『亜空間通信』948号(2005/01/24) 阿修羅投稿を再録

『女性国際戦犯法廷』めぐる経緯の時系列と人名などの調査報告が電網に「転送可」として出現

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『亜空間通信』948号(2005/01/24)
【『女性国際戦犯法廷』めぐる経緯の時系列と人名などの調査報告が電網に「転送可」として出現】

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転送、転載、引用、訳出、大歓迎!

 わが木村書店発行、季刊『真相の深層』の定期購読読者から、「転送可」として、以下の時系列、人物別の『女性国際戦犯法廷』めぐる経緯が、送られてきた。

 今後の議論の基礎資料として紹介する。

NHK2001年1月30日放送
『女性国際戦犯法廷』めぐる経緯

【2000年】
8月

ドキュメンタリー・ジャパン=DJ(プロダクション)の女性ディレクター坂上香さん(1965年生まれ)にNHKの関連会社NHKエンタープライズ21=NEP21のプロデューサーA氏(※)より、同年12月に開催される「女性国際戦犯法廷」を舞台に番組を作らないか、というオファーがなされる。A氏は高橋哲哉(※)東大助教授の講演からこの情報を得た。NHKのETV2001を担当するNHK教養番組部も意欲的だった。

池田恵理子さん
 1973年早稲田大学卒業後、NHK入局。ディレクターとして、教育、女性、医療、エイズ、人権、「慰安婦」問題などの番組制作にあたる。主な番組に「体罰~なぜ教師は殴るのか」「埋もれたエイズ報告」「東ティモール最新報告」「50年目の『慰安婦』問題」「グアテマラ 二度と再び」など。その後、NHKエンタープライズ21のプロデューサー。1997年に自主ビデオ制作集団「ビデオ塾」を 結成。各国の「慰安婦」被害者の証言記録運動を始め、2000年には「沈黙を破って~女性国際戦犯法廷の記録」を制作した(京都精華大学HPより)

高橋哲哉さん
 1956年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科教授。哲学者。
20世紀のヨーロッパ哲学を研究しながら、戦争責任や歴史認識の問題に積極的に発言し、現在は「憲法再生フォーラム」共同代表も務める。著書に『戦後責任論』、『歴史認識論争』、『デリダ―脱構築』など。

 坂上ディレクターは、高橋助教授の話を直接聞く中で番組づくりの意義を感じ、引き受けることに。但し、企画が通る可能性は低いと感じていたという。坂上ディレクターは、NEP21のAプロデューサーからNHK教養番組部のBプロデューサー及びデスクを紹介され、準備が進む。

9月
 坂上ディレクターは2回シリーズの企画書を完成させる。シリーズ1回目は日本軍の戦時の暴力を裁く「民衆法廷」を軸に、シリーズ2回目は「民衆法廷」の一環として行なわれる「公聴会」を軸に、性暴力被害者の証言を聞くといった内容。この企画書は練られて9月末にDJからNEP21に提出された。これが、後、2回シリーズから4回シリーズに拡大する。NHK教養番組部が企画を書き直した。

10月
 「VAWW-NET Japan=バウネット・ジャパン」(「戦争と女性への暴力」ネットワーク:松井やより代表※)に、NHKの番組を制作しているDJ(代表取締役 橋本佳子  牧 哲雄  山崎 裕)から企画の相談が持ち込まれる(※)。

バウネットが関わる「女性国際戦犯法廷」を取り上げたい、というものだった。バウネットはこの趣旨に賛同し、取材協力を約束。

松井やよりさん
 1934年生まれ。1961年東京外国語大学英米科卒業。在学中ミネソタ大学とソルボンヌ大学に留学。1961年朝日新聞社に入社。社会部記者として福祉、公害、消費者問題、女性問題などを取材。1977年「アジア女たちの会」設立。1981~85年シンガポール・アジア総局員。1994年朝日新聞社定年退職。1995年「アジア女性資料センター」設立。国際ジャーナリスト。アジア女性資料センター、 VAWW-NET Japan代表。2002年12月27日没。

