米国重要技術報告書復活へのカルテ」 9

2000.7.4

(9)バイオ・生命科学/エイズの予防も

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国家重要技術 商務省 国防総省
応用分子生物学
医療技術
バイオ
医療機器・診断技術
バイオ材料・処理
 

(注)商務省、国防総省の技術リストは昨年の「新技術報告書」、「重要技術計画報告書」に基づく

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【応用分子生物学】=分子レベルでの細胞機能の解明によって新たな生物学が著しい進展を遂げた。応用分子生物学で重要となるのは (1)遺伝子組み換え (2)たんぱく工学 (3)モノクローナル抗体 (4)バイオ技術の生産工程ヘの応用……などだ。

▼技術選択の理由=分子生物学は幅広い分野で応用でき、疾病予防や治療などでは実用化されているものも出ている。さらに健康医療のほか、エネルギー保存、特殊化学薬品、新材料などへの応用にも期待がかかっている。

 具体的には健康医療分野ではエイズやガンなどさまざまな疾病の診断や予防、治療手段の開発で可能性がある。農業分野では脂肪の少ない良質の家畜を生み出すようなホルモンの開発に利用できる。遺伝子組み換えに代表される遺伝子工学は環境汚染のもとである有毒物質などを分解する有用な微生物や酵素を開発するするうえ重要だ。

▼国際動向=米国は現在、応用分子生物研究で世界の主導権を握っている。主要大学、NIH(米国立衛生研究所)をはじめとする第一線の研究機関、産学の高度な共同研究体制、優秀な人材、世界的な医療産業、強大な農業の存在がバイオの研究を盛んにし実用化に拍車をかけている。

 欧州各国は健康医療面において米国の強力なライバルになりかねない。例えば、ドイツは強力な医薬メーカーを持つ。その研究基盤は世界のトップレベルにあり政府が相当後押ししている。日本ではバイオに対する期待が大きく政府、民間ともかなりの投資をしている。重点を置いているのは食品、ゴミ処理技術、バイオケミカルだ。発酵技術などの豊富な経験によって日本は他国の研究成果を素早く自分のものに吸収できるだろう。バイオセンサー技術では目覚ましい発展を遂げている。

 日本のメーカー数社はすでに環境モニターや産業分析のための小型電極技術を活用した半導体を販売している。現在実用化した製品のうち15%は米国独自のものだが、そのほかはほとんどが日本日本は分子生物学の研究に積極的な一方、この分野でも他国の成果をもとに商品化するのが素早い。

【医療技術】=医療技術はコンピューターや材料科学、エレクトロニクス、レーザーなど他の科学分野の進歩を取り込み、米国の医学に革命を引き起こしてきた。医療機器業界は次々に革新的な製品を生み出し、これが医療現場へ素早い普及を促進している。

▼技術選択の理由=革新的な医療技術は患者の生活の質を高めるとともに身体障害による苦痛を和らげる。高齢化現象や延命に有用な製品に対する需要があるために、医療市場はさらに拡大することが予想できる。

 米国は長い間、世界の医療市場を支配してきた。世界中で生産される医療製品の40%以上を米国が消費しているほか、相変わらずこの分野では貿易黒字が続いている。1990年は32億ドルに達した。米国の医療技術産業は画期的技術の開発や実用化に非常に熱心で世界のトップを走っている。ハイテクを駆使した医療機器は国家の安全保障上からも重要である。緊急治療の可能性は戦時下には必要不可欠だからだ。

▼国際動向=米国は医療技術で世界をリードしているが、最近は情勢が変化している。医療技術は費用がかかり、政府も老齢者保護の経費だけで1990年に1,070億ドル以上を負担していてメーカー間の競争を奨励するより市場成長をコントロールすることに焦点を絞っている。メーカーは新たなビジネスチャンスを狙って海外市場にますます目を向けなければならないだろう。

 一方、米国のライバル国が地歩を固めつつある。医療技術分野でのドイツとの貿易バランスを見るとドイツが優勢である。日米間では米国が優位ではあるものの、米国は日本製の医療電子機器の主要輸入国である。日本の科学技術庁が最重視視しているのが医療技術とバイオテクノロジーである。各国間の開発競争は厳しさを増し、低コスト高品質な製品だけが成功するであろう。

以上で(9)終り。(10)に続く。


(10)航空・陸上輸送/総合力でリード

WEB雑誌『憎まれ愚痴』56号の目次