「ガス室」裁判 最終準備書面 その5

名誉毀損の事実認定 ― 金子マーティン執筆部分

最終準備書面 第四

第四、名誉毀損の事実認定に関して

 本件名誉毀損の事実に関しては、すでに訴状に列挙したところであるが、その内の被告・金子マーティン執筆部分に関してのみ、以下、甲号証番号及びその頁段行の記載を追加して引用する。

(以下、甲号証及びその頁段行の記載追加以外は訴状の原文のままの引用)

一九九七年[平9]一月二四日号・50~53頁「『朝日』と『文春』のための世界現代史講座」9「『ガス室はなかった』と唱える日本人に捧げるレクイエム」(1)(甲第9号証の5)……「レクイエム」(50頁見出し2行、羅和辞典では「死者のためのミサ」)「歴史改竄主義者」(50頁1段3行ほか)「疑似学術的」(50頁2段20行)「お粗末」(50頁4段9行)「ナチスの犯罪の否定・矮小化をその使命とする『修正主義学派』」(50頁4段22行)「いい加減さ」(51頁1段10行)「研究不足と偏向」(51頁1段10行)「非科学性」(51頁1段11行)「泥酔者」(51頁1段16行)「侮辱し冒涜する主張を繰り返す」(51頁2段10行)「主張に内包する犯罪性や人権無視」(51頁2段14行)「ユダヤ人排斥主義者」(52頁1段26行)

一九九七年[平9]一月三一日号・50~53頁「同前講座」9(2)(甲第9号証の6)……「『細工』(資料改竄)なしに自分の主張を維持できない」(52頁2段7行)「研究不足を暴露」(52頁3段21行)「デマゴーグ」(53頁3段25行)

一九九七年[平9]二月七日号・66~69頁「同前講座」9(3)(甲第9号証の7)……「煽動者」(66頁1段16行)「極めて無責任」(66頁1段22行)「ディレッタント」(66頁2段8行)「歴史資料に基づかないデマ」(68頁3段19行)

一九九七年[平9]二月二一日号・28~31頁「同前講座」9(5)(甲第9号証の9)……「読者を惑わそうとする」(30頁3段20行)「一味に属する」(31頁4段11行)

一九九七年[平9]二月二八日号・20~24頁「同前講座」9(6)(甲第9号証の10)……「学術組織を装った」「民族差別主義者」「欧米の歴史改竄主義者やネオ・ナチの主張の『翻訳』でしかない『アウシュヴィッツの争点』」(20頁3段22行)「「職業的虚言者の『戯言』」(20頁4段9行)「読者を煙に巻こうとする」(20頁4段19行)「墓場から蘇ったような『ゾンビ』」(21頁2段3行)「二次資料の改竄さえも怯まないディレッタントでかつデマゴーグ」(21頁2段12行)「恥知らず」(21頁3段10行)「低次元」(21頁3段15行)「言い逃れ」(22頁4段18行)「ドイツ語のイロハも知らない」(22頁4段32行)「化けの皮」(23頁3段28行)「負け犬の遠吠え」(23頁4段4行)「犬は歴史改竄などをしません」(23頁4段9行)「醜いゾンビ」(24頁2段3行)「頭脳アクロバット」(24頁2段11行)「愚説」(24頁2段15行)「犠牲者・遺族・生還者たちを[中略]侮辱・冒涜」(24頁3段8行)「悪あがき」(24頁4段3行)

4、原告の著書からの詐欺的な趣旨を歪める引用に基づく誹謗・中傷・名誉毀損の事実

(この事実に関しては複雑な比較対照と説明を要するので、のちに詳述するが、被告・本多勝一本人に対しては、すでに概略を指摘済みである。本訴状では、主要な問題点の該当箇所と『アウシュヴィッツの争点』の記述のみを列挙する)

一九九七年[平9]一月二四日号・50~53頁「同前講座」9(1)(甲第9号証の5)……「『外国語、外来語のカタカナ表記は、慣用に拘らず、原則として原音にちかよせる』のが木村の『主義』だそうだが」