※当シリーズは外部委託番組だった。NHK教養番組部がNHK関連会社NEP21を通じてDJに発注した。DJは1981年にスタートしたドキュメンタリーを専門とするプロダクションで、NHKが外部制作会社に発注を開始した90年初頭から関わってきた。NHKスペシャル「あなたの声が聞きたい」は郵政大臣賞など数々の賞を受賞するなど、ドキュメンタリーに定評がある。

 当シリーズは当初2回で企画され、その企画書を作ったDJの坂上ディレクターも、HIV問題を扱った「僕たちずっと一緒だよね」のディレクターを務め、BS-1日曜スペシャルでも企画・制作・デシレクターを務めた「ジャーニー・オブ・ホープ」が文化庁芸術祭優秀賞を授賞するなど、数々の授賞暦がある優秀なディレクターだった。このDJを核に、NEP21、NHK教養番組部が加わり、3者合同会議(構成 会議)が開催され、合意を経ながら番組は制作されていく。

12月9日
 NHKニュース及び「おはよう日本」などが「女性国際戦犯法廷」が開始されたことを報道するや、NHKに右翼からの抗議が始まる。ETVシリーズで放送されることが広まるにつれて、抗議はエスカレートし、放送中止要求も。

中旬
 NHK局内で3社合同構成会議が開催される。なお、4回シリーズのうち、シリーズ2回目の「民衆法廷」のDJ側のディレクターはCさん、シリーズ3回目の「公聴会」のディレクターは坂上ディレクターが務め、残り2回はNHK教養番組部の制作となった。この会議で、シリーズ2回目は教養番組部プロデューサーB氏の提案通り、「民衆法廷」に絞って制作し、特にVTRについては、「民衆法廷」に限ることになったという。DJのCさんの提案の中にあった様々な要素は、高橋東大助教授と米山リサ氏※(アメリカ・カリフォルニア大学準教授)の対談でカバーすることに。

米山リサさん カリフォルニア大学サンディエゴ校文学部準教授.スタンフォード 大学人類学部Ph.D.社会科学調査査委員会マッカーサー財団奨学生を経て1992年より現職.著書にHiroshima Traces: Time, Space and the Dialectics of Memory(カリフォルニア大学出版、1999年)、共編著に Perilous Memories: Asia-Pacific War(s)(デューク大学出版、2001年).日本語論文に、「記憶の弁証法――広島」『思想』(1996年)、「記憶の未来化について」小森陽一・高橋哲哉編『ナショナル・ヒストリーを超えて』(東京大学出版会、1988年)、「天皇のページ ェント―近代日本の歴史民族誌から」(翻訳)NHKブックス。

 右翼からの圧力を教養番組部の担当者が頻繁に口にし始める。

【2001年】
1月19日

 NHKではそれまでは稀だったシリーズ2回目の最初の吉岡民夫教養番組部部長試写が行われる。ここで、部長より様々なダメ出しが行なわれた。激怒したとも伝えられる。これにより、VTRは「民衆法廷」のみの方針は変更され、海外の法廷情報も加わった。

1月20日
 右翼団体から抗議のFAXがNHK教養番組部部長宛に送られる。プロデューサーの自宅にも抗議や脅迫電話があった(衆議院総務委員会で明らかに)

1月24日
 シリーズ2回目の第2回目の部長試写が行われた。教養番組部部長のほか、局やNEP21からも参加した。部長よりここでも修正箇所が指摘される。加害者証言、対談部分の米山氏の発言も否定される。ここに至り、DJ側の担当ディレクターは、以後の作業はNHKの方でお願いしたい、旨、述べる。天皇有罪の判決(ナレーション)、加害者兵士の証言、法廷主催団体の基礎的な情報も削除される。

