沖縄県収用委員会 第11回審理記録

 中村博則(土地所有者代理人・弁護士)


 中村博則(土地所有者代理人・弁護士):

 土地所有者代理人の中村です。私からは、今回の防衛施設局の収用申請が権限の乱用であって、許されないものであるということについて意見を陳述いたします。

 本件の収用申請は、そもそも事の始まり、つまり米軍による土地接収の当初の段階の違法性を引き継いだままであること、また今回の収用に直接かかわる段階においても重要な違法があること、この両面においてクリーンハンドの原則に反して許されないものであると考えます。クリーンハンドの原則とは、自ら法を尊重する者だけが法の保護を要求することができる、自ら法に違反するものは、法による保護を受けることは許されないという原則であります。

 まず、土地接収のそもそもの段階における違法性について述べます。ここに言う違法性とは、米軍がそもそも現在占有している土地を実力で強奪したものであるということです。その歴史は次のとおりであります。

 第一に、米軍は1945年4月1日に沖縄上陸以来、軍事上およそ必要と思われる土地をことごとく囲い込み、そこから沖縄の住民を追い出し、島内に設けた捕虜収容所に収用し、囲い込んだ土地を軍事基地として使用してきました。嘉手納、普天間、那覇の各飛行場や、嘉手納弾薬庫、牧港補給基地など、沖縄の基地の主要部分はこの形態によって接収された軍事基地であります。

 また、米軍は日本の無条件降伏の後、すなわち戦闘行為が終結して、沖縄の住民が返還地での生活を始めたころでさえ、軍事上、必要と判断すれば、再び住民を追い出して、銃剣とブルドーザーで土地を強奪したのであります。

 米軍は、これらの対日講話条約の発行前の土地接収について、その根拠としていわゆるいわゆるヘーグ陸戦法規というものを挙げていました。しかし、ヘーグ陸戦法規を規定する現品の徴発というのは、動産の徴発を許したものに過ぎず、土地を徴発することは許されておりません。なぜなら、現品の徴発というのは、占領軍が日常生活の維持のために必要不可欠な品物、例えば食料、衣服、靴、医療品などに限られるからです。さらに、現品の徴発と言えども占領の目的を越えてなすことは、国際法上、またヘーグ陸戦法規の上でも許されておりません。

 米軍による土地の占拠は、日本の無条件降伏の前であったとしても、既に戦争は事実上終了して、米軍が沖縄本島全域を制圧した後に行われたものであります。ましてや、無条件降伏の後のものについては、明らかに占領の目的を越えるものであって、ヘーグ陸戦法規にも明確に違反するものであります。このように、米軍の掲げたヘーグ陸戦法規と言えども、何ら法的根拠とはなり得なかったものであります。

 さらに、歴史上、その次の段階として1951年9月8日、サンフランシスコ講話条約が締結され、翌年の4月28日に発行し、日米間の戦争状態、これが終了した後は、ヘーグ陸戦法 規は通用し得ないものとなりました。そのために米軍は次々に布令、布告を発布して、従来からの軍用地の使用を追認すると同時に、また新たに土地の接収を強行しました。しかし、これらの布令や布告は、土地所有者への告知聴聞という権利保護規定もなく、およそあらゆる面で近代の国際法上に認められていた適正手続きの保障に違反するものでした。そして現実の姿としても、米軍は、土地所有者に何の説明もなく、各地において武装兵を導入して、次々と新たな土地の強奪を行っていたわけです。このように対日講話条約の発効後の既存土地利用の継続や、また新たな土地の接収も違法なものでした。

 そして沖縄は1972年5月15日に返還されるわけですが、このときに日本の政府は、国際 法規に反して強奪されていた土地を取り戻して、県民に返還すべき義務を追っていたのにかかわらず、逆にこの米軍が強奪した土地の利用を追認継続するということに手を貸してしまいました。すなわち公用地法等の暫定使用に関する法律、これを強行採決して、土地の強奪を追認しました。

 この5年後の1977年5月14日には公用地法は失効して占有権限を失いました。それにもかかわらず4日間の不法占拠を継続して、同月18日には地籍明確化法を制定して、公用地法の適用期間を5年から10年に延長しました。