「[前略]原音にちかよせるのがわたしの主義だが、本書では読みやすさを優先するために慣用化した表記を一部採用した」(『アウシュヴィッツの争点』三二頁)

一九九七年[平9]一月三一日号・50~53頁「同前講座」9(2)(甲第9号証の6)……「そこから直ちに『ドイツ語の原文があやしい』」

「訳者の序文には『全訳』とあるが、そうだとすればその元のドイツ語の原文があやしい。[中略]この件はまだ追跡調査が必要である」(『アウシュヴィッツの争点』七三頁)

同右……「(最後のアウシュヴィッツ収容所司令官、ベアーの)証言を紹介するに留めている。[中略]ベアー証言についての言及がある著作として木村が利用しているのが、クリストファーセンという怪しげな老人[中略]の書いたものであることを考えると、その信憑性を疑わざるをにはいられない」

『アウシュヴィッツの争点』の九一~九七頁の長文の記述をまともに読めば、推理小説的なきっかけとしてクリストファーセンのパンフ程度のものを「利用」してはいるものの、フランスのフォーリソン博士に国際電話を掛け、ドイツ人のシュテーグリッヒ判事の本の記述などを、かなり長く引用していることが一目瞭然のはずである。しかも、被告・金子マーテフィンは、この項目で原告が中心的なテーマとしたベアーの「獄中暗殺」の疑惑を、完璧に避けて通っている。フランクフルト大学の法医学研究所に残されているベアーの検死報告には、つぎの箇所があるはずなのだ。

「無臭で非腐食性の毒物の服用の、……排斥は不可能である」(前出『イスラエルの政策の基礎をなす諸神話』から再引用)

同右……「『収容所での死亡者の総数を、ピペルは約二〇万人と算定している』[中略]と木村は『紹介』している」

「犠牲者の概数の一一〇万人のうち、『登録されていない収容者』は九〇万人になっている。さしひき、のこりの二〇万人のみが『登録された収容者』のなかの犠牲者である。つまり、記録で確認できる『犠牲者』、または収容所内での死亡者の総数を、ピペルは約二〇万人と算定しているのである」(『アウシュヴィッツの争点』五六頁)

 被告・金子マーティンは、このことがピペルの著書の「英訳本に……含まれていない」と断定し、前述のごとく、原告が「細工(資料改竄)なしに自分の主張を維持できない」などと誹謗中傷しているのであるが、これも完全に間違っている。『アウシュヴィッツの争点』の参考資料9頁に、56頁の記載は原著の52頁の記述によるという意味の数字を明記してある。

「未登録の収容者」に関しては、ピペルの注記にも、「一般に流布されている資料と文献(リテラチュアだから『小説』も含まれる漠然とした表現)」によるとあり、それこそ「根拠」がはっきりしないものなのである。

一九九七年[平9]二月二一日号・28~31頁「同前講座」9(5)(甲第9号証の9)……「(クリストファーセンについて)『親衛隊員などではなかった』とも木村は読者を惑わそうとする」

「ヒトラーに忠誠を誓う親衛隊員などではなかった。中尉の位はあるが、[中略]収容所の管理には責任のない農場の研究者」(『アウシュヴィッツの争点』一五七頁)。原告の文章の重点は、いわゆる「親衛隊」のバリバリではなくて、「農場の研究者」という立場だったことの強調にある。

一九九七年[平9]二月二八日号・20~24頁「同前講座」9(6)(甲第9号証の10)……「『オーストリアのナチズムの大物』[中略]と木村も紹介する『ゴットフリート・キュッセル』」

『アウシュヴィッツの争点』では、「オーストリアのナチズムの大物」を、NHKの「解説」として紹介して、いわゆるカッコ付きの留保を強調し、原告が見た映像による判断として「大物どころか、そこらのいきがった『街のあんちゃん』程度でしかない」(同書二七九頁)と記している。全く逆である。

(引用続く)


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