1月26日
 松尾放送総局長と伊東律子番組制作局長が試写(読売・05年1月20日)

1月27日
 NHKに右翼団体が抗議行動。街宣車も。

1月28日
 NHKに右翼団体が抗議行動。

 1月30日オンエアの『戦争をどう裁くか』第2夜『問われる戦時性暴力』(22時~22時40分)に関して、急遽、秦郁彦氏のインタビューが撮影・挿入される。

 その後も、この日の夜中から30日のオンエア直前まで手が加えられた、と言われる。

 シリーズ2回目の改変だけでなく、この日あったシリーズ3回目(DJ坂上香ディレクター)の局長レベル試写会の後、「公聴会」開催のナレーション、女性国際戦犯法廷のテロップ、元「慰安婦」が映っている場面、説明ナレーションのカットなどが行なわれた。

1月29日
 NHKのETV2001シリーズ『戦争をどう裁くか』第1夜(22時~22時44分)

 松尾放送総局長、野島直樹担当部長、自民党安倍氏と面談(日刊スポーツ05年1月20日)。

 夕刻、松尾放送総局長、伊東律子番組制作局長が試写。編集作業(読売・05年1月20日)

1月30日
 NHKのETV2001シリーズ『戦争をどう裁くか』第2夜『問われる戦時性暴力』(22時~22時40分)で大幅な番組改変が行なわれる。内容は、既述のように2000年12月、東京九段会館で開かれた日本軍慰安婦制度を裁いた「女性国際戦犯法廷」を取り上げたもの。

 これは、日本軍の「慰安婦」制度を裁いた民衆法廷で、昭和天皇、日本軍の幹部(※)、日本政府を被告とし、12月8日から九段会館で3日間の審理を経て、12日に日本青年館で「天皇に有罪」「日本政府に国家責任」を求める判決が言い渡された。2001年12月4日にオランダのハーグで最終「判決」。裁判官、主席検事、書記官は、国籍・民族・人種・性を超えて構成され、「法廷」の権威は、いかなる国家、いかなる政治組織により生じるものでもなく、いかなる権力にも支配されない。法廷を開催するために、日本、被害国、国際諮問委員会の3者で国際実行委員会が結成された。

※昭和天皇ほか、A級戦犯など9名。

 国際実行委員会の日本側の中核を担ったのが「VAWW-NET Japan=バウネット・ジャパン」(「戦争と女性への暴力」ネットワーク:松井やより代表)だった。

 削除された内容は「誰が何のために法廷を開いたか、被告は誰でどのような罪で起訴されたか。どのような審理が進められ、どのような判決が出たのか」(バウネット副代表西野瑠美子=月刊「創」2001年5月号)。

 具体的には、法廷会場九段会館、「日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷」の看板、書記官の開廷宣言、裁判官や検事、韓国、インドネシア、台湾の証言、町永俊雄アナウンサー※のナレーション(改変された)、韓国・北朝鮮、中国、東チモールの”慰安婦“の被害者証言、元日本軍兵士の証言、裁判官が判決を読み上げている場面、総立ちになって拍手を送る会場の様子、など。

(放映2日前、NHKにドキュメンタリー・ジャパンが納品したものには基本情報が入ったビデオが制作されていた。)

※改変された町永アナのナレーションについて、『正論』2001年4月号は、海老沢会長がビデオを試写して制作担当者を呼びつけて内容の修正を厳命した、と書いている。

放映前日か、当日の改変と予想。

1月31日
 NHKのETV2001シリーズ『戦争をどう裁くか』第3夜(22時~22時44分)

2月1日
 NHKのETV2001シリーズ『戦争をどう裁くか』第4夜(22時~22時44分)

2月2日
 伊東律子氏と野島直樹氏、中川氏と会う。(日刊スポーツ05年1月20日)

