2002年6月19日高橋徹、記

出生前診断

(問)生まれてこなかった方が良かった人生ってあるのでしょうか?

現代の優生学〜出生前診断と中絶

 出生にかかわる医療技術が進んでくると、妊娠中の検査(出生前診断)で産まれてくる子どもの持つ先天異常を見極めることが、先天異常の種類によっては出来るようになってきました。そうすると産まれる前に、生むかどうかの判断が出来るということになります。出生前診断は異常があれば中絶することが前提です。これは消極的優生学と全く同じ考え方です。

 病気で苦しむ人を何とか救いたい・・・素朴な思いが医学を発達させてきたはずです。医学はたくさんの病と闘い、成果を上げてきました。しかし優生学の論理は、病を治すことを放棄し、患者の存在を否定することで病をなくそうという考えです。これは医の敗北ではないでしょうか?

生徒達の反応は?

 さて、優生学の授業はいよいよ後半に入ります。話がこの出生前診断のテーマになってくると、生徒達の関心はピークにさしかかります。複雑な思いが錯綜としてきます。生徒達の中には、妊娠や中絶を経験しているものもいるし、家族や身近に障害者をかかえているものもいます。また自分の将来の身に置き換えて、真剣に考え出す者もいます。様々な経験や置かれている環境、あるいは障害者に対して、すでに持っている嫌悪感・差別意識などと葛藤が始まるのです。理屈では分かっても、冷静さを失ってくる者もいます。

 したがって19世紀からの古典的優生学のたどった歴史と、その評価をきちんと整理した上で、このテーマに入っていくことに注意を払います。

 休み時間の生徒どうしの会話から。

「わたしはやっぱり検査をして、異常が分かったら中絶してしまうわ。」

「いま生きている障害者に、おまえは生まれてくるべきでなかった、と言うのと同じ事なんだよね。」

「でも、乙武くんってかっこいいよね。」

 乙武洋匡(おとたけひろただ)さんはご存じのように「五体不満足」(講談社)の筆者で、テレビ等の活躍から、生徒達の間でも人気です。

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