態は、UTによる傷の検査についても大きな問題を投げかけている。7月28日付の質問書では、「UTでは傷の深さがどれくらいなら確認できるの」か聞いている。これに対して関電は、「これまでの蒸気発生器の測定実績からUTのサイジング(傷の深さの判定)は5mm」と答えた。ところが、関電は傷発見直後、「超音波探傷試験(UT)を行った結果、傷の深さが評価できない非常に浅いものと考えられる」と評価していた。5mmなら判定できるという関電主張自体、崩れているのである。この点を追及すると関電は、「深さは確かに評価できなかったが、傷があるかないかはUTで分かる」とし、「傷の有無は分かるのだから問題ない」という主旨の発言を繰り返した。
 また関電は、「今回、深さ測定ができなかった原因については調査中」とし、「UT精度の向上は今後の課題とし取り組む」とした。市民側は、「今後取り組むというが、スケジュールを具体的に説明して欲しい」と聞いた。しかし関電は「現段階では確かなことは答えられない」という。関電はまず、今回の傷を見逃した原因を明らかにすべきである。

2001年には傷がないとした大飯3号−大飯3号以外の原発も即刻検査すべき
 7月28日付の質問書では、大飯3号機以外の各原発について同じ箇所(原子炉容器出口管台)の検査履歴と検査予定を示すように求めている。これに対して関電は、1ヶ月前に質問書を出しているにもかかわらず、交渉では、「平成18年以降順次・・・」といつ検査したのかはっきりしない答でごまかした。結局その場では、具体的な検査時期については「わからない。別途連絡する」とし、後日回答となった。なお、今回問題となった大飯3号機については、「2001年の第8回定検でUTを実施したが、その時点では傷は確認されなかった」という。
交渉後、8月27日に関電から電話回答があった(下表)。これを見ると、高浜4号機について、Aループの管台を検査したのは96年である、検査から12年経っている。それ以外の原発についても前回検査から相当時間が経過している。2001年に傷がないとしていた大飯3号で深いひび割れは見つかったのである。それ以外の原発もすぐに検査すべきである。高浜4号機は、8月23日から第18回定検に入っており、原子炉容器管台でUTを実施することになっているが、同じ場所で傷が見つかる可能性がある。[高浜4号の今定検で検査方針。関電プレス8月21日より]


インコネル600問題の教訓を無視してきた関電

 インコネル600を使用した部分において、予想を超える速度で亀裂が進展することは上蓋の時点ですでに明らかだった。上蓋で貫通割れが見つかった時点で、出口管台も検査していればここまで傷が進展する前に見つけることができたはずである。しかも、その後2007年に入って、蒸気発生器の管台で続々と同じひび割れは見つかっている。また、「現在までに深さ17mmまで進展」と解析できるのであれば、もっと以前の段階でその予測に基づいて検査を行うべきではなかったのか。
 しかし関電は、大飯3号機について、2001年に検査したっきりでこれまで検査を行ってこなかった。関電は、「予防保全で見つかったのだから問題ない」との姿勢であるが、どこが「予防」なのか。これまでの教訓をまったく無視し、検査を怠りひび割れを放置してきた関電の安全軽視の姿勢が厳しく批判されるべきである。

肉盛溶接で切り抜けようとする関電−大飯3号機は運転停止にすべき
 8月16日の毎日新聞は「関電は削り落とした部分を補うように新しい材質を張りつける『肉盛溶接』を検討している。溶接には原子炉容器内の機器を取り出し、冷却水も抜く大規模な準備工事が必要で国内では例がないため慎重に検討している」と報じている。本来、管台自体を取り替える必要があるはずだ。しかし、当該の管台は事実上原子炉容器の一部であるため、取り替えは不可能である。だから肉盛溶接という窮余の策で切り抜けようというのだ。これに対して関電は「今後どうするかはまったく決めていない。プレスでこのようなことを発表したことはない」と毎日新聞の報道を否定した。市民側は、「本当にロボットで補修ができるのか。補修や取り替えで多くの労働者が被ばくする。ここまで深刻な傷が見つかった大飯3号機については、このまま止めて欲しい」と強く要求した。

2.MOX燃料製造契約を結んでいる仏アレバNP(AREVA NP)社について
アレバ子会社によるウラン溶液流出事故−アレバ本社の「責任関係については答える立場にない」

 関電はアレバ社とMOX燃料製造契約を結んでいるが、7月に入ってアレバ社の子会社が、たて続けにウラン溶液の流出事故という重大事故を起こしている。7月7日には、トリカスタン核施設でウラン溶液が流出する事故が起こった。周辺の川が汚染され、地下水の使用や川での水泳等が禁止された。また18日には、ドローム県の核燃料工場で配管が破損しウラン数百グラムを含む核廃棄物が周囲に漏えいしたと、フランス原子力安全庁が発表している。これらの流出事故を起こしたのはアレバの子会社である。
 質問書(7月28日)では、親会社であるアレバ社にも責任があるという認識を持っているかどうかをただした。関電は、「責任関係については答える立場にない」とし、回答を拒否した。さらに関電は、「今回の事態とMOX製造契約を結んでいるメロックス工場の品質保証とは関係がない」と主張した。フランスでは、アレバ社本体の責任が問題にされ、アレバの最高責任者が公の場に出てきて直接謝罪せざるをえない状況となっている。「責任関係は分からない」「メロックス工場以外は関係がない」などという関電の無責任な態度は許されない。

3.関電の原発耐震性評価の「中間報告」における活断層評価について
「きちんと調査したので5キロルールで評価する必要性はない」と頑なに断層の連動を否定

 関電が出した原発耐震性評価の「中間報告書」に対して、これを審査している「総合資源エネルギー調査会の『地震・津波、地質・地盤合同ワーキンググループ』のCサブグループ」では、各委員から活断層調査結果について異議が出ている。B断層と野坂断層の連動だけでなく、「大陸棚外縁断層」もつながって連動する可能性等が7月3日の委員会で指摘されている。
 質問書(7月28日)では、委員会で数々出されている異議や、推本の評価を受け、断層の連動性を考慮すべきではないかと聞いている。これに対して関電は、「詳細な地質調査を実施した結果、連動しない」という結果を得ているのだと強調し、「5キロルールで評価しなければならないということはない。そのような必要性はない」と主張した。とにかくちゃんと調査しているのだから、連動性は認めないというのが関電の姿勢である。
 また、「中間報告」では「変動地形学的視点に基づいた地形調査」を実施したとしているので、その内容を聞いた。変動地形学的な調査はリニアメント調査とはまったく異なる。対立的な関係にあるはずだ。にもかかわらず関電は、何かしらリニアメント調査も変動地形学の重要な構成要素であるかのようなニュアンスの発言を行い、「段丘面の傾きが云々」とまとまりのない回答をおこなった。中間報告のどの部分が「変動地形学」なのか具体的には挙げられなかったので後日回答となった。
 渡辺満久氏(東洋大教授)や中田高氏(広島工大教授)、鈴木康弘氏(名古屋大教授)など著名な変動地形学の専門家達はこぞって、国と電力会社の活断層隠しや過小評価を批判している。関電は、変動地形学的な評価、分析を一体どのような専門家に依頼したのだろうか。この点について後日電話で確認したが、「地質や地形の先生方に適宜相談しているが、内容や名前は言えない」との回答だった。

(08/09/01UP)