2月6日
 バウネット・ジャパン、この日付けで、NHK海老沢会長宛に11項目の公開質問状を送付。

2月13日
 この日付けでNHKより回答(教養番組部長吉岡民夫名)。内容は「シリーズ全体の企画意図・編集方針は、2000年11月にNHKが番組シリーズの制作を決定した時から先般の放送までの間、一貫して変わっていない」というもの。遠藤絢一番組制作局主幹も同様の発言。

 バウネットはこの後、上記2人と対話。NHKは「右翼の頻繁な抗議があったこと」
「放送直前まで手を加えたこと」を認める。

2月26日
 同日発売号の週刊新潮が1月27日、28日の右翼団体の抗議、伊東律子番組制作局長が自民党の議員に呼び出された…報道。

3月2日
 朝日新聞が「NHK、直前に大改変」の大見出しの記事。内容は、「29日頃、会長側近の局長や放送総局長による異例の試写が行われたこと」「放送直前に局長以上からOKが出ていた番組の改変指示」

 同日発売の「週刊金曜日」では、竹内一晴氏が「カットを指示したのは松尾武放送総局長で、当日、43分バージョンになったものをさらに3分カットしたうちの数箇所は松尾総局長が直接指示」と書いた。

 こうした報道を受けて、バウネットは、国際実行委員会の抗議声明、NHKで教養番組部吉岡部長、番組制作局遠藤主幹と話し合う。

3月16日

 衆議院総務委員会で民主党の大出彰議員が質問に立ち、この番組の改編問題を取り上げ、NHK海老沢勝二会長、松尾武放送総局長に真偽を質す。「NHKの報道の自由、企画者の表現の自由、NHKの編集権の独立が侵害されたのではないか」「一部の政治勢力に屈したのではないか、また、それに配慮する形で自主規制したのではないか」という質問に、海老沢会長は「いろいろな意見が出たと聞いている。編集責任者が、そういう中で公正を期して番組を放送した」と回答。

 「伊東律子番組制作局長が自民の大物議員に呼び出され、クギを刺された」(週刊新潮)のではという質問に、松尾武総局長は「番組制作局がこの件で呼び出されたという事実はない」と答える。「海老沢会長、松尾総局長が改編を支持したのでは」という質問にも「そのような事実はない」と否定。

 海老沢会長は「できるだけ公平を期し、我々の自主性、自律性を守りながら質の高いものを出していく精神にはいささかも変わりないし、今後とも公平公正、不偏不党の立場に立った番組づくりに努力するというのは当然だ」と締めくくる。

 社民党の横光克彦議員は、「ETV2001シリーズ、これは非常にいい。NHKでなければできないような、いわゆる挑戦的な意欲が感じられる企画だと思っている……こういったテーマにアプローチすることに現場が萎縮するようなことがあってはならない」と発言。

7月
 バウネット・ジャパン、2001年7月24日東京地裁にNHKを相手取って提訴(裁判は15回の口頭弁論を経て2003年12月15日結審)。提訴の主旨は、NHK側の提示した企画内容に合意したからこそ取材協力したにもかかわらず、別の内容に改ざんされたことにより、信頼(期待)利益を侵害され、また、NHKが番組改変の説明義務に違反したために損害を受けた、の2点。

 坂上香ディレクター、ドキュメンタリー・ジャパンを退社。ETV2001「シリーズ 戦争をどう裁くか」での改変体験に続き、2001年4月26日、NHKBS1ウィークエンドスペシャル「希望の法廷~地域で向き合う少年犯罪~」(坂上香企画・ディレクター兼編集)が放送2日前に放送延期(アメリカの少年たちの社会復帰がテーマ。被取材者の許可を得た後の顔出し・実名報道だったが、なぜか、番組基準にそぐわない、人権上問題があるとの理由)になったことも影響。改変要求を呑み、5分の短縮を行なうことに。この過程で、NHK、NEP21への疑問、黙するドキュメンタリー・ジャパンへの疑問が募り、結論。