 この10年が経過したとき、すなわち1982年には、それまで冬眠状態になっていた米軍用地特別措置法を適用して、またもや5年間強制収用しました。

 そしてその後に1987年に10年間、1992年に5年間の強制収用がされたわけですが、これ らの期限が切れた1997年に今回の強制収用となったわけです。

 以上の歴史を見ましても、米軍による沖縄の基地の接収は、何らの権限もない実力によって強奪されたものであります。そしてその後、それを追認し、継続してきた日本政府による強制使用もこの土地の強奪の一環です。どのような立法手法とも合法化されるものではありません。むしろ日本政府が合法化するための立法を次々と繰り返すたびに、日本政府の手も新しい違法によって汚れていったというべきです。そのような違法に手を染めた者には法の尊重を求める資格はないと言うべきです。したがって、今回の収用申請はクリーンハンドの原則に違反して認められないものと考

えます。

 次に、今回の収用手続、これに直接かかわる側面においても違法性があるということに述べます。

 まず、「象のオリ」の知花昌一氏所有の土地に関して、1996年4月1日、使用権限が切れたにもかかわらず、日本政府は土地を知花氏に返還せず、不法占拠を続けて、そして自らの不法占拠という違法行為を解消するために、今回の収用申請を行っております。したがって、今回の収用申請を認めることは、日本政府の不法占拠を追認して、これに援助を与えることになり、法的正義の観念から考えても、断じてこれを認めることはできません。

 知花氏の土地に関する不法占拠の実態ですが、これを具体的に見ますと、知花氏の側からは何も行動をとっていないにもかかわらず、日本政府のほうが期限切れの直前に「象のオリ」の周囲を突然柵で囲みました。そして、多数の警察官、警備員を配して、実力で立ち入りを排除するという準備を整えたわけです。そして期限切れ、4月1日当日に知花氏が立ち入りを求めると、この柵を封鎖したまま実力で立ち入りを阻止しました。このように、まさに計画的に期限切れの前から所有者の立ち入りを実力で阻止するための準備を整えると、そういうことは明らかに法を無視する態度であります。このようなものが法の援助を求めることは、やはりクリーンハンドの原則に違反するものと言わざるを得ません。

 またその後、知花氏以外の所有者の土地、この土地の期限切れを前にして、日本政府は特別措置法を改悪しました。収用裁決が出る前でも暫定使用できるということとしました。これは自らが従うべき収用手続きを、自ら都合が悪いからといって一方的に変えてしまうというルール違反をしたことになります。この点を考えても、自らルール違反をするものに法は援助を与えるということは断じて許されません。

 それから、知花昌一氏の土地については、緊急使用の申し立ての審理において、収用委員会が立入調査しようとしたときに、米軍は「象のオリ」の敷地の下にはアースマットという金属性の網が埋設してあり、足で踏むということはこれを損傷して通信基地としての機能に支障を及ぼす、そういうふうに主張しました。そして、最終的には立入調査を認めたものの、収用委員ひとりびとりの体重を申告させて、収用委員の歩くコースには木の板を敷いて、その上を歩くように強制した上、肝心の知花氏の所有地、この土地には足を踏み入れることを許しませんでした。ところが、後になり、この「象のオリ」の芝の上は、通常重さ約1トンある芝刈機が縦 横無尽に走りまわっていたということが、証拠写真で明らかにされました。米軍の詐欺的な手法が暴露されたわけです。この点でも、法手続きを軽視するという態度がはっきりとあらわれております。

 法手続きにのっとって、使用申請をしているかのように振る舞ったとしても、実際には所有権者の権利を無視して、使用されるのがさも当然であるかのように、手続きはどうでもよいという、そういう態度をとるものには、法による保護を求める資格はありません。

 以上のように、本件使用に係る土地については、まず米軍によるそもそもの接収の始まりが、土地の強奪という強度の違法性を有するものであります。その違法性は、その後も日本政府によって現在まで追認し、継続されております。そして、今回の使用手続き自体についても、所有権者の権利を無視する、手続きを軽視するという態度が著しくあらわれております。防衛施設局は自ら法に違反し、法を蹂躙するものでありまして、法による保護を求めるという資格はありません。したがって、本件の収用申請はクリーンハンドの原則に違反し、権限の乱用として却下すべきであると考えます。

 以上で、意見の陳述を終わります。

 当山会長:

 はい、ご苦労様。では、次に阿波根昌秀さん。


  出典:第11回公開審理(テープ起こしとテキスト化は仲田、協力:違憲共闘会議)


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