沖縄県収用委員 第4回会審理記録

中村弁護士(土地所有者代理人)


中村弁護士

 地主代理人の中村です。わたしは米軍用地特別措置法の改悪について意見を述べたいと思います。私は地主の代理人として、法律家として、この審理に参加しております。この審理に参加している者として、まず第一に、言っておかなければならないのは、今回特措法の改悪が暴挙であるということです。審理の当事者である国が審理の途中で勝手にルールを変えてしまった。しかも元々のルールをつくっていたのも国です。一度自分で作っていた法律を、自分にとって都合が悪くなったからといって、途中で変えてしまう、こういう暴挙を行ったわけです。審理に参加をしている者として、法律家として、このことは厳しく糾弾しなければならないと思います。

 わたしたちは、特措法の改悪の前から、今回の土地収用の手続きの違法性・違憲性につきまして、堂々と正面から追及して参りました。これに対して、国は、この公開審理の場では、「審理になじまない」、という答弁を繰り返すことしかできませんでした。公開の席では、責任ある答弁をすることができなかったわけです。そういう態度の裏側で、今回の特措法の改悪を秘密のうちに準備して、国会でたった10日間の審理によって、成立させてしまったわけです。

 この公開審理で自らが答弁不能に陥ったからといって、ルール自体を自分の都合のいいように変えてしまう。このような暴挙が許されていいわけがありません。私たち反戦地主弁護団は、このことを絶対に許すことはできません。憲法に違反する特措法改悪によって生まれた暫定使用宣言は法律的には違憲無効のものであります。現在もまだ不法占拠は続いているわけであります。このような状態の中で、今日も公開審理が行われています。私たちはすべての土地について却下の裁決を勝ち取るまで、闘い続ける決意であります。収用委員会も特措法の改悪は憲法違反であるという憲法判断をはっきりと示して、今回審理しているすべての土地について却下の裁決をされるように要請いたします。

 次に具体的にどのような点が憲法違反であるか、それについて意見を申し上げます。

 今回の特措法改悪を論じる前に、そもそもこの特別措置法自体が憲法9条に違反する法律です。このことは、特措法が存在しているという事自体が自ら証明しています。日本国憲法のもとでは、土地を強制的に収用するための法律として土地収用法があります。しかし、土地収用法は、軍事目的のための強制収用を許しておりません。すなわち、日本国憲法の平和主義が貫徹されているわけです。

 これに対して、日米安保条約のもとで、米軍用地を強制的に収用するために作られたのが特別措置法です。これは日本国憲法のもとでは許されない軍事目的の土地収用を、日米安保条約上の要請から認めたものであります。これによって、土地の強制収用の場面で、日本国憲法9条を貫徹した土地収用法と日本国憲法9条に違反する特別措置法という矛盾する法律が存在していることになります。 このことは、日本に日本国憲法と日米安保条約という矛盾する二つの法体系があることを示しています。特別措置法は、この二つの法体系の矛盾を最も端的に表している法律です。

 次に、今回の特別措置法の改悪は、日本国憲法29条31条に違反していることを指摘いたします。

 憲法29条は、財産権を侵してはならないと、財産権を保障しています。憲法31条は適正手続を保障したものです。すなわち、国家が国民の権利を侵害する場合には、法律の定める手続きによることはもちろんのこと、その手続きも適正かつ公正なものでなければならない、ということを定めています。手続きの適正を図るためには、権利を侵害する理由を告知して、それに対する弁解の機会を与えなければならなりません。そして、31条が刑事手続きだけでなく行政手続きにも適用されることは最高裁判所の判例も認めるところであります。現に、特別措置法とそれが準用する土地収用法は、土地の収用を独立した準司法機関である収用委員会に委ねて、その審理にあたっては、地主が意見書を提出したり、また、口頭で意見を述ベる権利を認めています。この、地主に意見を述べる機会を与えることは、憲法上最低限の保障ではないでしょうか。

 ところが、今回の特別措置法改悪により、使用期限の末日以前に必要な権利を取得するための手続きが完了しないときは、暫定使用ができると定められました。これは、必要な権利を取得するまでは、収用委員会が却下しようが何をしようが継続的に使用できるというものです。結局、地主にすれば、暫定使用のための審理を受ける権利を保障されていません。告知も弁解も、その機会を与えられていません。問答無用で土地の使用を継続する。これは、憲法31条及び29条に違反するものであります。

 いままで、最高裁判所が憲法31条及び29条について判断した例として、告知・弁解・防御の機会を与えないで、第三者の所有物を没収することを定めている関税法118条1項は、憲法31条と29条に違反するとしたものがあります。今回の特措法改悪も、この判例の場合と同様に、憲法31条と29条に違反するといわざると得ません。

 最後に、今回の特別措置法の改悪は、憲法95条に違反していることを指摘いたします。

 憲法95条は、一つの地方公共団体のみに適用される特別法はその地方公共団体の住民投票において過半数の同意を得なければならない、と規定されています。今回の特別措置法の改悪は、現在沖縄県収用委員会で審理されている土地の使用期限が切れる直前になって、それをなにがなんでも、使用継続するために、わずか10日あまりの国会審議で成立させたものであって、沖縄の米軍基地用地だけに適用するために制定されたということは誰の目にも明らかであります。

 このことはこの特措法改悪の法律の最後の付則2項の4で、遡及効力、つまり過去に遡って適応するという効力を認めたことでもはっきりしています。したがって、改悪した法律は、沖縄県の住民投票を経ない限り、憲法95条に違反するものであります。

 しかも、今回のこの改悪は沖縄の土地に適応するために、行われたというだけではなくて、知花昌一氏という特定の個人の土地をねらい打ちする法律でもあります。特措法の改悪付則2の後段で、この改悪法の施行日において、既に使用期間が満了している場合でも、担保を提供した日の翌日から暫定使用できるという文言がありますが、この条文に当てはまるのは、知花さんの土地以外にはありません。これは憲法95条に違反するだけでなく、法律の概念をも逸脱したものです。法律によってはできないはずのことが、行われてしまったのです。法律というのは、特定の権利をねらい打ちしてその権利を侵害することは許されません。これはもう法律で出来る範囲を逸脱しています。憲法41条の立法の概念を逸脱するものです。立法府としての権限を越えるこのような改悪を行った国の暴挙は断じて許すことはできません。

 最後にもう一度繰り返しますが、憲法に違反する特措法の改悪によって、生まれてきた暫定使用権原というものは、違憲無効であり、現在でも不法占拠が続いています。われわれはすべての土地について却下の裁決を勝ち取るまで、闘い続ける決意であります。収用委員会でもこの特措法の改悪の違憲性をはっきりと確認し、すべての土地に却下の裁決をされることを要請しまして、私の意見陳述を終わらせていただきます。(拍手)

当山会長代理:ありがとうございます。中村先生、すいません、あのー、はじめて陳述なさいますが、どの施設のだれの代理人かを一応明らかにしていただきたいと思います。

中村弁護士:伊江島の阿波根昌鴻氏の土地、他全部の代理人です。

当山会長代理:伊江島の施設、ですね。はい、ありがとうございます。

 えー。それでは続きまして、前回積み残しになっておりました求釈明に入りたいと思います。えー、まずは城間さん


  出典:第4回公開審理の録音から(テープおこしは比嘉

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