 坂上ディレクターは、月刊「創」2002年3月号ほか、媒体に告発手記を寄せ、そこでこう書いている。

 「同業者からは共感やエールよりも『とうとう地雷を踏んじゃったね』という嘲笑まじりの『お悔やみ』という諦めの反応の方が圧倒的に多い……日本のメディアにはタブーが溢れている。実際、私はいくつもの地雷を踏んだのだろう。しかし、地雷を撤去しようとするのでなく、地雷を放置して踏まないように恐る恐る避けて歩くメディアの姿は、なんとも哀しくないか」

【2004年】
3月24日

 東京地方裁判所で、「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク(以下「バウネット」)ほかを原告、株式会社ドキュメンタリージャパン(以下「DJ」)、日本放送協会(以下「NHK」)及び株式会社NHKエンタープライズ21(以下「NEP21」)を被告とする損害賠償請求事件(平成13年(ワ)第15454号損害賠償請求事件)の判決出る。

 判決内容(東京地裁・小野剛裁判長)は、「番組内容は、当初の企画と相当乖離(かいり)しており、取材される側の信頼を侵害した」と認定、しかし、自民党や右翼の圧力により、番組を改変したNHKに責任はなく、改変は「編集の自由」の範囲内とした。その上で判決は、最終段階で制作から降りたプロダクション、ドキュメンタリー・ジャパン=DJ社に対し、「取材に協力したVAWW―NETジャパンに国際法廷の忠実なドキュメンタリーが作られるかのような期待を抱かせてしまった」として、「原告に百万円を支払え」と命じるものだった。これはジャーナリズムの現場を知らぬばかりか、事実認定、解釈、判断を見誤った重大な瑕疵を含む結論と言えまいか。表現・報道の自由に対しても重大な足枷を課す内容でもあろう。

 対して全日本番組制作者連盟・ATPは以下のような見解を公表した(一部)。

 「とりわけ、本地裁判決においては、放送番組の編集、放送に関して直接的な権限を持たない番組製作会社に対して、放送番組の内容に関して取材対象者が一定の期待を抱くような取材活動を行わないようにする注意義務があるとしていることや、放送番組に関する取材活動は、番組製作会社が制作委託契約に基づき行なうものであり、放送事業者側の関与は認められず、放送事業者側には取材活動に関する責任がないとしていることなど、番組製作会社は制作委託者である放送事業者との綿密な打合せなしに番組製作のための取材活動や編集作業は行い得ないという、当業界における一般的常識や実態に照らし合わせても、相当程度疑問と思われる判断や認定がされています」
http://www.atp.or.jp/news/20041215.html

 この判決の意味は大きい。

【2005年】
1月13日

 NHKの番組放送(2001年1月30日)前に自民党の有力政治家がNHK幹部と面談し、番組内容がその後、大幅に改変された問題を内部告発していたNHKの番組制作局教育番組センターの長井暁チーフプロデューサーが東京都内で記者会見。

 「放送2日前(2001年1月28日)には通常の編集作業を終え、番組はほぼ完成していたが、1月下旬、中川昭一・現経産相らが当事のNHK国会担当の担当局長を呼び出し、番組の放送中止を求めた。NHKの予算審議前だったこともあり、担当局長は放送前日(29日)の午後、NHK放送総局長を伴って、再度、中川氏や安倍晋三・現自民党幹事長代理を訪ね、番組について説明。放送総局長は、番組内容を変更するので、放送させて欲しいと述べた」

 29日午後6時過ぎ、ほぼ完成した番組をNHK局内で松尾武元放送総局長から「内容を変更するので見せて欲しい」と言われ、長井氏も同席し、国会対策担当の野島直樹局長(現理事)と伊東律子番組制作局長と異例の局長試写。その後、「天皇に責任がある」とした民衆法廷結論部分などのカットや法廷に批判的な識者のコメントの追加などが長井氏に指示された。

 手直しは野島直樹局長がリードした。これで、44分の番組が43分になった。続いて、放送当日の30日に、松尾放送総局長が「責任は自分が取る」として、元慰安婦の証言部分など3分間のカットを指示、結局、通常44分の番組は、40分となった。この2度目の改変に対して、現場は全員、反対した。改変は現場の議論とはまったく異なる内容で、現場の意向を無視していたという。

 長井氏は「海老沢会長はすべて了承していた。信頼すべき上司によれば、担当局長が逐一、会長に報告していた。会長宛の報告書も存在している。その上で、政治介入を許した海老沢会長や役員、幹部の責任は重大。海老沢会長になってから政治介入は恒常化している。海老沢会長は旧竹下派の力をバックに会長に上りつめた人。政治家に気を使うがそれがNHKが議員につけこまれることになったのではないか」と述べている。

 これに関連して、長井氏は2004年12月9日、コンプライアンス通報制度に内部告発したが1カ月以上たっても聞き取り調査さえ行なわれていない、という。また、野島直樹局長はヒアリングを拒否していることも明らかに。

 自民党中川経産相と安倍幹事長代理は、「偏った内容だ。公正な番組にするように」などと指摘したことは認めているが、安倍氏は「NHK側を呼びつけてはいないし、番組の中止も求めていない」と新聞各紙にコメント。

 NHK広報局は「これにより、番組の公正さ・公平さが損なわれたということはない。編集責任者が自主的な判断に基づいて編集・放送した。コンプライアンス推進室は通常の手続きに従って調査をしている。途中経過は通報者に知らせている」とコメント。

1月14日
 NHKは中川昭一氏とは放送前に面会したことはない(2月2日が最初、8日、9日)、との関根昭義放送総局長の見解を発表した。中川、安倍氏とも告発内容を否定した。安倍氏とは1月29日の面会した模様(朝日新聞1月14日)。しかし、朝日新聞は、2005年1月10日には、中川氏は朝日新聞に対し、放送前日に面会した事実を認めた上で「NHK側があれこれ直すと説明し、それでもやると言うから『ダメだと言った』と答えた」などの反論を掲載。

1月15日
 NHKは朝日新聞本社に抗議。朝日新聞は「取材を重ねてきた結果だ」と回答。

 中川経産相は14日、プラハで、野党が関係者の国会参考人招致を要求していることについて、場合によっては応じる考えを示唆。

1月16日
 NHKの労組、日本放送労働組合が14日、内部告発者の長井氏を「言論・放送の自
由を守るという立場から支援する」との声明を発表(朝日新聞1月16日)。

 テレビ朝日「サンデープロジェクト」に安倍幹事長代理が出演。「なぜ、この時期に。朝日新聞の捏造だ。民衆法廷の検事役は北朝鮮工作員であることが分っている。公平公正にやってくださいと言っただけ」などと弁明した。田原総一郎氏は安倍氏を弁護しつつ、問題はNHKが放送直前に2度改変した。その内容ではないか、と主張した。

1月17日
 自民党安倍晋三幹事長代理、16日、フジテレビとテレビ朝日の番組に出演し、朝日新聞の報道について、悪意ある捏造だ、と語った。安倍氏は放送前日にNHK幹部とあったことは認めつつ、「私が呼びつけたのではなく、予算と事業計画の説明に来た。その後、番組について説明があり、『公平公正にお願いします』と申し上げた」と述べ、また、NHKのプロデューサーに対しても「全部、伝聞で言っている」と批判した。「放送後4年もたっているのに、なぜ、今頃、取上げられるのか。北朝鮮に厳しい私と中川経済産業相を狙い撃ちしており、何か意図を感じざるをえない」とも話した。

 対して、朝日新聞は、「安倍氏やNHK幹部を含む関係者への取材を重ねた上で報道しており、内容には自信を持っている。『捏造』との批判は見過ごすことができない」と17日朝刊で書いている。

 バウネット・ジャパンがNHKなどを相手に2000万円の慰謝料支払いを求めた控訴審で、東京高裁は17日、同日結審の予定を変更し、審理を続行することを決めた。放送前に自民党議員とNHK側が会ったことなどからバウネット側が「新たな証拠調べが必要」と続行を求めていた。

 バウネット側は、「政治介入で番組内容が変更された」と内部告発した番組制作責任者の長井暁(さとる)チーフプロデューサーや安倍晋三自民党幹事長代理、中川昭一経済産業相ら6人を証人申請した。他の3人はNHKの松尾武放送総局長(当時)、国会担当の野島直樹局長(同)と海老沢勝二会長秋山裁判長は、証人として採用するかどうかは今後決定する考えを示した。次回口頭弁論は4月25日。

 安倍幹事長、朝日新聞社あてに「記事により名誉が著しく毀損された」と抗議。謝罪と釈明、訂正記事の掲載を求める通知書を送る。

 「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」の下村博文事務局長は、この日、「私のところにも呼び出したわけではなく、NHKの方から「このまま放送するのは問題があると思っているので、もう一度、編集を含めて検討したい」と言ってきた」と説明。

 長井暁CPは、弁護士を通じて「NHKが13日夜、ニュースで『政治的圧力で改変が行われたという担当デスクの主張は間違い』と報じたことに対し、コンプライアンス推進室が1カ月かけて調査できなかったことを、わずか数時間の調査で『主張は間違いだ』などとどうして断言できるのか」と反論。

 バウネットジャパンは17日、安倍氏に対し、『女性国際戦犯法廷』について、同氏がテレビ番組などで事実と違う発言をしたとして謝罪を求める抗議文を送付した。同法廷を「拉致問題を沈静化するための工作の一部を担っていた」、と発言したことに対して。「法廷が開かれたのは日朝首脳会談の以前であり、事実無根のひぼう・中傷だ」と反論。

1月18日
 朝日新聞が取材過程の詳細を公表。NHK幹部(松尾武元放送総局長)は、01年1月29日に、NHK側が中川昭一、安倍幹事長代理と相次いで会ったことを認めていた。NHK側のメンバーは、当時の松尾武放送総局長と国会担当の野島直樹担当局長ら数人。このNHK幹部(松尾武元放送総局長)によると、面会した日は29日、1回のみだった。中川氏は当時、慰安婦問題を教科書で扱うことに批判的な「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」の代表。安倍氏は同会の元事務局長。このNHK幹部は、番組の放送前に議員と会うことは通常、大河ドラマ以外にはない、と答えた。

 NHK幹部(松尾武元放送総局長)は、「自民党に呼ばれた」との認識を示し、行かなければ放送中止も予想されたと話した。中川氏からは「注意しろ、見ているぞ」との示唆を与えられたとも。これで、つけいる隙を与えてはいけないという緊張感が出てきたとNHK幹部は話した。

 また、中川氏は、朝日新聞記者との取材の中で、29日に会ったこと、番組が偏向しており、おかしいと言ったこと、放送中止を求めたことも認めている。こんなNHKの予算は通すべきではないと自民党の部会では堂々と言っているとも。

 同日、ジャーナリストの呼びかけで、参議院議員会館 第1会議室にて、記者会見が行われ、「NHK問題に関する緊急記者会見とアピール」が出された。発言者は、岩崎貞明(放送レポート)、小田桐誠(ギャラク)、桂敬一(立正大学)、北村肇(週刊金曜日)、斉藤貴男(ジャーナリスト)、坂上香(映像ジャーナリスト)、坂本衛(ジャーナリスト)、篠田博之(創出版)、下村健一(市民メディア・アドバイザー)、高橋哲哉(東大教授)、土江真紀子(TVディレクター)、服部孝章(立教大学)、原寿雄(ジャーナリスト)、広河隆一(「DAYS JAPAN」)、松田浩(元立命館大学教授)、森達也(映画監督)、綿井健陽(ビデオ・ジャーナリスト)ほか。

1月19日
 NHKは、この日、放送センターで記者会見。民放テレビを含む100人の報道陣が集まった(約1時間半)。午後7時のニュースでこの模様を十数分、報じた。特に、松尾武元放送総局長(NHK幹部)が会見に出席。朝日新聞の報道について、「内容がねじまげられている」と語り、それ以前の朝日記者に語ったとされる発言内容を否定した。「政治的圧力は感じていない」と言う。また、朝日新聞に対し、訂正と謝罪を求めた。

 NHKは会見で、コンプライアンス推進室(担当宮下宣裕理事)の調査結果を公表。松尾氏ら幹部5人(松尾武放送総局長・野島直樹担当局長・伊東律子番組制作局長・吉岡民夫教養番組部部長・永田浩三チーフプロデューサー)に聴取。結果、政治介入はなく、不法行為は認められない」とした。

 制作過程では、2001年1月19日より、30日までの間に4回の手直しを行ったとした。

 会見出席者は、松尾武元放送総局長(現NHK出版社長)、出田幸彦・放送副総局長=番組経緯を説明)、関根昭義現放送総局長

 朝日新聞は、同日、NHKの記者会見後、すぐに松尾元放送総局長がとりあげた朝日記事への8点の疑問について、反論を報道各社に送付。抗議文をNHKに送るとともに、Webに反論記事を掲載した。

 長井CPはこれを受けて、「政治家に魂を売り渡してしまった現経営陣主導で行われた調査結果は信用できないとした。第三者機関を設置すべきだとコメント。

1月20日
 新聞各紙が前日のNHK記者会見の様子を細かく報じた。

(以上の年表は、月刊「創」2001年5月号、月刊「創」2002年1.2月合併号、月刊「創」2002年3月号、毎日新聞、朝日新聞、読売新聞、産経新聞ほかを参考に作成)

(小池正春)

 上記の「(小池正春)」は、電網検索によると、以下の『実録視聴率戦争!』の著者である。

http://bookweb.kinokuniya.co.jp/hb/tokushima/wshosea.cgi?W-NIPS=9975252893&MAPM=1
宝島社新書

実録視聴率戦争!
ISBN:4796624678
189p 18cm
宝島社 (2001-11-24出版)

・小池 正春【著】
[新書 判] NDC分類:699.6 販売価:\735(税込) (本体価:\700)
視聴率はテレビの“悪魔”なのか―テレビを腐らせる?“通貨”の実像に迫る!メディア規制とデジタル化でテレビ現場はどこに向かうのか、徹底検証。
第1章 視聴率戦争論―視聴率は戦争である、という比喩はあながち、嘘ではない
第2章 視聴率戦争20年の軌跡―1982年、フジテレビという新しい風が戦端を開いた
第3章 視聴率戦争のリーダーを直撃!―業界有名人に“今日の戦いと明日”を聞いた
第4章 CM取り引き戦争(視聴率売買) 1997年―TVのCM取り引きはブラックボックス
第5章 未来は多メディア戦争―キー局の横並び戦略が瓦解し、サバイバルが始まった [在庫僅少]

[BOOK著者紹介情報]
小池正春[コイケマサハル]
1953年生まれ。新潟県出身。国学院大学文学部卒業。75年、高校教員となり、組合活動、差別問題と取り組む。79年に民間教育団体東大教育研究所に転職。86年、ライターとして独立し、放送の専門ライターを志向する。TV出演、講演活動でも活躍中

 以上のような経歴で、「ライターとして独立し、放送の専門ライターを志向する」というのだから、上記のような参考資料作成の結果は、信頼しても良いであろう。

 私は、別途、この報告を土台にして、「問題点」を考えるが、まずは、広く紹介して置く。

 以上。


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